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【MaaS編】MaaSって何?(全7章)

MaaS編 連載記事
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第1章 マイカーを所有するためのコスト

今回から新シリーズ「MaaS編」開始です。今回のシリーズでは、今回の連載記事では話題となっているMaaSとは何なのか?MaaSによってどのようなサービスが提供され、社会はどのように変わっていくのかを書いてみました。

マイカーを使っている時間

今回から新シリーズ「MaaS編」開始です。

内山:「早速ですが、MaaSって何ですか?」

MaaSが何なのか説明する前にまずは質問です。内山さん自家用車持っていましたよね?

内山:「はい。持ってますよ」

その自家用車ですが、日々何時間ぐらい使っていますか?

内山:「大体ですけど、平日は通勤で1時間ぐらい。休日は1日1.5時間ぐらいですかね…」

そうすると、ざっくり計算して月34時間くらいですね(平日1時間×22日+休日1.5時間×8日)。岡崎さんも同じぐらいですか?

岡崎:「そうだな。俺は通勤時間が内山君より少ないから平日利用時間はもう少し少ないけど、ほぼ同じくらいじゃないかな」

自動車の所有コスト

車両の購入費

では、次の質問ですが、自動車を所有するには毎月どれくらいのお金が掛かっているでしょうか?内山さん。今乗っている車はいくらで買いましたか?

内山:「280万円ぐらいですかね」

岡崎:「俺は…」

岡崎さんの車の値段は聞いても参考にならないので、教えてくれなくても大丈夫です。

岡崎:「何でだよ?」

だって、ブガッティ・ヴェイロンに乗っているんですよね?

岡崎:「乗ってねーよ!どうやったらあんな車買えるんだよ!!」

大富豪の岡崎さんならそれくらい楽勝で買えると思うんですけど…。まあ、いいや、ランボルギーニにでも乗っているということにしておきましょう。

話を元に戻しますね。内山さんは250万円で車を買ったわけですが、その車は何年くらい乗りますか?

内山:「7年くらいですかね」

そうすると、年間コストは36万円弱ということですね。月にすると3万円です。

車検・税金・メンテナンス費

次に、車検や税金、メンテナンスに掛かる費用を計算してみましょう。まず車検ですが、7年目の車検前に買い替えるとすると、車検は2回です。車検費用が1回12万とすると12万円×2回で24万円掛かることになりますね。自動車税は年間3.6万円ぐらいですか?

内山:「まあ、それくらいですかね」

では、車検・税金は月額約0.6万円ですね。

メンテナンスは何とも言えないですけど、消耗品の交換、点検、洗車費用等々含めて年間5万円くらいとしておきましょう。月額換算すると、約0.4万円です

駐車場・ガソリン代・自動車保険

日々使うガソリン代と駐車場代も計算してみましょう。駐車場代は毎月いくら払っていますか?

内山:「7千円くらいですかね」

地方は駐車場代が安くていいですね。続いてガソリン代ですが、これは1か月の運転時間から計算してみましょう。先ほど内山さんの月間の運転時間は34時間という話でしたので、この数字をベースに計算してみます。

まず、車を運転しているときの平均速度を約30km/hと見積ります。そうすると、月間では34時間×30km/h=1020kmです。計算が面倒なので1,000kmとします。燃費は12L/kmとしましょう。すると、ひと月に使うガソリンは83Lです。レギュラーガソリンが今は約140円/Lなので1か月のガソリン代は約12,000円です。ガソリン代に関しては変動が大きいですが、今回は1.2万円で計算します。

最後は自動車保険です。これはざっくり月額0.7万円としておきます。

車の維持費

では、内山さんの車の所有に掛かる月間のコストを計算してみます。

購入費:3万円
車検・税金・メンテナンス代:1万円
駐車場・ガソリン・保険代:2.6万円
合計:6.6万円

かなり概算ですが、内山さんの車の維持費は月間6.6万円程度と出ました。

マイカーのコストパフォーマンス

長々と書きましたがここからが今回の本題です。ここまで内山さんの月間の車を使う時間と所有コストの計算をしてきたわけですが、この2つの関係を見てどう思いますか?

内山:「薄々気が付いていましたけどコスパ悪いですよね」

岡崎:「月に34時間しか使っていないものに7万弱使ってるからな」

そうです。月34時間というのは私たちが1か月に使える時間の5%弱です(34時間÷24時間×30日)。一方、内山さんの月の収入を50万円と仮定すると、6.6万円はそのうちの13%です。内山さんは一応中小企業の社長という設定なので、実際はもっと収入があると思いますけど。

内山:「僕の収入の話は止めて下さい。でも、こうやって比較するとやっぱりコスパが良いとは言えないですね」

ですよね。そんなコスパの悪いものにお金を掛けるくらいなら、別のことにお金を使った方が良いと思いますがどうでしょう?例えば、趣味や旅行にお金を使ったり、家にお金を使った方が良いと思いますが。

岡崎:「そうは言うけど、実際車が無かったら生活困るだろ?特に地方は車が無いと移動が出来ないんだよ」

そうです。問題はそこです。みんな自家用車にはお金が掛かることを認識しながらも、今までは自家用車を使う以外に移動する方法が無いから、コスパの悪さを受け入れていました。しかし、もし自家用車が無くても便利に移動出来る方法が出来たとしたらどうでしょう?

内山:「そんな方法があるんですか?」

それが、「MaaS」です。

MaaSとは?

MaaSとは(Mobility As A Service)の略称で、移動手段をサービスとして利用することの総称です。これまでの自家用車のように移動手段を各自が「所有」するのではなくて、使いたいときに使いたい分だけ「利用」出来るようなサービスを提供しようとする動きのことです。

内山:「所有から利用?」

コンピューターソフトや音楽業界に起きた動きに例えると分かり易いです。例えば、ソフトウェアは何年か前まではソフトウェアを買って使うことが一般的でした。それが今では多くのソフトウェアはクラウドサービスを利用することで使えるようになりました。音楽は昔はCDを買って聞くものでしたが、今では配信サービスを使えば聞きたいときに聞きたい音楽を聞くことが出来ます。これと同じことを交通分野で起こそうとするのがMaaSです。

岡崎:「なるほど。で、具体的にはどんなサービスが提供されるんだ?」

それについてはこれからこのシリーズの中で順次説明していきますので、お楽しみに!


第2章 MaaSで提供されるサービス 配車サービス・乗り合いタクシー

さて、今回からはMaaSで提供されるサービスについて説明をしていこうと思っていますが、その前に少し確認しておきたいことがあります。

ラスト・ワン・マイル問題

前回、自家用車に掛かるコストを計算して、「コスパが悪い」という話になりました。ただ、コスパが悪いということは分かっていながらも、特に地方の場合は「足が無いから車を持たざるを得ない」という話にもなりました。ここで一つ疑問ですが、本当に地方に住んでいる人は車以外の移動手段が無いのでしょうか?

岡崎:「えっと、実はあるにはあるんだよ。電車も走ってるし、バスもあるからな…」

ですよね?本数は少ないにしても、大抵の街には電車やバスなどの公共交通機関があります。自家用車以外の移動手段はあるんです。だとしたら、自家用車ではなくそれらの手段を利用して移動をすれば良いと思いますがどうでしょう?

内山:「言っていることは分かるんですけど、公共交通機関を使うのって面倒だったりするんですよね…」

ほう?それはなぜ?

岡崎:「駅やバス停まで移動しなきゃいけないだろ?歩いていくことも出来なくはないけど、時間が掛かるし、疲れるしで面倒なんだよ」

そうです。今の社会の問題点はそこです。公共交通機関があるにも関わらず、そこまで行くための手段が無いから私たちは自家用車を使わなければいけないんです。実際私も駅まで行って電車で移動すれば車を使わなくてもいいのですが、自宅から駅まで1.5kmぐらいあるので、電車で行ける場所であってもついつい車を使ってしまいます。
そして、この駅やバス停から目的地まで移動するための適当な手段が無いという問題のことを、「ラスト・ワン・マイル問題」と言います。

内山:「ラスト・ワン・マイル?」

1マイルはおおよそ1.6kmです。歩けなくはないけど、歩くのはちょっと面倒な距離ですよね。私たちはこの1マイルを移動するための適当な手段が無いから自家用車に頼らなければならないんです。逆に言ってしまえば、ラスト・ワン・マイルの移動が便利になれば、私たちは自家用車に頼らなくても済みます。そして、MaaSで提供されるサービスの多くはこのラスト・ワン・マイルの移動を便利にすることを目的としています。

では、具体的にどのようなサービスが提供されようとしているのかを見ていきましょう。

配車サービス

岡崎さんと内山さんはラスト・ワン・マイルを移動するときに、自家用車が使えないとしたらどんな方法で移動していますか?

岡崎:「大抵はタクシーだな」

内山:「僕もそうですね」

なるほど。では、2人とも明日から自家用車を使うのを止めて駅までタクシーで移動して、そこから電車で移動するということをしてみてはどうですか?自家用車要らなくなるかもしれないですよ?

岡崎:「そう簡単にはいかないんだよ。タクシーってそれなりにお金掛かるし、捕まらないこともあるからな」

ですよね。便利なようで色々な制約があって手軽に使いづらいというのが今のタクシーです。でも、MaaSではタクシーよりも手軽に使えるサービスが提供されます。それが「配車サービス」です。日本ではまだ提供されていませんが、海外では一般的になっていますね。

岡崎:「ウーバーやリフトが有名だな」

内山:「配車サービスと従来のタクシーって何が違うんですか?」

まずは捕まえやすさが違いますね。配車サービスはマッチングシステムが優れているので、一番近くにいる車をすぐに呼んでくれて、待ち時間無く乗れます。社内で決済も無いのでスムーズに乗り降り出来ます。あと、料金も安いと言われていますね。

サブスクで「半径〇〇km以内なら定額で乗り放題」みたいなサービスが提供されるとすごく便利です。ただ、日本だと白タク問題があるので、このあたりを何とかして欲しいところです。

デマンド型乗り合いタクシー

タクシーの料金が気になるなら「デマンド型乗り合いタクシー」というサービスもありです。

岡崎:「同じ方向に行く人たちが同じタクシーに乗って移動するってことだな」

乗り合いタクシーならタクシーよりも低料金で利用出来るので経済的な負担は軽くなります。

内山:「デマンド型というのはどういうことですか?」

実は乗り合いタクシー自体は前からあるんです。私たちはコミュニティー・バスと呼んだりしていますが。デマンド型というのはそれとは違って、利用者のニーズに応じて、指定時間に指定場所に来てくれたり、停留所以外の任意の場所で乗り降り出来るものを指します。配車サービスの大型版といった感じですかね。

岡崎:「ある程度まとまった人数で移動するときは便利かもな」

高齢者の方には人気が出るかもしれません。アプリでウーバーを使いこなすおじいちゃん・おばあちゃんが増えてもかっこいいと思いますが、現実問題としてそれは難しいと思うので、高齢者の型が利用する施設、例えば病院や公共施設でデマンド型乗り合いバスを手配出来るようにして、それを利用してもらうといった運用が出来るようになると良いのかもしれません。

ということで、今回はMaaSで提供されるサービスとして配車サービスと乗り合いサービスの話をしました。次はもっと自由に移動手段を使いたいという方向けのサービス「シェアリングサービス」の話をしたいと思います。


第3章 MaaSで提供されるサービス その2 シェアリングサービス

第3章で配車サービスや乗り合いタクシーがラスト・ワン・マイル問題を解決する手段として提供されるという話をしましたが、今回はもう1つの主要なサービスの話をします。

内山:「それは何ですか?」

必要なときに必要な車を

「シェアリングサービス」です。カーシェアリングが分かり易いですね。

岡崎:「数年前から増えてきたよな。都市部だとコインパーキングとかに専用スペースあるもんな」

内山:「だけど、レンタカーとカーシェアリングってどう違うんですかね?」

最大の違いは短い時間でも利用出来るってことですかね。レンタカーは半日単位とかでしか借りられないですけど、カーシェアリングだと30分という短い時間でも借りることが出来ます。だから、「ちょっとお買い物」とか「送り迎え」といったことにも使いやすい仕組みになっています。

岡崎:「なるほど。ちょっと車を使いたい時に便利なサービスなんだな」

ただ、月額料金が固定費として掛かってきますけどね。でも、車を保有するコストに比べたら安いかもしれません。実際に某地方都市に住んでいる私の知り合いは、「車を持つよりもカーシェアリング使った方が得だ」ということで、自家用車を手放して車が必要なときはカーシェアリングを使うという生活に切り替えました。

自動車以外のシェアリングサービス

シェアリングサービスというと一般的には自動車を思い浮かべると思いますが、実は自動車以外のシェアリングサービスもあったりします。

内山:「自動車以外?他に何を貸すんですか?」

サイクルシェアリング

自動車以外のシェアリングサービスとして「自転車」のシェアリングサービスである「サイクルシェアリング」なんていうものもあります。仕組みはカーシェアリングと同じイメージです。

岡崎:「自転車のシェアリングは便利そうだな」

そうですね。駅から少し距離があるような場所に行くときは活躍してくれそうです。コンビニで借りられるサービスもあるので、もっと普及してくれると便利になります。

キックボードシェアリング

変わったところでは電動キックボードのシェアリングサービスなんていうものもあります。

岡崎:「電動キックボード?そんなの何に使うの?乗って遊ぶのか??」

いやいや、立派な移動手段です。日本だと法律の関係でこれまでは公道を走れなかったですけど、海外だと結構使われています。私も海外に行ったときにおじさんがキックボードに乗っているのを見て最初は「いい歳したおっさんが何遊んでるんだ?」と思いましたが、違いました。

内山:「キックボードって便利なんですかね?」

うーん。使ったことが無いので何とも言えませんが、短距離の移動だったら便利なんじゃないですかね?これから各地で実証実験するようなので使える機会があれば使ってみたいですね。


第4章 MaaSで提供されるサービス その3 プラットフォーム

前回まで「配車サービス」や「シェアリングサービス」など、MaaSで提供されるサービスについての話をしてきましたが、実はこれらのようなハードを提供するサービスだけではMaaSの真価は発揮出来ません。MaaSがその力を発揮するためにはもう一つ重要なサービスが必要です。

MaaSプラットフォームで移動手段のパッケージを提案

さて、前回まで配車サービスやシェアリングサービスなど、所謂ハード面のサービスについて紹介をしてきたわけですが、MaaSはこれらのサービスだけでは成り立ちません。もう一つ重要なサービスが必要です。

内山:「その、重要なサービスって何ですか?」

「MaaS統合プラットフォーム」です。配車サービスやシェアリングサービスを利用するためのアプリと言ったほうが分かり易いかもしれませんね。プラットフォームのイメージはこうです…

まず、スマホなどで行きたい目的地を入力します。すると、そこまでの経路といくつかの移動手段とそれらを使用した場合の所要時間、料金が提示されます。「自宅からA駅までは配車サービスを利用。A駅からB駅までは電車。B駅から目的地まではシェアサイクルを利用した場合、料金は〇〇円。所要時間は〇〇分」といった感じですね。

このときプラットフォームは所要時間だけでなく、混雑状況なども考慮した最適な方法を提案してくれます。例えば、「道路が渋滞しているから、配車サービスではなくシェアサイクルを利用した方が良い」とか「駅前A店のシェアサイクルは利用中だから、自転車は空きがあるB店で利用した方が良い」といった具合です。

岡崎:「そこまで提案してくれたら便利だな」

ユーザーの属性や移動の目的なども考慮してくれるとさらに良いですね。妊婦さんや高齢者の方だったり、買い物帰りの利用だったら車を利用するサービスを提案するとか。

そして、提示された移動手段の中から実際に使いたい方法を選んだら、アプリで決済します。実際に移動手段を利用するときはアプリを見せるだけです。サブスクの月額プランにしておけば、いちいち決済する必要もありません。

MaaSの主要プレイヤー

このように移動手段をパッケージで提案してくれるプラットフォームが普及すればMaaSは真価を発揮出来ると思います。

内山:「なるほど」

ですから、私はこのようなプラットフォームを提供出来る企業が影響力の面でも収益性の面でもMaaSの主要プレイヤーになると思っています。

岡崎:「プラットフォームが提供されれば移動手段の提供から決済までワンストップで出来るようになるわけだからな。そこを握っている企業の影響力は大きいな」

内山:「だけど、どんな企業がプラットフォーマーになるんですかね?」

MaaSのプラットフォーマーになる可能性がある企業

そうですね…。可能性があるのはまずはGAFAのようなメガプラットフォーマーですかね。彼らは膨大なデータとその処理技術を持っていますからね。既存のプラットフォームと連携させてくる可能性もあります。

岡崎:「『OKグーグル。ここから〇〇まで行きたい』と言ったら、目的地までの移動手段を手配してくれたりするとか?」

そうです。アレクサーやSiriも同じことをしてくれるかもしれません。メガプラットフォーマー以外には自動車関連の会社も参入してきますね。自動車に関する技術に関しては優位性があるわけですし、MaaSで自家用車の需要が減ったら一番影響を受けるのは彼らですからね。将来を考えるなら自動車を所有させるビジネスモデルから利用させるビジネスモデルへと転換を図っておかなければいけません。

内山:「実際にトヨタは動いていますね」

そうですね。静岡県の富士裾野に実験都市を作ったり、ソフトバンクと合弁会社を作ったりしていますからね。彼らも今後の社会変化を見据えて色々と模索中だと思います。

他にも鉄道などの交通関係の企業が参入する可能性もあります。彼らは人の移動に関してはプロですからね。上手くやれば自動車分野から人の移動に関する需要を取り込めるかもしれません。

内山:「確かにそうですね。鉄道分野ではどこか動いているところはあるんですか?」

日本だと小田急とJR東日本がMaaS実証実験をしています。鉄道会社は本業の鉄道以外にも商業施設や観光施設も持っていますから、それらも組み合わせたら面白いものが出来るかもしれませんね。

あとは通信インフラを握っている通信系の会社も絡んでくるでしょうし、全く新しいスタートアップなどが出てくる可能性も十分にあります。

岡崎:「現時点ではどこが覇権を握るのかは分からないな」

そうですね。プレイヤーとしてどこかの企業が単独でやるのか、それとも複数の企業が合従連衡を組むのかも分からないですし。まあ、個人的には各分野の企業が集まって合従連衡を組む可能性が高いと思っていますけどね。

内山:「いずれにせよ、これからのニュースは要チェックですね」


第5章 MaaSが生まれた背景

さて、ここまでの内容でMaaSがどのようなものなのかというイメージはつかめたと思うので、今回はMaaSが生まれることになった背景について考えてみたいと思います。

内山:「どうしてMaaSというサービスが提供出来るようになったのかは知っておきたいですね」

MaaSを可能にしたテクノロジー

MaaSが生まれることになった背景としては技術的な側面と、社会的な側面があると思いますが、まずは技術的な側面について考えていきたいと思います。

岡崎:「技術的な側面についてはデータ処理技術が進歩した影響が大きいよな」

そうですね。MaaSを運用するためには移動に関するデータを収集・共有するためのIoT。収集した技術を蓄積するビッグデータ。蓄積したデータを解析して最適な提案を行うためのAI。そして、それらを運用するインフラとなる5Gなどの通信技術が必要不可欠です。

内山:「どれもここ10年くらいで話題になった技術ですね」

他にも決済の技術など細かい技術はありますが、かなり専門的な話になってくるので、興味がある方はご自分で調べてみて下さい。

いずれにせよ、これらの技術が十分実用化されたことで、前回説明したようなプラットフォームを構築することが可能になり、あらゆる移動方法を統合して運用することが出来るようになりました。逆に言ってしまえば、これらの技術が無かったらMaaSは構想段階で止まってしまい、実現までは至らなかったと思います。

所有から利用の社会へ

次に社会的な側面についてですが、こちらについてはモノに対する価値観が「所有から利用」に変わりつつある影響が大きいと思います。

岡崎:「第1回目でもその話には触れていたな」

はい。ソフトウェアや音楽を例に出して少し説明しましたね。恐らくこのような価値観の変化が無かったら技術的にMaaSが可能になってもそれが注目されることは無かったと思います。

もし、「自動車は自分で所有するもの」という価値観のままであれば、いくらMaaSのメリットを主張しても「何それ?何でそんなものを使わないといけないの?」となって注目はされなかったと思うので、この社会的な変化の影響は大きいですね。

内山:「今後のMaaSが普及する鍵はどれだけの人がその価値観の変化を受け入れるかということに掛かっていそうですね?」

そうですね。所有から利用という価値観を受け入れる層が多い社会ではMaaSは普及する可能性は高いと思いますし、そうでない社会の場合はあまり普及しないかもしれません。そういう意味で言えば、今後MaaSを普及させていきたいのであれば、技術的な面だけでなく、社会的な面でも変化を起こしていく必要があると思います。


第6章 MaaSで自動車業界はこう変わる?

今回は私の独断と偏見でMaaSが普及した場合に自動車業界はどうなるのか?ということを考えていきたいと思います。

自動車販売台数の減少

まず、MaaSが普及した場合、これまでよりマイカーの需要は減ると思います。つまり、これまでのように車が売れなくなるってことです。

岡崎:「まあ、マイカーが無くても移動手段が確保出来るわけだから当然そうなるな」

内山:「無理をして車を保有する必要が無くなりますからね」

とは言っても、いきなり全体の需要が一気に減るわけではなくて、特定のセグメントから徐々に減っていくものと考えられます。

岡崎:「特定のセグメントとは?」

まずは都市部に住む人たちですね。都市部は自動車を保有するコストが高いですし、自家用車で移動するにはストレスが大きいので、もし代替の移動手段が現れたらそちらを利用する人が増える可能性が高いです。

内山:「確かに都市部はマイカーを持つ必要性を感じなくなって手放す人増えるかもしれませんね」

年齢層で考えると若年層の需要も減りそうです。今でも「若者の自動車離れ」なんて言っていますけど、今後この傾向は無くなるどころか、MaaSが普及したら加速すると思いますよ。

岡崎:「若い人はものを所有することに対するこだわりが少なそうだからな」

そうです。彼らは既に「利用」の文化の中で育っているので、抵抗感なく「車は持たない」という判断をしてくると思います。

繰り返しになりますが、このような需要の減少は突然来るのではなく、徐々に徐々に起こると思われます。少しずつ販売台数が減って行って、気が付いたら全体の市場が小さくなっていたということになるかもしれません。

移動手段+αの価値を

内山:「市場は小さくなるんですね。何か先行き不安だなぁ」

自動車が単なる「移動手段」としての価値のみを提供するのであれば、MaaSに代替される可能性は高いでしょうね。ただ、裏を返せば「移動手段+α」の価値が提供出来るのであれば、話は変わってきます。

岡崎:「移動手段+αの価値かぁ」

例えば、移動手段ではなく「ステータス」を提供するメルセデスベンツやBMWなどの高級車。「走る楽しさ」を提供するスポーツカーなどはMaaSが普及しても買う人は買うと思います。

実際に二輪車の分野では「移動手段」として使われる原付バイクは販売台数が減少していますが、「趣味の乗り物」として使われることが多い50cc超のバイクはそこまで減少しているわけではありません。

岡崎:「確かに所有することによって得られる価値もあるからな」

問題はその価値をどう提供して、どう訴求していくかってことですけどね。いずれにせよ、これまで以上に売れる車と売れない車の差は大きくなってくると思います。そういう意味では、自動車業界に関わる会社さんは自分たちがどんな車に関わっているのかということはしっかりと認識しておいた方が良いですね。

新興国や発展途上国の市場はどうなる?

内山:「だけど、MaaSの影響を受けるのって先進国の話ですよね?新興国や発展途上国だったらまだ車は売れますよね?」

うーん。どうでしょうか…。もしかしたら新興国や発展途上国の市場の方が影響を受けるかもしれませんよ。

内山:「え?何で??」

岡崎:「新興国や発展途上国は相対的に車を保有する経済的負担がまだまだ大きいからだろ?」

そういうことです。国によって違いはあると思いますが、自家用車は高級品です。とは言っても、発展に伴って移動のニーズは増加しています。もしそういうところにMaaSが持ち込まれれば人々は車を買うよりも利用するという選択を進んですると思います。

内山:「なるほど…。安穏とはしていられないってことですね」


第7章 MaaSで社会はこう変わる?

全7回に渡ってお伝えしてきた連載記事MaaS編ですが、今回で最終回です。今回は社会全体がどうなるのか?ということを考えていきたいと思います。

自家用車を手放すメリット

MaaSが普及すると自家用車を保有する必要が無くなるわけですが、自動車を保有しなくなると、経済的に結構な余裕が出来ます。

岡崎:「自家用車を持つことって思いのほか経済的負担が掛かるからな」

内山:「車を持っていると年間で数十万お金が掛かりますからね。この分のお金を他に使えると思うと魅力的です」

車の運転に時間を取られないってことも大きなメリットです。私自身がそうですが、車を運転している時間って他のことは何も出来なくなるので勿体ないんですよね。

内山:「それ分かります。ただ移動のためだけに車を運転しているだけの時間って無駄だなって思いますよね」

岡崎:「細かい話だけど、洗車したりガソリン入れに行ったりする時間も取られるしな。意外と車に費やしている時間って多いんだよな」

今の私たちの社会は自家用車に依存しているが故に、そこにお金や時間を使い過ぎている気がします。だけど、もし自家用車に依存しなくて済む社会になれば、そのお金や時間を他のことに使えて、生活が豊かになると思います。かっこいい言葉で言えば、時間やお金を生活を豊かにするために最適化出来るってことですね。

高齢者に優しい社会

MaaSが普及すれば高齢者にも優しい社会になると思います。高齢ドライバーのことが社会問題になっていますけど、この問題もMaaSが普及すれば解決するんじゃないかと思います。

私は高齢ドライバー問題の本質は「高齢者の方も運転せざるを得ない環境」にあると思っています。自家用車以外の移動手段が提供されないから無理して運転してしまうんです。

岡崎:「確かに、危ないとは分かっていても車しか移動手段が無いんだったら、多少無理しても運転してしまうかもな…」

だとしたら、高齢者の方が便利に利用出来る移動手段を提供してあげるべきです。そうすれば、無理をして運転する人も減って、高齢ドライバー問題は解決するはずです。

「モビリティーサービス」という巨大産業の誕生

MaaSが普及することによって「モビリティーサービス」という新たな産業も誕生するでしょう。この産業は「移動」をキーワードにして、自動車・鉄道・バス/タクシー・IT・通信・公共サービスを巻き込んだものになるはずです。

新たな産業の登場はビジネスチャンスにもなります。もしかしたらMaaS専用車のような車が作られるかもしれませんし、街の自転車屋さんがMaaSのネットワークに参加してレンタルサイクルを始めることも可能かもしれません。第3回で紹介したキックボードが普及すればキックボードを生産するメーカーはチャンスです。

岡崎:「MaaSプラットフォームの中で自分のお店を紹介してもらうなんてことも出来るかもな」

内山:「『移動経路上のおすすめのお店』みたいな感じで紹介してもらえると嬉しいですね」

他にもMaaSによって人の流れが変わることで、新しい販路が開けるなどのビジネスチャンスもあるかもしれません。MaaS自体はまだまだ実証実験段階なので、どこでどのようなサービスがどのような形で展開されるかはまだ分かりませんが、新しい産業が生まれるときにはそれまで予想出来なかったようなビジネスチャンスが生まれるものです。これからMaaSに関心を持って情報をキャッチすると、思わぬビジネスチャンスをつかむことに繋がるかもしれません。

ということで、MaaS編は以上で終了です。MaaSに関しては様々なレポートなども出ているので関心のある方は調べてみて下さい。


参考資料

MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ MaaSシリーズ