【サウスウエスト航空】航空業界の異端児(全7章)

サウスウエスト航空編 連載記事

第5章 機内食が無い、ファーストクラスも無い

前回はサウスウエスト航空はコストを削減するためにチケットと搭乗券を廃止したということをお伝えしました。しかし、サウスウエスト航空のコスト削減策はこれだけに留まりません。一般的な航空会社では「あって当然」とされた機内サービスもサウスウエスト航空は無くしてしまいました。

機内食が無い

内山さん。内山さんは飛行機に乗るときに楽しみにしていることはありますか?

内山:「僕は機内で映画を見るのを楽しみにしていたりしますね」

岡崎:「俺はCAさんを見るのが楽しみ」

別に岡崎さんには聞いていません…。内山さんは他にはどうですか?

内山:「そうですね~。機内食も楽しみにしていますね。航空会社によって特色があったりしますから」

なるほど。そうなってくると内山さんがサウスウエスト航空に乗ると少し残念な気持ちになってしまうかもしれないですね。

内山:「え?何で??」

岡崎:「サウスウエスト航空には機内食というものが無いんだよ」

そうです。サウスウエスト航空には機内食というものが存在しません。厳密に言うとスナックは出ますが、一般的な航空会社で出されるような機内食は出されません。

内山:「どうして機内食を出さないんですか?」

岡崎:「機内食のサービスを提供するのって結構コストが掛かるんだよ。食費はもちろん機内で温めたりしないといけないから手間も掛かる」

それに食事を保管したり、温めたりする設備やスペースも必要になりますからね。だとしたら、機内食を提供するために使うスペースを座席にしてしまった方が良いとサウスウエスト航空は考えたようです。

ファーストクラスもビジネスクラスも無い

サウスウエスト航空には他にも無いものがあります。それがファーストクラスです。

内山:「ファーストクラスというのは『選ばれし者のみが利用できる』と言われているあの伝説の席のことですか?」

岡崎:「そう。ちなみに、ビジネスクラスも無いよ」

内山:「ファーストクラスやビジネスクラスが無いのもコスト削減のためですか?」

そうです。特別なサービスや座席を用意しなければいけないですからね。

内山:「だけど、ファーストクラスやビジネスクラスは高い運賃が取れるんだからそれなりに利益にはなりそうな気がするんですけど…」

会社のイメージの問題もあると思います。「安くて庶民的」といったイメージのサウスウエスト航空にファーストクラスがあるのもおかしな話ですからね。

こんなに簡素化してサービスは大丈夫なのか?

内山:「なるほど。だけど、すごく気になっていることがあるんですけど、サウスウエスト航空ってレシートをチケット代わりにしたり、搭乗券を使いまわしたり、機内食が無かったりしてサービスが凄く簡素化されているんですけど、それでサービスは大丈夫なんですか?安かろう悪かろうじゃないんですか??」

岡崎:「まあ、普通はそうなるわな…。だけど、そうじゃないのがサウスウエストの凄さ」

実は、これだけサービスを簡素化してもサウスウエスト航空の顧客満足度は凄く高いです。「また乗りたい!」という人が多いみたいです。その秘密は他社には無い特別な機内サービスにあります。

第6章 お金を掛けずに顧客満足度を上げろ

サウスウエスト航空は機内食無し、指定席無し、ファーストクラスやビジネスクラス無しでサービスが簡素化されていますが、それでもかなり高い顧客満足度を得ています。今回は高い顧客満足度を生み出しているサウスウエスト航空のユニークな機内サービスがテーマです。

機内アナウンスで乗客を楽しませろ

低価格を実現するために、サービスを簡素化しているサウスウエスト航空ですが、その顧客満足度は高く、過去に何度も北米エアラインの顧客満足度調査でLCC部門1位を取っています。

内山:「サービスを簡素化しているのに何で顧客満足度が高いんだろう?」

サウスウエスト航空が高い顧客満足度を得ている秘密の一つにユニークな機内アナウンスがあります。YouTubeに面白い動画が上がっていたので紹介します。

内山:「え?何これ???」

岡崎:「『本職のラッパーか?』っていうぐらい上手いよな」

内山:「サウスウエストではラップで機内アナウンスするんですか?」

いや、たまたまこの人がラップでアナウンスしていただけで、全員がラップで機内アナウンスするわけじゃないと思いますが、このようなユニークなというかふざけた機内アナウンスがサウスウエスト航空の名物です。他にもこんなものもあります。

もし1、2分ご清聴頂けるようでしたら、ぜひともこれから安全上の手続きをご説明したいと思います。65年以来一度も車に乗られたことのないお客様、シートベルトの平らな方をもう一方のバックルに差し込むのが正しい締め方です。外すときはバックルを上に押し上げて下さい。

また、歌によりますと恋人と別れる方法は50通りもあるそうですが、この飛行機と別れる方法は6通りしかありません。2つは前部の出口、2つは翼の上の可動式の窓、それに後部の2つの出口です。それぞれの出口の位置は、頭上のサインと、通路の床に点滅する赤と白のディスコ・ライトで示してあります。

それではお客様の前の座席の背のポケット、ラウンジエリアにいらっしゃる方は座席の横のポケットをご覧ください。ピーナッツの包み紙、コーヒーカップや新聞に紛れて、緊急時にどうするか詳しく説明したカードがございます。その裏表紙をご覧いただくと、海上脱出の際には、お客様のお尻……の下の座席の底が浮き輪になると書いてあります。クッションを外し、裏側についているストラップをしっかりつかんで、クロールでも平泳ぎでもご勝手になさって下さい。

今度はシートベルトがしっかり締められているか、座席の背中とトレーのテーブルがまっすぐ、かつ最も居心地の悪い位置にあるか、そして持ち込まれたお荷物が、前の座席の下か座席の上の棚にぎゅうぎゅうに突っ込まれているか、ご確認くださいませ。連邦航空局の規則で、乗客の皆様は乗客向けの表示ランプ、掲示物、それに乗務員の指示に従わなければならないことになっております。つまり、私たちの言うとおりにするんですよ!

喫煙については、当社のフライトはすべて絶対禁煙になっております。もしお客様が喫煙していらっしゃるのが見つかったらどうなるか、ご存じですね?翼の上に出ていただき、そこで当社のとっておきの映画『風と共に去りぬ』をお楽しみ頂くことになっています。全面禁煙トイレの中でも禁煙をお願いいたします。

最後にもう一つ。客室内で気圧が変わることはないと思いますが、万一そうなりましたら、酸素マスクが4つお客様の頭上から現れます。即座に絶叫するのをやめてコインを入れ、酸素を吸いこんで下さい。昔のクリントン大統領のように、吸い込まないのはいけませんよ。
もしお隣がお子さんだったり、お子さんのような行動をしている大人の方でしたら、まずご自分にマスクをつけてからお隣さんを助けて下さい。そして制服着用の客室乗務員に言われるまで、マスクは外さないで下さい。そう、これでも私たち、制服を着てるんですよ。念のため申し上げておきますと、バッグは膨らみませんが酸素はちゃんと出ています。それではゆっくりくつろいで、サンディエゴまでの1時間、宇宙で一番の航空会社-サウスウエスト航空のフライトをお楽しみ下さいませ。

お客様に『破天荒なサービス』 を提供できますよう、私たちサウスウエスト航空は日々努めてまいります。

(引用元:『破天荒 サウスウエスト航空驚愕の経営』ケビン&ジャッキー・フライバーグ著 1997年日経BP社)

内山:「結構きわどいジョークをぶち込んできますね。『昔のクリントン大統領のように…』とかアウトだと思うんですけど…」

でも、面白いですよね?

内山:「はい。こんなアナウンスが聞けると思うと乗るのが楽しみになりますね」

お金を掛けずに工夫して顧客満足度を上げる

岡崎:「この機内アナウンス目当てでサウスウエスト航空を利用する人も多いみたい。ある種のショーだからな。で、注目すべきは、このサービスにはお金が全く掛かっていないってことだな」

内山:「そうか。別に芸人が話しているわけじゃなくて、客室乗務員がやっているんですもんね」

お金を掛けていないことも注目すべきですが、「機内アナウンス」という事務的作業をサービス化・エンターテイメント化してしまった発想も凄いですよね。「利用出来るものは常識に囚われずに何でも利用してやろう」というサウスウエスト航空の貪欲な姿勢が感じられます。

内山:「サウスウエスト航空は常識に囚われない発想と創意工夫で『お金を掛けなくても工夫次第で顧客満足度は上げることが出来るんだぞ!』ってことを証明してみせましたね。

それに、このようなサービスであれば他社がまねをしようとしても簡単にはまねが出来ないですからね。差別化をするという意味でも非常に有効だと思います。

徹底的にやり切るから許される

内山:「だけど、面白いとは言っても、こんなアナウンスしていたらクレームも出るんじゃないですか?」

岡崎:「そりゃ不愉快な思いをする人もいるだろうね。だけど、ここまで徹底的にやり切られたら逆に『おかしな会社だからしょうがない…』って割り切れない?」

内山:「確かにそうですね。最初は戸惑っても、ここまでやられたら『楽しんでやろう』って思うかも…。もしそうじゃなかったとしても『こんな会社の飛行機に乗った自分が悪い』って変な納得をしてしまうかもしれないですね」

恐らくサウスウエスト航空が中途半端にこんな機内アナウンスをしていたらクレームの嵐になって、顧客満足度は低くなっていたでしょうね。正直、こんな機内アナウンスをするのは会社としても乗務員個人としても相当な覚悟がいると思うんです。だけど、会社も乗務員も腹を括って本気でやったから、それが評価されて高い顧客満足度に繋がった。

そういう意味では、サウスウエスト航空の高い顧客満足度は会社と従業員のやり切る覚悟の報酬として得られたものなのかもしれませんね。

第7章 ダラスの対決

常識に捕らわれることのない発想と創意工夫でコストの削減と高い顧客満足を実現してきたサウスウエスト航空ですが、広告宣伝活動も一風変わっています。今回はサウスウエスト航空の奇想天外な広告宣伝活動がテーマです。

キャッチコピーを巡る争い ダラスの対決

1992年のことですが、サウスウエスト航空がとある会社と宣伝のキャッチコピーを巡って争ったことがあります。

内山:「『どっちの会社にキャッチコピーを使う権利があるか?』みたいな話ですか?」

そうです。まあ、よくある話です。普通はこういう場合、アメリカの会社であれば「裁判をして白黒つけよう!」となるのですが、サウスウエスト航空の場合はそうはしませんでした。

岡崎:「裁判となると時間も費用も掛かるからな…」

裁判に掛ける時間と費用が無駄だと考えたサウスウエスト航空は誰も考えつかないような奇想天外な方法でこの問題に決着を付けることにしました。

内山:「どうやって決着を付けたんですか?」

岡崎:「腕相撲で決着を付けた」

内山:「はい?何??」

岡崎:「だから、腕相撲で決着を付けたんだよ。アームレスリングやったの!」

内山:「それ、マジですか?」

マジです。キャッチコピーの使用権を賭けてサウスウエスト航空の社長と、争っている会社の代表が出てきて腕相撲をしました。

内山:「腕相撲で決着を付けるって、頭おかしいですね」

まあ、そうですね。確かに頭おかしいです。でもそれをやってしまうのがサウスウエスト航空という会社です。

内山:「ちなみに結果はどうなったんですか?」

岡崎:「サウスウエストの負け。だけど、相手が『キャッチコピー使って良いよ』って言ったから結果的にサウスウエストは争っていたキャッチコピーを引き続き使えることになったらしい」

このキャッチコピーの使用権を賭けた腕相撲対決は「ダラスの対決」と呼ばれ、大きな話題になりました。

係争を宣伝にしてしまう

内山:「だけど、この話。サウスウエスト航空の本当の狙いは何ですか?単に裁判費用をケチったわけじゃないですよね?」

鋭いですね。本当の狙いは宣伝だと思います。裁判沙汰になるような案件を腕相撲で決着を付けようとする会社なんて世界中どこを探してもいません。だから、この話は「おかしな会社がいるぞ」と話題になってサウスウエスト航空の宣伝になりました。まあ、当時のサウスウエスト航空の社長は「宣伝のつもりは無い」と言っていたみたいですが…。

岡崎:「本当の狙いはどうあれ、宣伝としての効果は大きいよな」

そうですね。印象に残りますし、何より『風変わりな会社』っていうイメージをそのまま伝えられる。テレビCMで「サウスウエスト航空は風変わりなサービスを…」と言うよりも何十倍も効果はあったと思います。しかも、広告費は掛からないですし。

「楽しさ」を伝える広告

「ダラスの対決」はサウスウエスト航空が意図したにせよしなかったにせよ、宣伝としては非常に秀逸です。話題性に加えて、サウスウエスト航空が提供する価値もストレートに伝えていますからね。

内山:「サウスウエスト航空が提供する価値?だけど、腕相撲対決では低価格であることも利便性が良いことも伝えていませんよね?」

確かにその2つのことは一切伝えていません。だけど、サウスウエスト航空を利用することによって得られる「楽しさ」は伝えていますよね。

サウスウエスト航空は私たちに安くて便利な空の旅を提供してくれます。しかし、それだけではありません。ともすれば退屈になりがちな空の旅を楽しくしてくれるという価値も提供してくれています。

岡崎:「安くて便利でしかも楽しいとなれば顧客満足度も高くなるな」

そうです。だけど、「低価格」は料金を伝えれば、「利便性」は路線図を伝えれば伝わりますが、「楽しさ」というのは伝えるのが難しいです。「楽しさ」というのは感覚的なものですからね。では、どうすればよいか?もう、これは実演するしかないですよね。楽しいこと(ふざけたこと)を実際にやってみせて「何か楽しそうなことやってるぞ?」と思わせるしかない。そして、サウスウエスト航空は腕相撲対決をすることで、潜在的顧客に「楽しそうな会社だ」と思わせることに成功した。だから、「ダラスの対決」は宣伝として非常に秀逸なんです。

内山:「普通は逆境になる争いを自社のメリットを伝える機会に変えてやろうって思った発想が凄いですよね」

どんなことでも捉え方次第、工夫次第で自社をPRする良い機会になる。「ダラスの対決」の事例はそんなことを私たちに教えてくれる事例ですね。

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