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【クロネコヤマト編】クロネコヤマトの歴史と宅急便を支える仕組み(全10章)

クロネコヤマトのビジネスモデル 連載記事
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第1章 クロネコヤマトが提供する価値

「クロネコヤマトの宅急便」で有名なヤマト運輸。宅配便の分野では誰もが知っている有名企業です。今回の連載記事では、そのヤマト運輸をテーマにしていきます。第1回目の今回はクロネコヤマトがなぜ選ばれ?どのようにして収益を上げてきたのかを考えていきたいと思います。

時は金なり

今回から新連載開始です。今回のシリーズのテーマとなる企業はヤマト運輸です。

岡崎:「クロネコヤマトの宅急便だな」

内山:「みんな必ず一度は利用したことがある会社ですね」

そうです。宅配便の分野では国内トップの会社ですね。2人も利用していますか?

岡崎:「うん。荷物送りたい時はお願いしてるよ」

内山:「僕もです」

ちなみにどうしてクロネコヤマトを使っているんですか?他にも宅配便の会社さんはいくつかありますけど。

岡崎:「時間に正確ってイメージがあるからな。お願いした時間にきっちり届けてくれるから助かるよ」

値段に関してはどうです?他社と比べると少し高いかなという印象があるのですが…。

内山:「それは僕も感じますけど、その分しっかりと時間通りに運んでくれるのでそんなに気にはならないですね」

なるほど。ということは、クロネコヤマトの価値は「時間」にありそうですね。「荷物を早く届けてくれる」「希望の時間に届けてくれる」などの時間に関するメリットを私たちに提供してくれるから少々値段が高くても選ばれると言えそうです。

今では多くの会社がクロネコヤマトと同様のサービスを提供していますが、日本で最初に宅配便というサービスを開始したのはクロネコヤマトです。他社と比較すると運賃は高めですが、それでも宅配便のシェアで国内トップを維持しているということは、そのサービスの質が評価されて「時は金なり」と考える人にうけているということなのでしょうね。

高効率の物流システム

クロネコヤマトのように「時間」を売るビジネスモデルの会社は世の中に多くありますが、このビジネスモデルには落とし穴もあります。

内山:「落とし穴ですか?」

はい。時間を売るビジネスモデルの場合はオペレーションの仕組みをしっかりと作り込まないと効率が悪くなって収益性が悪化するということがあるんです。無理やり力業で短納期の仕事をして、収益が悪化したという話を聞いたことはないですか?

岡崎:「俺の知り合いの会社でそんなことあったな。お客さんからの短納期の依頼に無理やり応えていたら、残業時間が増えたり、人の数が増えたりして結局儲からなかったらしい」

落とし穴はもう1つあります。クロネコヤマトが取り扱っている荷物は基本的に小口のものです。これも心当たりがあるかもしれませんが、小口の仕事、所謂小ロットと呼ばれる仕事をする場合も、オペレーションの仕組みが上手く出来ていないと儲かりません。

内山:「小ロットの仕事は手間が掛かりますからね」

納期が短いだけでも大変なのに、扱う品物のロットも小さいとなるとさらに大変です。そこで、クロネコヤマトは高効率の物流システムを作り上げることでこの問題を解決しました。

クロネコヤマトのビジネスモデル

簡単にここまでの話をまとめると、クロネコヤマトは「高効率の物流システムを使って効率よく荷物を捌くことで、時間という価値を提供する」というビジネスモデルで収益を上げてきたと言えます。

今回のシリーズでは具体的にクロネコヤマトがどのようなことをやっていて、なぜこのようなビジネスモデルを成り立たせることが出来てきたのかを考えていきたいと思います。また、シリーズの後半では今のクロネコヤマトが抱える課題についても触れていければと思います。


第2章 クロネコヤマトの歴史

最初は普通の運送業

クロネコヤマト編の本格的な内容に入る前に今回はクロネコヤマトがなぜ宅急便という事業を始めたのかを知るために、クロネコヤマトの歴史について触れておきたいと思います。

内山:「クロネコヤマトって最初から宅急便をやっていたわけじゃないんですか?」

はい。クロネコヤマトは最初から宅急便事業を行っていたわけではありません。最初は大和運輸という社名で1919年に創立し、百貨店の三越の商品をお得意様に配送する事業や、一般の陸運会社と同じように路線トラックで商用の荷物を運んだりしていました。

個人向け小口輸送へのビジネスモデルの転換

戦前に創立された大和運輸ですが、戦後になると日本の経済発展と道路網の発達で陸運需要が増加したことに伴い、業務を拡大させていきます。戦前からメインだった百貨店事業に加えて、通運事業への参入やトラック輸送の拡大も行い、いわゆる「総合物流業」への道を歩み始めました。ちなみに、皆さんお馴染みのクロネコのマークですが、あれはこのころから使われ始めたようです。

岡崎:「今でいうところの日本通運のような会社を目指していたわけだな」

そうです。当初は順調だった総合物流業への道ですが、1970年頃になると暗雲が立ち込めるようになります。まず最初に陰りが見えてきたのは通運事業です。

内山:「あの…。通運って何ですか?」

通運とは、鉄道輸送を行う際にお客さんのところから鉄道駅まで荷物を運ぶ事業のことを言います。今は規制緩和で廃止されましたが、昔は通運業の免許というものがあって、免許を持っている会社しか通運業は出来ませんでした。今でも〇〇通運という会社が多くありますが、あれはその頃の名残です。

内山:「なるほど。で、話を元に戻すと、何で大和運輸の通運事業は陰り始めてしまったんですか?」

鉄道輸送を担う国鉄の業績が悪化してきたからです。もともと国鉄は労働争議の問題があったり、経営効率が悪かったりで業績は良くなかったのですが、1960年代の後半になると高速道路や航空機との競争も激しくなり、業績はさらに悪化します。大和運輸はその煽りを受けたんでしょうね。

次に打撃を受けたのは、創立期からの主要事業の百貨店事業です。これはオイルショックの影響です。やがて長距離のトラック輸送事業も業績が悪化します。

岡崎:「トラック輸送事業の業績が悪化したのは何でだ?」

それは、大和運輸は長距離トラック輸送については後発組だったため、上手く荷物を集められなかったことが響いたようです。

このように、次々と各事業の業績が悪化したため、大和運輸は業績を回復させる道を探ります。そして、目を付けたのが個人が発送する小口の宅配荷物。後に「宅配便」と呼ばれることになる分野です。

宅急便でビジネスモデルを転換

内山:「だけど、何で個人の宅配荷物に目を付けたんですかね?」

まず、小口の荷物は単価が良いですからね。法人の大口の荷物は数が出る分単価も安くなってしまいます。荷物を出す家庭の奥様は法人ほど値切らないですしね。

他にも現金商売だということも魅力の1つだったようです。

岡崎:「なるほど。現金で運賃が支払われるから資金繰りの面でも魅力があったわけか…」

あとは、当時は競争相手がほとんどいないというのも目を付けた理由の1つです。当時は個人の荷物を請け負うのは郵便局ぐらいしか無かったですからね。

内山:「売値も支払い条件も良くて、競合もいないなら魅力的ですね。だけど、だったら今まで何で他社は宅配事業をやらなかったんですか?」

それが個人の宅配荷物には大きな問題があるんですよ。

個人の宅配荷物は運賃は良いですが、法人が出す荷物と違って「いつ・どこで・どれくらいの荷物が出るか」が決まっていません。物流の世界では定時・定量が効率が良いとされていますが、全く真逆の状態です。つまり、個人の荷物は効率が悪いってことです。だから、他の会社は手を出さなかったんです。

岡崎:「だけど、大和運輸はその問題をクリアして宅急便を始めたと…」

そういうことです。どんなことをしたか詳しい話は次回以降しますが、効率の問題をクリアして大和運輸は1976年にまずは関東地方を対象に「宅急便」のサービスを開始しました。
そして、宅急便は成功し大和運輸も商号をヤマト運輸に変更します。

ちなみに、「宅急便」というのはヤマト運輸の商標名です。個人向けの小口荷物の配送サービスの一般名称は「宅配便」と言います。

内山:「『バンドエイド』や『キャタピラー』と同じですね」

だから、佐川急便さんや日本郵便さんに「宅急便をお願いしたいのですが」と言ってはいけません。これは佐川急便さんや日本郵便さんに「宅急便をお願いします」というのは「ヤマトさんで送っておいて下さい」と言うのと同じ意味です。

岡崎:「また屁理屈を…」

ま、これは冗談ですけどね。

内山:「そういえば『魔女の宅急便』って映画ありますよね?あれも『宅急便』って付いているってことはクロネコヤマトと何か関係があるんですか?」

岡崎:「おお、それ気になる。クロネコも出てくるしな」

そのあたりの話はちょっとした逸話があるので、自分で調べてみてください。グーグル先生かウィキ先生に聞いたら分かると思います。


第3章 クロネコヤマトの物流ネットワーク

第3章のテーマはクロネコヤマトの「物流ネットワーク」です。宅急便を支える効率的な物流ネットワークはどのようになっているのかということについて考えていきたいと思います。

岡崎:「宅急便を支える根幹の部分の話だな」

多層構造のハブアンドスポークで効率的に

宅急便を開始するに当たって、ヤマト運輸は前回説明した宅配荷物の効率性の問題点を解決するために物流ネットワークを構築します。このネットワークは「B-C-Dネットワーク」と呼ばれ、宅急便の中核を担っています。

内山:「B-C-Dって何ですか?」

「B」は「ベース」の略称で、各都道府県に最低1か所は置かれる物流拠点のことです。
その次の「C」は「センター」でベースの下に置かれる拠点のことです。支店のようなものをイメージしてもらえると分かり易いかと思います。
最後の「D」は「デポ」でセンターの下に置かれる営業店や取次店(代理店)です。

さて、これらそれぞれの拠点がどのような役割を担うのかというと、まず各家庭から集荷された荷物は一旦デポに集められ、そこからまとめて地域のセンターに送られます。

センターでは所属するデポからの荷物をまとめてベースに送ります。ベースではセンターから送られてきた荷物をまとめて他県のベースに送ります。荷物を受け取った他県のベースはそれを仕分けして集荷の時と逆の流れで各家庭に荷物を配送します。

内山:「そうやってベース・センター・デポが連携して荷物のやり取りをするからB-C-Dネットワークなのか」

ちなみにこのように「拠点に物を集めて、まとめて輸送することで効率を上げる方式」のことを何と言ったでしょうか?

岡崎:「『ハブアンドスポーク』だろ?」

そうです。以前サウスウエスト編でも少し説明しましたね。

内山:「あの時はサウスウエスト航空は敢えてハブアンドスポークの逆をやることで成功したという話でしたね」

サウスウエスト航空の事例についてはこちらの記事に書いてあるので、興味があれば読んでみて下さい。

【サウスウエスト航空】航空業界の異端児(全7章)
※本記事は2018年10月から12月までメルマガで配信した記事の内容を再構成したものです。 第1章 サウスウエスト航空ってどんな会社? 皆さんはサウスウエスト航空という航空会社をご存じでしょうか? 日本では見かけることの無い航空会社で...

さて、話をヤマト運輸に戻すと、ヤマト運輸はそのハブアンドスポークを「ベース-センター間」「センター-デポ間」といった多層構造で行うことが出来る物流ネットワークを作り上げることで、それまで効率が悪いとされていた少量の荷物を効率的に運ぶことが出来るようになりました。

現在の物流ネットワーク

内山:「今でもヤマト運輸はB-C-Dネットワークを使っているんですか?」

拠点の名称は変わっていますが、今でも基本的なシステムは同じです。今の物流ネットワークについて説明しておくと、まずベースとなる拠点として「ゲートウェイ」という巨大物流施設が関東・中部・関西に設置されています。そして、そのゲートウェイの下にはセンターとなる「ターミナル&倉庫」が置かれており、その下に「営業所や取次店」が置かれるという構造になっています。

岡崎:「ゲートウェイってまた派手な名前だな」

派手なのは名前だけじゃないですよ。詳しくは別の機会に説明しますが、中身もすごいです。ゲートウェイが出来たおかげで、幹線物流も変わりました。巨大なフルトレーラーを使った多頻度の大量輸送が可能になりました。

内山:「フルトレーラーって大型トラックの後ろにもう1台荷台を連結した電車みたいなトラックのことでしたっけ?」

そうです。高速道路を走っているとたまに見かけますよね。あれを使えば、従来の2倍の荷物が運べます。ドライバーさんの人数は変わらないので、規模の経済が働いて幹線の輸送費が一気に下がります。

フルトレを使った輸送と言えばもう一つ面白い取り組みをヤマト運輸は始めました。

岡崎:「何?」

他の事業者との共同輸送です。西濃運輸・日本通運・日本郵便などの荷物も一緒に積んで効率的な輸送を行おうという取り組みをやっています。

内山:「西濃・日通・日本郵便ってヤマトの競合ですよね?」

まあ、そうですね。皆さん宅配事業やってますからね。でも、そこは手を組んで効率化を目指そうってことでしょうね。他の業界でもライバルだった会社と提携して新たな戦略を描くなんてことは普通にやっていますし。

岡崎:「そうやって物流ネットワークをさらに進化させてるんだな」


第4章 セールスドライバーと取次店

ハブアンドスポークシステムで効率的な物流ネットワークを作り上げたヤマト運輸ですが、物流ネットワークを作り上げても、そこに荷物が無ければ意味を成しません。では、ヤマト運輸はどのようにして、お客様から荷物を集めているのか?ということで、今回はヤマト運輸の「営業活動」にフォーカスしてみたいと思います。

ドライバーが一番の営業マン

宅急便を始めるに当たってヤマト運輸はハブアンドスポークの効率的な物流システムを作り上げたわけですが、それだけではまだ十分ではありません。もうひとつやらなければいけないことがありますが、それは何でしょうか?

岡崎:「荷物を集めるための営業だろ?」

そうです。物流ネットワークが出来ても、荷物を出してくれる人がいなければ意味は無いですからね。さて、そうなると営業マンに各家庭を回らせて、「ヤマト運輸と申します。小口の宅配荷物を配送致しますので、今後何かお荷物を出すことがあれば宜しくお願い致します」とやらなければいけないのですが、これはこれで大変です。

内山:「そうですね。個人宅を一軒一軒周るとなると、営業担当の人員が大量に必要になりますからね」

何とか効率的に営業活動が出来ないか考えたヤマト運輸はあるユニークな方法を思いつきます。

内山:「ユニークな方法って何ですか?」

荷物を運ぶドライバーさんを営業マンにしました。

岡崎:「なるほど。ドライバーさんなら人数も揃ってるし荷物を届けるときにお客さんと顔を合わせて会話も出来るからちょうどいいな」

はい。各家庭を回ってお客様との接点も多いドライバーさんが営業活動を行ってくれれば、人員配置も効率的で営業も効果的です。ヤマト運輸のドライバーさんは営業を行うドライバーということで「セールスドライバー」と呼ばれています。

セールスドライバーの営業活動

内山:「だけど、営業っていうわりにはそんなにガツガツ営業掛けてくる印象は無いですよね?愛想は良いと思いますけど」

岡崎:「それが良いんじゃない?緑色の制服を着たドライバーさんが、愛想よく丁寧に対応してくれたら『またお願いしよう』ってなるでしょ?」

そうですね。意外とそういうさりげない態度をお客様は見てますし、そういうところが大切だったりしますからね。つまり、ヤマト運輸のドライバーさんはお客様への丁寧な対応を積み重ねることで営業活動を行っているってことです。

取次店の存在

ヤマト運輸の営業に関しては「取次店」の存在も大きいです。

内山:「取次店って何ですか?」

取次店とはヤマト運輸に配送をお願いする荷物を預けるお店のことです。代理店みたいなものだと思ってもらえればいいです。

岡崎:「身近なところだとコンビニだな」

そうですね。今はコンビニがその機能を担っていますね。この取次店の制度ですが、宅急便がスタートした当時からありました。セールスドライバーさんだけでは限界があるので、外部のリソースも活用したわけです。

岡崎:「昔は今ほどコンビニが無いから、街の酒屋さんや米屋さんが取次店になったりしてたよな」

内山:「そういえば、酒屋さんとか米屋さんの前に看板出てましたね。懐かしいな~」

酒屋さんとか米屋さんのように町内に必ずあるような店が取次店になってくれれば、町内の皆が周知しますからね。それに、酒屋さんや米屋さんは定期的に利用されるので、ヤマト運輸は取次店を通じて間接的にお客様との接点を得ることが出来ます。

岡崎:「酒屋のおばちゃんに『クロネコヤマト使ったら便利だよ~』って言ってもらえれば、さりげなく宣伝も出来るしな」

こうやって、お客様との接点を増やしながらヤマト運輸は営業力を強化していった訳です。

内山:「セールスドライバーにしても取次店にしてもヤマト運輸はお客さんとの接点を見つけるの上手ですね」

ヤマト運輸の営業力の強さはお客様との接点を見つける力にあるのかもしれませんね。


第5章 セールスドライバーと全員経営

全員経営

前回お話ししたヤマト運輸のセールスドライバーですが、実はあれは営業面での効果だけを狙ったものではなく、組織面での効果も狙ったものでした。

内山:「組織面の効果?どんな効果ですか?」

ヤマト運輸が掲げる「全員経営」の実践です。

岡崎:「全員経営っていうのは何だ?」

ヤマト運輸の社長で宅急便事業を始めた小倉昌男氏によると全員経営とは…

"「目的や目標を明確にしたうえで、仕事のやり方を細かく規定せずに社員に任せ、自分の仕事を責任をもって遂行してもらうこと」" 小倉昌男 経営学 日経BP社

とされていますね。つまり、「自分の仕事に責任を持って、お客様のことを考えながら、自主的・主体的に仕事をすること」だと私は解釈しています。

内山:「なるほど。社員一人一人が会社を経営しているように責任感を持って仕事をするってことですね」

だから、セールスドライバーの業務の範囲はその責任を果たすために広く設定されていて、荷物の配送だけでなく、伝票の手配、決済、問い合わせ対応などお客様に関わる業務を全て一人で行うことになっています。

岡崎:「荷物を届けるだけでも忙しそうだから、仕事はそれだけに集中させてあげろよって気がしないわけでもないけどな」

まあ気持ちは分かります。ただ、もし仮にドライバーさんが配送業務だけだったとすると、中には「俺はとにかく荷物を届けていればいい」と考えて、お客様に対する責任を負おうとしない人が出てくるかもしれない。これは全員経営の考えには一致しないということで、敢えて負荷が高いことは承知の上で、色々な業務を任せているんだと思います。

内山:「うーん。バランスが難しいところですね」

サービスレベルが高い会社の共通点

岡崎:「だけど、『全員経営』って形で責任を持たせて、主体的に動いてもらおうとする点は以前紹介したサウスウエスト航空と似てるな」

【サウスウエスト航空2nd.Season】サウスウエスト航空の組織と文化(全6章)
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そうですね。自分たちも経営に関与しているんだっていう意識を持たせて、業務の範囲を幅広くすることで、仕事のやり方を自分たちで考えるように仕向けて、人材とサービスの質を上げていこうとしている点は同じですね。

内山:「やっぱりサービスレベルが高い会社って同じようなことをするんですかね?」

うーん。どうでしょうかね。私もすべての会社のことを知っている訳ではないので、断言は出来ないですけど、お客様に評価されるような高いサービスレベルの会社は、社員さんにも経営に関与している意識を、仕事の責任を多く持たせて、自分で主体的に考えて行動するように仕向けているような気はしますね。


第6章 宅急便を支える設備

第3章でヤマト運輸の物流ネットワークについてお伝えしましたが、ヤマト運輸の効率的な物流システムを支えているのはそれだけではありません。ヤマト運輸は効率的に荷物を配送するために様々な設備も導入しています。ということで、今回は「宅急便を支える設備」がテーマです。

ヤマト専用車として開発されたクイックデリバリー

岡崎:「ヤマト運輸の設備と言えば一番に思い浮かぶのは、独特の形のトラックだよな?」

内山:「最近はあまり見かけないですけど、少し前まではよく街中を走ってましたよね」

クイックデリバリーのことですね。あの車はヤマト運輸向けに宅急便専用車としてトヨタ自動車が開発した車だってこと知ってます?

岡崎:「そうなの?」

もともとはそうだったみたいです。ヤマト運輸がドライバーさんの作業負担を軽減するためにトヨタに開発してもらったようです。

内山:「宅急便専用車ってことは普通のトラックとは違うってことですよね?」

そうですね。あの車の大きな特徴としては普通の車に付いている助手席がありません。

内山:「へー。そうなんですね。でも、何で?」

助手席側から乗り降りするためですね。ヤマト運輸のドライバーさんは街中で頻繁にトラックの乗り降りをするわけですが、通常のトラックだと車道側から乗り降りしないといけなくなるので停車場所によっては危険です。ドライバーさんが安全に乗り降りをするためには後方確認が必須になるわけですが、それでは乗り降りするたびに確認をしなくてはならないので、効率が悪いです。

岡崎:「確かにそうだな。それにタイミングによってはなかなか乗り降り出来ないこともあるだろうし」

そこで、この後方確認問題を解決するために助手席を取っ払って助手席側から安全に乗り降りが出来るようにしてしまいました。

内山:「使っていない助手席を取り外して、そこから乗り降り出来るようにしたわけですね」

そうです。さらに、クイックデリバリーにはもう一つ工夫が加えられていて、車自体の高さが高く設計してあります。これはドライバーさんが腰を屈めて作業することが無いようにするための工夫です。

岡崎:「重い荷物を持ち上げるときに腰に負担が掛からないようにするための工夫だな」

はい。このようにドライバーさんが効率的かつ楽に配送作業が出来るように開発された車がクイックデリバリーです。

内山:「今まで何気なく見てましたけど、そんな工夫が凝らしてあったんですね。だけど、最近はあまり見かけなくなりましたよね?」

どうやら2016年で生産は終了したようです。詳しい理由まではよく分かりませんが、時代の移り変わりで荷物の種類や量が変わって、他の車両を使った方が良くなったのかもしれませんね。

自動仕分け機

ヤマト運輸は宅急便を始めるに当たって自動仕分け機も導入しています。宅急便は行先もサイズもバラバラな荷物を扱うので、仕分け工程の自動化は必須でした。

岡崎:「もし、人力のみでやってたら膨大な人件費が掛かっていただろうな」

そうですね。とは言っても、初期のころの仕分け機には色々と問題もあったようなので、実際は人力と機械のハイブリッド運用だったようです。ちなみに、宅急便が登場した当時は自動仕分け機は日本では普及していなかったようなので、当時としてはかなりの決断だったと思います。

そして、自動仕分け機はさらに進化を続けて第3回で説明した巨大物流拠点には最新鋭の仕分け設備が導入されてほぼ無人で稼動出来るようになっています。

内山:「へー、一回見てみたいな」

羽田クロノゲートや関西ゲートウェイは一般の方の見学も出来るようなので、機会があれば一度見てみたいですね。

岡崎:「上流のゲートウェイが高度に自動化されていることは分かったけど、下流の営業所なんかはどうなんだ?」

まだ営業所は人の力で仕分けをしているようですね。ただ、今後は巨大物流拠点で得たノウハウを横展開して徐々に自動化されるんじゃないかと個人的には思っていますけどね。

縁の下の力持ちロールボックスパレット

宅急便専用車クイックデリバリーや自動仕分け機に比べるとあまり目立ちませんが、ヤマト運輸は荷役作業を効率化するためにもう1つ重要な道具を使っています。それが「ロールボックスパレット」です。

内山:「ロールボックスパレット?何ですかそれは?」

籠付きの台車のようなものをイメージして貰うと分かり易いと思います。「かご台車」と言ったりもしますね。

岡崎:「あー、かご台車か、うちの会社でも使ったことあるけど、あれ使うと荷物の積み下ろしが楽だよな」

仕事や引っ越しなどで、トラックを使って荷物を積み下ろしした経験がある方は分かると思いますが、トラックに荷物を積み下ろしする作業というものは意外と時間が掛かりますし、肉体的にも負担が大きいです。

内山:「確かに、1個1個荷物を積み下ろししていたら時間掛かるし、体もクタクタになりますね」

しかし、予めロールボックスパレットに行先別に荷物を積んで、そのパレットごとトラックに積み込めば荷役時間は大幅に短縮出来ますし、肉体的にも楽です。

岡崎:「コンテナ輸送と同じ考え方だな」

そうですね。コンテナ輸送の考え方を応用して、荷役作業の効率化を図っています。ちなみに、パレットを使った物流作業の効率化は真似しやすいので、「物流作業を効率化したいな」と考えている会社さんはヤマト運輸のやり方を参考にしてみるのも良いかもしれません。

NEKOシステム

効率化のためにはITの力を借りることも欠かせません。

岡崎:「確かに、少量多品種の物を効率的に捌くためにはITシステムは必要不可欠だな」

内山:「手作業で管理してたら人手がいくらあっても足りないですからね」

今では、少量多品種の管理にITシステムを使うことは当たり前になっていますが、ヤマト運輸は宅急便を始める段階から「NEKOシステム」というITシステムを開発して導入していました。

NEKOシステムを使うことで、ヤマト運輸は荷物の追跡・管理を効率化してスピーディーかつ正確な輸送を実現するとともに、伝票発行なども効率化することでサービスのレベルも向上させてきました。個人的にはこのシステムが無かったら今のようなサービスは提供出来なかったんじゃないかと思っています。

ちなみに、NEKOシステムは最初の導入から進化を続けて今では「第8次NEKOシステム」になっています。

岡崎:「第8次NEKOシステムは何が出来るの?」

どうやらAIを使って最適な集配ルートが提示されるみたいですね。どこまでのことが出来るのか細かいことは分かりませんけど、集めた集配データを使った効率化が目玉のようですね。

内山:「クロネコメンバーズのデータや再配達のデータなんかも使うんですかね?」

再配達の削減は大きな課題ですからね。データ使って「この人はいつ頃なら在宅している可能性が高い」みたいなことも提示しているかもしれないですね。

最近はDX(デジタルトランスフォーメーション)が求められているので、ヤマト運輸もこの分野ではこれからも積極的な改革を進めてくると思います。


第7章 規制との闘い

新しいサービスを提供しようとすると、それまでの業界の慣習や規制と衝突することがあります。ヤマト運輸もその例外ではありませんでした。第7章はヤマト運輸と規制との闘いがテーマです。

多くの規制があった物流業界

ヤマト運輸が宅急便を始めたころの物流業界は何かと営業区域が定められていたり、運賃が許可制だったり、規制の多い業界でした。

岡崎:「今は規制緩和されているけど、昔は色々と規制があったみたいだな」

当時は理由があっての規制が設けられていたと思いますが、ヤマト運輸のように新しいことをやろうとする企業にとっては規制が障害となってしまします。多くの会社は新しいことをやろうとしても規制があると諦めてしまいますが、ヤマト運輸は「ルールが時代に合っていない」と考えてそのルールを変えようと規制当局と闘ってきました。

内山:「具体的に何をしてきたんですか?」

運輸省との営業区域を巡る闘い

まずは営業区域に関する闘いがありました。ヤマト運輸はもともとは関東の会社なので、関東では営業免許を持っていますが、他の地域では営業免許を持っていません。

岡崎:「それは宅急便を全国に配送しようとしている会社としては大きな問題だな」

ヤマト運輸は何とか営業権を得るべく各地の運送会社から権利を買うなどして対応していたわけですが、そのやり方にも限界がありました。そこで、正攻法で営業権を取得しようと当時の運輸省に申請を出しましたが、ここで問題が発生しました。

内山:「何が起きたんですか?」

いつまでたっても許可がおりませんでした。どうやら、既存業者の保護が理由だったようです。

内山:「それで、ヤマト運輸はどうしたんですか?」

運輸省を相手取って訴訟を起こして免許を取得しました。そして、やがて全国をカバー出来るようになりました。

岡崎:「監督官庁を相手取って訴訟を起こすってすごいな」

お客様へのサービス提供を考えた上での行動でしょうね。宅急便を開始した当時のヤマト運輸には「サービスが先、利益は後」というスローガンがありましたが、このスローガンを実践した事例だと思います。

運輸省との運賃を巡る闘い

ヤマト運輸は運賃を巡っても運輸省と闘っています。

内山:「運賃でも運輸省と喧嘩したんですね…」

1990年までトラックの運賃というのは運輸省の認可制でした。つまり、各社が独自に運賃を決めたくても運輸省のOKが出なければ出来ない構造になっていたわけです。ヤマト運輸は宅急便というそれまでのトラック運送とは違うサービスを提供しているので、独自に運賃を決めたかったのですが、それを運輸省はOKしませんでした。

岡崎:「それだとヤマトは独自の運賃を適用出来ないな」

とはいっても、独自の運賃が適用出来ないと宅急便のサービスに支障をきたします。そこで、ヤマト運輸は何とか運賃を認可してもらおうと、運輸省に要請を行いましたが、一向に審査すらされませんでした。そこで、ヤマト運輸は力業に出ました。

内山:「今度は何をしたんですか?」

新聞に「運賃が安いサービスを出そうとしていましたが、運輸省がOKしないので出来ません」という広告を出しました。

内山:「思い切り喧嘩売りましたね…」

当時の運輸省の偉い人は激怒したらしいですが、世論を使われてしまったので、運輸省はその後認可を出したそうです。

岡崎:「世論を使って規制を変えるって方法はウーバーもやっていたよな?」

そうですね。ウーバーもタクシー業界の規制を緩和させるためにツイッターなどを使って「ウーバーを使わせろ!」という動きを仕掛けて、規制を緩和させましたね。

信書を巡る闘い

ヤマト運輸は信書を巡って総務省とも闘っています。

岡崎:「そういえば、そんなことあったな」

内山:「色々な役所に噛みつきますね…」

信書問題の細かい部分については各自で調べて頂きたいのですが、この問題ももしかしたら将来的に何らかの動きがあるかもしれませんね。

内山:「さっき岡崎さんがウーバーの話題を出していましたけど、ヤマト運輸って規制と闘うっていう面ではウーバーと似ていますね」

そうですね。自分たちの新しいサービスを提供するためには、規制当局と対立してでもルールを変えさせるという点ではよく似ていますね。

岡崎:「パイオニアとなって新しいサービスを世の中に提供する企業にはそういう姿勢も必要なのかもな」


第8章 クロネコヤマトの伝説

今回のテーマは「クロネコヤマトの伝説」です。クロネコヤマトに纏わるいくつかのエピソードを紹介しようと思うので、息抜き程度に読んで貰えればと思います。

伝説的なエピソードは期待値の現れ

ヤマト運輸はドライバーさんに纏わる伝説的なエピソードが多い会社です。

岡崎:「真偽は別として感動的な話とか、すごいなって思わせる話とかいくつかあるよな」

本題に入る前に少し考えたいのですが、なぜ伝説的なエピソードが生まれて語り継がれるのでしょうか?

内山:「それだけ期待されているってことじゃないですか?『ヤマトなら何とかしてくれるはず』って
    お客さんの期待がエピソードを生み出しているんだと思います」

そうですね。「ビジョナリーカンパニー」という本にも書いてありますが、サービスや人材のレベルの評価が高い会社ほど伝説が生まれやすいそうです。では、このことを頭に入れた上で、ヤマト運輸の伝説を見ていきましょう。

クロネコヤマト伝説 ~震災時の対応~

勝手に会社の車を使ってボランティア

これは東日本大震災の時の話です。震災の時、被災地域には多くの支援物資が届いていたのですが、それを避難所まで届けることが出来ませんでした。その状況を見たヤマト運輸は自社のトラックを使って支援物資の運搬を行いました。しかも、本社の許可を得ず、現場の判断で「勝手に」です。

岡崎:「その話聞いたことあるぞ。有名なエピソードだよな」

内山:「支店長がクビを覚悟でやったという話も聞いたことがあります」

ヤマト運輸はもともと現場に大きな権限を与えていますし、支店長の方たちは正しいことをしているので、咎めを受けることもなく、逆にこの動きをきっかけに「救援物資協力隊」というものが生まれました。

救援物資協力隊

内山:「救援物資協力隊ってかっこいいですね。サンダーバードみたい」

岡崎:「あれは国際救助隊だけどな。で、救援物資協力隊って何をしたんだ?」

物資の輸送はもちろんですが、集積地の在庫管理などを請け負ったそうです。通常は集積地の物資の管理は自治体の職員さんが行うのですが、彼らは物流のプロではないので上手く管理が出来ない。そこで、物流のプロであるヤマト運輸のスタッフが協力して在庫管理を行い、自治体・自衛隊の方々と協力して物流体制を整えたそうです。

岡崎:「そういうこともしていたんだな」

意地でも宅急便を届ける

震災発生後しばらくすると、被災地域への宅急便の受付が再開されましたが、このときヤマト運輸の本社は「センター止め」で受付けることを指示しました。受け取る人がヤマトの営業所に引き取りに行くってことですね。

内山:「配達できる保証がないんだから当然の判断ですよね」

そうですね。ところが、現場のドライバーさんたちはまたもや勝手なことをやり始めます。センター止めとされている荷物を配達し始めました。

岡崎:「それ届けられるのか?」

ヤマト運輸は送り状に不備があって住所が分からない状態でも、届けてしまうという能力を持っています。その能力をフルに使って「この人はこの避難所にいるはず」「この人はここに住んでいた」という現場の情報を元に荷物を直接届けました。昔何かで読んだのですが、半分壊れた家にもヤマトのドライバーさんが来て住人を驚かせたというエピソードもあるようです。

内山:「すげーな…」

クロネコヤマトの心温まる話・思わず笑ってしまう話

ここからはツイッターなどで見かけたヤマトの小話をいくつか紹介します。

誕生日ケーキの話

これは最近ツイッターで見たエピソードですが、ある方がお母さんへの誕生日ケーキの配達依頼をしていました。ところがその方は事情があって受け取れなかったそうです。落ち込んでサービスセンターに電話をすると、なんと5分後にドライバーさんがやってきて届けてくれたそうです。その時、ドライバーさんは笑顔で「本当はだめなんですけど、誕生日って聞いたので!」荷物を渡してくれたそうです。

岡崎:「めっちゃいい話やん…」

ヤマトvs佐川仁義なき戦い?

ヤマト運輸のライバルと言えば佐川急便ですが、ヤマトが佐川に対して地味な戦いを挑んだエピソードがあります。ある人のところに割れ物注意のシールが張られた荷物がヤマトから届けられたのですが、よく見てみるとそのシールは佐川急便のシールでした。

佐川で届いた荷物の箱を流用して宅急便を送ることはよくあることなので、これ自体は珍しいことではありませんが、さらによく見てみると佐川のシールの隅に手書きでクロネコの絵が描かれていたそうです。

内山:「それ見たことあります。結構雑に書いてありましたよね。折角ならヤマトのシールでも貼ればよかったのに」

岡崎:「そこはヤマトのドライバーさんのジョークだから分かってあげて」

そうですね。シール貼ってしまうと嫌味が出てしまうので、ドライバーさんの工夫を凝らしたアイデアだと思って理解してあげましょう。

実は仲が良い?ヤマトと佐川

内山:「ヤマトと佐川と言えば、『実はこの2社仲がいいんじゃないのか?』っていうエピソードもありますよね」

動けなくなった佐川のトラックをヤマトのドライバーさんが一緒に押して助けてあげる話とか、雪道でスタックした佐川のトラックをヤマトと日本郵便が助ける話とかですね。

岡崎:「何でいつも佐川が助けられる側なんだ?」

まあ、ヤマトびいきの人が投稿してますからね。当然逆も沢山あると思いますよ。こういう小ネタはたくさんあるので、興味があれば調べてみてください。


第9章 ヤマトの課題

これまでヤマト運輸の良い面を取り上げてきましたが、ヤマト運輸にもこれから改善していくべき課題はあります。第9章では「ヤマトの課題」というテーマで、ヤマト運輸が抱えている課題について考えていきたいと思います。

人手不足問題

誕生以来順調に荷物の取り扱い数を伸ばしてきたヤマト運輸ですが、近年のEC需要の増大でヤマト運輸が抱える課題が顕在化してきました。

岡崎:「人手不足と労働環境の問題だな」

内山:「ニュースでも取り上げられたりしていましたよね」

岡崎:「まあ、人手不足の問題はヤマト運輸に限らず物流業界で共通の問題だけどな」

物流業界は上流工程の大規模な物流拠点は第6章で説明したように自動化出来ますが、下流の配送はどうしても労働集約的にならざるを得ないですからね。

内山:「配送って仕事そのものを自動化することは今の段階では難しいですからね」

岡崎:「あと、ヤマト運輸の場合は『セールスドライバー制』も仇になってないか?」

そうかもしれませんね。セールスドライバー制はサービスレベルが高くなるというメリットはあるものの、1人当りの業務量が多くなるので、業務負荷が高くなりますからね。
それに、求める人材のレベルも高いので簡単に人材が確保出来ないということも問題ですね。人手を確保しなければいけないことは分かっているけど、そんなに簡単には出来ないというのが正直なところではないでしょうか?

内山:「セールすドライバー制も導入した当初の荷物の取り扱い量であれば何とかやっていけたんでしょうが、その後時代が変わって来ることによって色々と問題が発生してきたのかもしれませんね」

運賃の問題

人手の問題に加えて運賃の価格設定という面での問題もあります。人手不足を解消しようと新たに採用を行ったり、待遇を改善するために給料を上げると人件費は上がります。そして、当たり前の話ですが人件費は上がっているのに運賃がそのままであれば、収益は悪化してしまいます。それは嫌だということで、採用や賃上げを止めてしまうと労働環境は悪いままです。

内山:「難しいところですね…」

運賃の問題と労働環境の問題は密接に関連していて、収益を確保したいからといって労働環境の悪化に目をつぶって人件費を抑制してしまうと、労働環境はさらに悪化してしまいます。労働環境が悪化するとサービスの質も落ちます。そして、サービスの質が落ちればお客様が離れていって売上は減少。収益はさらに悪化します。

岡崎:「悪循環だよな…」

そう。悪循環です。だから早い段階でこの悪循環を断ち切らなければいけません。運賃の見直しをしなければならないってことですね。

内山:「だけど、運賃の見直しっていってもそんなに簡単にはいかないですよね…」

そうですね。「ドライバーさんが大変だから運賃見直しします!」って情に訴えかける方法も考えられますけど、それだと最初は通用してもその後は通用しないですからね。

岡崎:「まあ、最初は『しょうがないな…』って思うけど、それが2回・3回目になると『お前のところで何か考えろ』ってなるな」

だから、根本的にこの問題を解決するならより高い運賃を支払ってもらえる仕組みを作るなり、新たな収益源を作っていくなりしないといけないと思うんですよね。次章ではヤマトが抱える人手と運賃の問題についてもう少し考えていきたいと思います。


第10章 これからのクロネコヤマト

第9章でヤマトの課題は「人手不足・労働環境改善」と「運賃」だと説明しましたが、今回はこれらの課題をどのように解決していけば良いのかを、勝手な推測と意見も交えながら考えていきたいと思います。

アンカーキャスト導入による対策は効果があるのか?

では、まずは「人手不足・労働環境」のことについて考えてみたいと思います。

内山:「クロネコヤマトの『働き方改革』についてだな」

そうですね。この課題はヤマト運輸にとって非常に大きな課題なので、ヤマトホールディングスが公開している「統合レポート」にも対策が大きく取り上げられています。それによると、働き方改革の一環として「アンカーキャスト」と呼ばれる職種を導入したようですね。

岡崎:「アンカーキャストというのは何だ?」

午後から夜にかけてセールスドライバーさんの配送業務を引き継ぐ契約社員の方のことですね。セールスドライバーさんから配送業務を一部移管することで、セールスドライバーさんの負荷の低減と、営業活動に使うための時間の確保をすることが狙いのようです。

内山:「一種のアウトソーシングですね」

ですね。考え方は近いと思います。

岡崎:「なるほど、そういう対策かぁ…」

岡崎さん、何か言いたそうですね?

岡崎:「うーん。対策としてはありだとは思うんだけど、これだけだと抜本的な対策にはならないだろうなと思って…」

ほう…。なかなか辛口な意見ですね。何でそう思うんですか?

岡崎:「結局これって、『人を増やして対策します』ってことだろ?そりゃ、上手いこと人が集まった営業所では上手くいくだろうけど、人が集まらなかったらどうするんだ?」

そう。問題はそこなんですよね。もし仮に今の社会状況が「ヤマト運輸は仕事が忙しくて人手が足りないけど、他は暇」っていう状況であれば、「ヤマトが募集掛けてるぞ~」ってことで人も集まるかもしれないですけど、現実はそうじゃないですからね。

内山:「どこも好条件で募集掛けていますからね」

岡崎:「都市部なんかだと、『UberEatsの方がおしゃれな感じだから、そっちにしよ』って人もいるんじゃないか?」

UberEatsで実際どれくらい稼げるのかは分かりませんが、「自由な働き方」という意味では競合しますからね。

岡崎:「そう。だから、アンカーキャスト制を導入したことが悪いわけじゃないし、一定の効果もあるだろうけど、それは短期的・局地的なものに終わってしまう気がするんだよな…」

再配達を無くしてドライバーさんの業務を減らす

人手を増やして対応するってことが難しいとなると、別の方法を考えないといけないですね。

岡崎:「そうだな。そうなるとまず思い付くのは上流の物流センターのように自動化してしまうことだけど、末端の配送業務でそれは難しいな…」

ですね。宅配ドローンや自動運転が普及してくればそれも可能でしょうけど、何十年後の話になることやら…

内山:「配送する荷物の量を減らしたらどうですか?そもそもクロネコヤマトが人手不足に苦しんでいるのって、荷物の量が増加したからですよね?」

岡崎:「言ってることは分かるけど、荷物の量を減らすってどうやってやるんだ?ECの荷物の配送止めるとか??」

内山:「そうじゃなくて、再配達を減らすんですよ。あれドライバーさんにとってかなりの負担になってるんですよね?」

そうですね。荷物を届けにいって再配達ってなれば、実質2倍の量の荷物を配達していることと同じですからね。

内山:「でしょ?だったらそこを何とかしないと、永遠に問題は解決しないですよ。ちなみにその点に関しての対策はどうなっているんですか?」

対策は取っていますね。例えば宅配便のロッカーを増やすとかLINEなどでお届け通知を出すといったこととか。

岡崎:「宅配ロッカーはヤマト以外の荷物も受け取れるんだよな?」

はい。オープン型と言われる方式で複数社が共同利用出来ますからね。これは良いと思いますよ。再配達の問題はヤマトだけの問題じゃないので、そういう共通の課題を解決するのであれば、こういう共通のプラットフォームを使うことはありだと思います。

再配達については、もう一つ解決策があると思うんですよね…

内山:「それは何ですか?」

再配達有料化をしてはどうか?

これは前から話が出ていて賛否両論ありますが、再配達を有料化すればいいと思います。これはもう一つの「運賃」の問題の解決策にもなると思うんですよね。

岡崎:「分かるけど、それやるとお客さん離れないか?」

内山:「ですよね。『今まで無料だったのに…』ってなりそうな気がします」

まあ、やり方は考えないといけないですけどね。例えば、無条件に有料化するんじゃなくて、『1回目の再配達は無料。再々配達になったら有料』とか、『日時指定の荷物が再配達になったら有料』とか。で、有料が嫌ならコンビニなり営業所なり宅配ロッカーに自分で受け取りにいく。これなら元々約束していた日時に受け取れなかったんだから、お客さんも納得してくれると思うんですよね。

岡崎:「まあ、無条件に有料化よりはいいかな」

そもそも、荷物の再配達って利用者にとっては大きな価値があって、多少お金を払ってもいいくらいありがたいことだと思うんですよ。だから、私は再配達を有料化しても良いと思います。そうすれば、再配達が減ってコストが削減される、もしくは再配達料金の追加で実質的に運賃が上がる効果で収益性も改善されるんじゃないかなって思うんですよね。

内山:「再配達有料化に関して言えば、クロネコメンバーズのシステムも上手く使っても良いかもしれませんね。例えば、メンバーの方は再配達料金割引とか」

ですね。クロネコメンバーズのシステムは上手く使えると良いですね。日時指定していない荷物を配達する場合に事前に「今から荷物をお届けしますが、ご在宅でしょうか?」という自動メッセージがプッシュ通知でスマホに送られてくるシステムがあってもいいですよね。で、在宅と答えたら配送スケジュールから到着時間割り出して「あと〇〇分から〇〇分ごろにお届け出来る予定です」みたいな返答が来るとか。そうしたら、私たち利用者は不必要な再配達料金を払うリスクが避けられるし、ヤマトも再配達のリスクを減らせます。

岡崎:「第8次のシステムなら出来そうだよな」

ヤマトに期待するオンデマンド物流

私としては今後クロネコヤマトには、欲しいものを欲しい時間に欲しい場所に届けてくれる「オンデマンド物流」をやって欲しいんですよね。「ヤマトさんはいつもタイミングばっちりだな!」って言えるような顧客体験をさせて欲しいって思っています。

岡崎:「それも、ドライバーさんやヤマトで働くスタッフの人たちに負担を掛けないスマートな形でな」

内山:「それ大事ですよね。是非『人に負担を掛けなくてもここまで出来るんだぞ』って姿を見せて欲しいです」

私たちは随分勝手なことを言っていますが、これまで物流業界にイノベーションを起こしてくれたヤマト運輸ならやってくれるんじゃないかと期待しています。是非これからもみんなが凄いと思えるようなモデル企業であって欲しいと思います。


参考資料


小倉昌男 経営学

ヤマトホールディングス 「総合レポート2019」
https://www.yamato-hd.co.jp/investors/library/annualreport/index.html

しゃかいか!「当たり前の「宅急便」を支える、当たり前でない仕組み。
羽田クロノゲート」(最終閲覧日:2020年5月25日)
https://www.shakaika.jp/blog/25339/hnd-chronogate_haneda/

ヤマト運輸HP  http://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/customer/