【サウスウエスト航空】航空業界の異端児(全7章)

サウスウエスト航空編 連載記事

※本記事は2018年10月から12月までメルマガで配信した記事の内容を再構成したものです。

第1章 サウスウエスト航空ってどんな会社?

皆さんはサウスウエスト航空という航空会社をご存じでしょうか?
日本では見かけることの無い航空会社ではありませんが、経営の世界ではとてもユニークな航空会社として有名です。
今回の連載ではこのサウスウエスト航空を題材として取り上げてみたいと思います。

第1回目の今回はサウスウエスト航空がどのような会社なのかを紹介していきます。

サウスウエスト航空とは?

サウスウエスト航空はアメリカのテキサス州ダラスを本拠地としている会社です。

内山:「Oh テキサス!カウボーイがいるところですね!!」

岡崎:「まあ、カウボーイがいるかどうかは知らないけど…」

The America!!!という地域です。いい意味でも、悪い意味でもアメリカと言えばテキサス!大きなステーキをジュージューと焼いていそうなイメージです。

岡崎:「テキサスの紹介は要らないから、サウスウエスト航空の紹介をしてくれよ」

そうでしたね…。では、続きですが、サウスウエスト航空が設立されたのは1967年。実際に運行を開始したのは1971年のことです。

内山:「有名な会社なんですよね?その割には日本では見かけないですけど?」

サウスウエスト航空はほとんどの路線がアメリカの国内線ですからね。一部国際線もありますけど中米やカリブ海などの周辺国への路線です。ちなみに路線数は国内線が約2400路線、国際線が約100路線です。

内山:「全部で2500路線も運行してるんですか?」

アメリカは国土が広くて飛行機の利用も多いですからね。それでもやっぱり多いです。売上高でのランキングだと大体世界5位~8位ぐらいに位置しています。

内山:「何気に凄い会社ですね」

いえいえ、こんなことで驚いてもらっては困ります。サウスウエストの凄さはここからです。

サウスウエスト航空の凄さ

では、サウスウエスト航空の凄さを説明していきますね。まず、サウスウエスト航空は1972年からずっと黒字です。

内山:「え?ということは45年黒字ってことですか?」

岡崎:「そう。創業年だけ赤字だったけど、そのあとはずっと黒字」

利益率も高いです。平均税引前利益率は大体15%です。

内山:「おー、優良企業」

そして、最大の凄さは変化の激しいアメリカの航空業界でこの結果を出し続けていることです。

内山:「アメリカの航空業界ってそんなに厳しいところなんですか?航空業界ってインフラ産業だからまったりしたイメージがあるんですけど…」

岡崎:「そんなことは一切ない。環境変化は大きいし、アメリカは経営が悪化したら、どんなに大手でも『あ、そうですか。破たんしますか…』っていって平気で会社潰すからな。どこかの国とは厳しさが違うんだよ」

アメリカ航空業界の経営環境

では、アメリカの航空業界がどのような状態だったのか、簡単に歴史を振り返りながら説明をしていきます。
先ほど変化が厳しいと言いましたが、実はアメリカの航空業界は最初から変化が厳しかったわけではないんです。実は1960年代までは新規参入規制や国際線・国内線の棲み分けや国内線のテリトリー規制など様々な規制がありました。そのおかげで、アメリカには世界最大の航空会社が存在しました。それが、パンナムことパン・アメリカン航空です。

内山:「ほう、昔はそんな感じだったんだ。日本と似てますね」

それが1970年代に入ると航空自由化が行われて環境が変わります。これまでの規制が無くなり、航空会社は競争にさらされることになります。

岡崎:「そのタイミングで登場したのがサウスウエスト航空だな」

そうです。サウスウエスト航空にとっては良かった航空自由化ですが、アメリカの航空業界には大きな事件を巻き起こします。

内山:「何が起こったんですか?」

世界最大の航空会社パン・アメリカン航空が経営破綻します。恐らく自由化の流れに対応出来なかったんでしょうね。自由化後業績がどんどん悪化して、事業の切り売りで何とか息をつないでいたものの、1991年に経営破綻して消滅します。

岡崎:「世界最大だろうがなんだろうが、業績が悪くなったら消滅するっていうのがアメリカらしいな」

そして、パン・アメリカン航空の経営破綻から10年後、世界の航空業界に大きな試練が訪れます。2001年の9.11同時多発テロで航空需要が一気に落ち込み、ユナイテッド航空・ノースウエスト航空・デルタ航空などのアメリカ大手航空会社は経営危機に陥ります。スイスのスイス航空は倒産しました。

岡崎:「当時ニュースになってたよな」

内山:「そういえば、そんなニュース見たことがあるような…」

航空業界の災難はさらに続きます。2000年代半ばから原油価格が高騰を始めて、航空会社の収益を圧迫します。そして、その後リーマンショックが発生。2000年からの10年は航空業界にとっては地獄の10年間だったと思います。

岡崎:「日本でもJALが経営破綻したしな…」

内山:「そんな状況の中でもサウスウエスト航空は結果を出し続けてきたんですか?凄いですね!」

そのサウスウエスト航空の凄さの秘密に今回のシリーズで迫っていきたいと思います。

第2章 サウスウエスト航空のビジネスモデル

前回、サウスウエスト航空は変化の激しい航空業界の中で40年以上黒字を出し続け、高い利益率を誇っていると説明しました。このような結果を残し続けることが出来るサウスウエスト航空のビジネスモデルはどのようになっているのでしょうか?

サウスウエスト航空のビジネスモデル

サウスウエスト航空のビジネスモデルの特徴は「低価格」「直行便」「B737」の3つのキーワードで表すことが出来ます。「低価格で直行便をB737という飛行機を使って運航する」これがサウスウエスト航空の基本的なビジネスモデルです。

内山:「意外とシンプルですね」

では、具体的にどういうことか説明していきます。

低価格

サウスウエスト航空は低価格であることを売りにしています。

内山:「どれくらい安いんでしょう?」

路線やシーズンによって違いはあるでしょうけど、大体他社の2割~3割は安いと言われています。

岡崎:「2割~3割引きだったら魅力的だな」

内山:「そうですね。だけど、運賃を安く設定出来るってことはそれだけ運航コストが掛からないオペレーションをしているってことですよね?どんなことをやっているんだろう?」

その当りの秘密は後々説明していきますので、楽しみにしておいて下さい。

直行便

直行便を運航していることもサウスウエスト航空の特徴の一つです。専門用語で言うと、「ポイント・トゥ・ポイント方式」で飛行機を運航しているということです。

内山:「それって特別なことなんですか??直行便なんて当たり前のことのような気がするんですけど…」

岡崎:「それがそうでもないんだな…。特にサウスウエスト航空みたいに低コストでの運航を行う場合にはポイント・トゥ・ポイントというのは相性が悪い」

内山:「え?そうなんですか??何で???」

それを理解してもらうためには、ポイント・トゥ・ポイントの反対のハブ・アンド・スポークという運航方式を理解してもらう必要があります。
簡単に言ってしまうと、ポイント・トゥ・ポイントが空港と空港を直接結ぶのに対して、ハブ・アンド・スポークでは一旦「ハブ空港」と呼ばれる大きな空港を経由して飛ぶ方式のことです。

内山:「うーん。分かったような分からないような…」

岡崎:「具体的に例を上げると、例えば北海道の釧路空港から九州の鹿児島空港まで飛ぶときに、直接釧路から鹿児島まで行くのが『ポイント・トゥ・ポイント』これは分かるよな?」

内山:「はい」

岡崎:「それに対して『ハブ・アンド・スポーク』では、釧路からの利用客は小型機で一旦北海道のハブ空港である新千歳に飛ぶ。そこで大型の期待に乗り換えて、北海道の他の空港から来た人たちと一緒に福岡空港に行く。で、福岡で鹿児島行きの便にまた乗り換えて鹿児島に行くってことになる。整理すると、釧路(小型機ローカル便)→新千歳(大型機幹線便)→福岡(小型機ローカル便)→鹿児島こんな流れだな」

岡崎さんの説明は分かり易く説明するための例えなので、実際にこんな面倒な便で釧路から鹿児島に行くことは無いと思いますが、イメージとしてはこのようにハブ空港(この場合は千歳と福岡)を噛ませて運航する方式がハブ・アンド・スポークです。

内山:「いちいちハブ空港で乗り換えをするなんて面倒ですね。何でこんなことをするんですか?」

ハブ・アンド・スポークの方が効率が良いからです。ハブ・アンド・スポークではハブ空港間の運航には大型機を使って同一方面に向かう乗客をまとめて運ぶので規模の経済性が働いて乗客一人当たりのコストが下がります。だから、サウスウエスト航空が設立された当初はハブ・アンド・スポーク方式が多くの航空会社で採用されていました。
ちなみにハブ・アンド・スポーク方式は物流業界では広く採用されています。例えば、宅配便や郵便物の輸送はこの方式で行われているので、興味があれば調べてみて下さい。

内山:「おー!じゃあ、今度宅配便屋さんや郵便屋さんが来たら『ハブ・アンド・スポークですね!』って言ってやろ」

岡崎:「多分、『何こいつ?』って思われるから止めておいた方がいいぞ…」

なぜ、サウスウエスト航空はハブ・アンド・スポーク方式を採用しなかったのか?

内山:「だけど、どうしてサウスウエストはハブ・アンド・スポーク方式を採用しなかったんですか?ハブ・アンド・スポーク方式の方が効率が良いんですよね??」

それは、ハブ・アンド・スポークに問題があるからです。1つは「利便性の問題」。2つ目は「飛行機の稼働率の問題」です。
まず利便性の問題から説明をしていきますが、先ほど内山さんが言っていたようにハブ・アンド・スポークはハブ空港での乗り換えを伴うので、利用客からしたら面倒です。

岡崎:「確かに俺も前に海外に行ったときに経由便で行ったんだけど、乗り換えが面倒だったし、乗り継ぎで何時間も待たされて苦痛だったから出来れば直行便で行きたかったな」

大抵の飛行機の乗客は岡崎さんのように思っているはずです。乗客の利便性を考えるのであればポイント・トゥ・ポイントで直行便を運航させた方が良い。もし直行便が無いルートに直行便が運航されればそれだけで乗客は集まります。サウスウエスト航空はそこに目を付けました。

内山:「なるほど…。じゃあ、2つ目の稼働率の問題というのは?」

ハブ・アンド・スポーク方式ではハブ空港でハブ空港間を運航する期待が乗り継ぎ待ちをするために待機をします。例えば、先ほどの例で言えば、新千歳→福岡便が13:00に出発できる準備が整ったとしても、釧路便が15:00着だったら2時間は乗り継ぎ待ちで待機しなければなりません。その間機体は遊んでいる状態になるので、稼働率は低くなります。機体の回転率が低くなると言ってもいいですね。そうすると、1回当りの運航コストが高くなります。

岡崎:「仮に飛行機の固定費が年間1,000万円掛かるとして、年間200便飛べば1便当たりの運行コストは1,000万円÷200回=50万円だけど、100回しか飛べないなら1,000万円÷100回=100万円になるってことだな」

内山:「なるほど、稼働率が低くなる分コストが上がるってことですね」

そこでサウスウエストはこの2つの問題を解消するために、ポイント・トゥ・ポイントでの運航を行うことにしました。

内山:「だけど、それだと乗客一人当りのコストを低く抑えられるというハブ・アンド・スポークのメリットを捨てることになりますよね?他社がハブ・アンド・スポークを採用しているのはそれを捨てることのデメリットが直行便を運航させるメリットより大きいからですよね??」

その通りです。だから、通常であれば「やっぱりハブ・アンド・スポークを採用しておこう」となるのですが、サウスウエスト航空はある解決策を見つけました。それが、サウスウエスト航空のビジネスモデルの3つ目のキーワードとなる「B737」です。

B737

B737とはボーイング社が製造している座席数100席~150席程度の小型の飛行機です。ローカル路線ではよく採用されているので、乗ったことがある方もあるかもしれません。サウスウエスト航空はハブ・アンド・スポーク方式を捨てることで発生する問題をこの機体を使うことで解消しました。

内山:「B737を使うと何で問題が解消するんですか?」

B737というのは小型の機体なのでコストを安く抑えることが出来ます。燃費効率が良いので燃料費が安く済みますし、機体そのものの価格も安いので購入費も安いです。乗客数が少なくても1運航当りに掛かる固定費も少なく抑えることが出来れば、乗客1人当りのコストは抑えられますよね?

内山:「まあ、そうなりますね」

岡崎:「そして、サウスウエスト航空はこのB737のみを使うことにした」

内山:「ん?どういうことですか??」

他の機種は使わないってことです。通常航空会社というのは「乗客数の多い路線には大型機」「ローカル路線には小型機」といった具合に路線の特徴に合わせて複数の機種を運用するのですが、サウスウエスト航空はそうではなくB737のみを運用することにしました。

内山:「ということはサウスウエスト航空はB737しか持っていないと?」

岡崎:「そういうこと」

サウスウエスト航空が1種類の機種しか運用していない理由

内山:「何でですか?多くの乗客数が見込める路線もあるだろうから、少しは大型機を持っていても良さそうなものですけど…」

実は運航する機種を1種類に絞ることには大きなメリットがあるんです。まず、機種が1種類であればメンテナンス用の部品をその機種用のものだけ準備すれば良い。逆に複数の機種を持っていると、その分だけ余計な部品を持っておかなければならなくなってしまいます。すると、当然ほとんど使わない部品なども購入しなければならなくなって、余計なコストが掛かります。

岡崎:「部品の点数が少なければそれだけ購入コストが少なくて済むし、保管コストも少なくて済むってことだな」

また、機種が多くなるとその分だけパイロットや整備士に教育を受けさせなくてはなりません。ですが、機種がB737だけであればB737の操縦や整備についての教育だけを受ければいいことになります。その分教育に掛かるコストも減ります。

岡崎:「他にも、機体をやりくりするための管理の手間も無くなるな」

そうですね。何機種も運用していると、「この路線にはこの機種のこの機体を配置して…。こちらの路線にはこの機種を配置して…」という具合で、機種と機体数の組み合わせを考えて機体をやりくりしなければならないですが、B737のみを運用しているなら機体数のことだけを考えれば良いので管理が楽です。

このようにサウスウエスト航空は運用する機種をB737の1種類のみに絞ることでメンテナンスや教育、管理に関するコストを少なくしたわけです。

内山:「だけど、一つ気になることがあるんですけど…」

岡崎:「何?」

内山:「もし、ある路線で乗客数が増えたらどうするんですか?大型機を持っていないから機種を変えて対応するってことは出来ないですよね?」

岡崎:「大型機が無いなら、便数を増やせばいいじゃない」

内山:「それは分かりますけど、そうしたら機体を多く持たないといけなくなりますよね。さっきB737は小型機だから安いって話が出ましたけど、B737を何機も持つより大型機を1機持った方が安く済むんじゃないんですか?」

岡崎:「だったら、機体を何機も持たなければいいじゃない。1つの機体を何回も使えばいいじゃない」

内山:「さっきからなぜマリーアントワネット?まあ、それは良いとして、岡崎さんが言っていることは分かりますけど、そんなこと出来るんですか?実際にそれが出来ないから普通の航空会社はロスが出ることを分かっていて複数の機種を持っているんじゃないですか?」

岡崎:「そうだよ。普通の会社なら出来ないな。だけど、サウスウエスト航空は普通の会社じゃないからな」

内山:「ということは、サウスウエスト航空は岡崎さんが言っていることをやってのけたと?」

そうです。サウスウエスト航空は常識では考えられない機体の運用を行って、岡崎さんが言っていることを実現してしまいました。何を行ったのかは次で説明します。

第3章 不可能を可能にする「奥義10分間ターン」

第2章でも書いたように、サウスウエスト航空はB737という1種類の機種しか保有していません。運航する機種を1機種に絞ることでメンテナンスや運航管理に掛かるコストを減らすことが出来るメリットはあるものの、乗客数が増えたときの対応には課題が残ります。では、サウスウエスト航空はどのようにこの課題を解決していったのでしょうか?

乗客数が増えた際の航空会社の対応

では、サウスウエスト航空の話に入る前に、まずは通常乗客数が増えた場合に航空会社は一般的にどのような対応をするのかを考えてみましょう。まず考えられる対策としては機種の大型化です。大型の機種に変えればそれだけ座席数も増えて多くの乗客を乗せることが出来るようになります。

内山:「だけど、サウスウエスト航空は大型機を持っていないですよね?」

そうです。ですから、乗客数の増加に対応するためには運航する便数を増やさなければなりません。ただ、そうなってくると増便した分だけ、より多くの機体が必要になります。ということは、それだけ機体の購入コストや管理コストが増えるわけです。

内山:「普通はそうなりますよね。だから、B737を何機も運用するよりも大型機を1機運用した方が有利な気がするんですけど…」

普通に機体を運用したらそうなります。だけど、もし機体を増やさずに増便出来たらどうなるでしょう?普通に考えたらそんなことは無理だと考えます。しかし、サウスウエスト航空は普通の会社ではありません。航空業界の常識とはかけ離れたことをやってのけました。

10分間ターン

内山:「何をしたんですか?」

岡崎:「10分間ターンだよ」

内山:「10分間ターン?何ですかそれ??10分で機体を180度回転させるってことですか???」

岡崎:「そうそう。サウスウエストのスタッフは10分で機体の頭とお尻を反対にすることが…。って、違うわ!」

ベタなノリ突っ込みでしたね…。冗談はさておき、10分間ターンとは文字通り飛行機を10分で折り返し運転させることです。飛行機が到着して10分間でまた出発するから10分間ターンです。

空港に行って飛行機の発着の様子を観察していると分かりますが、飛行機が到着してから再び出発するためには結構時間が掛かります。

岡崎:「出発ゲートで待ってると『飛行機はあるのに何ですぐ飛ばないんだ?』って思うことあるな」

なぜそんなに時間が掛かるのかというと、飛行機の到着から出発までの間には
・乗客を降ろす
・貨物を降ろす
・機内の掃除をする
・座席の備品を補充する
・機内食などを積み込む
・給油する
・機体の点検をする
・貨物を積み込む
・乗客を乗せる
という一連の作業をしなければなりません。これにどうしても時間が掛かってしまうのです。大体1時間くらいは掛かるでしょうか?

内山:「それだけのことをやらなければならないなら、時間が掛かるのは仕方がないですね」

そう。普通は仕方がないことだと考えます。飛行機の到着から出発までは時間が掛かるのが航空業界の常識でした。しかし、サウスウエスト航空はそうは考えませんでした。代わりにこう考えました。「機体を10分で折り返すことが出来れば、少ない機体でも多くの便数を運航出来るようになる」と…。そして、それを実現してしまいました。

内山:「どうやって?」

サウスウエスト航空は10分間ターンをどのように実現したのか?

内山さん。内山さんの会社では仕事を早く終わらせようと思ったら何をしますか?

内山:「うーん。無駄な工程や作業を無くすかな…」

それも大切なことですね。とは言っても、無くすことが出来る工程や作業には限界がありますよね?そうなった場合はどうしますか??

内山:「そうだなぁ。そうなったら人を入れるしか無いですよね」

だけど、そうすると人件費が上がってしまいますよ。

内山:「そうですよね…。うーん。どうしたものか…」

岡崎:「だったら手が空いている人が手伝うようにすれば良い。そうすれば人件費が増えることも無い。人件費を増やさずに機体の運航回数を増やすことが出来れば、それだけコストも下がる」

内山:「いや~。それはそうですけど、そんなに簡単には…」

サウスウエスト航空は岡崎さんと同じことを思いつき、そして採用しました。

内山:「えー?」

マジです。例えばパイロットやCAさんはフライトが終わってしまえば手が空きます。なので、サウスウエスト航空のパイロットやCAさんはその時間を使って機内の掃除を手伝います。今ではLCCでCAさんが掃除をしたりしますが、当時の常識では考えられないことでした。でも、サウスウエスト航空のスタッフは業界の常識に捕らわれないやり方で、誰もが無理だと思った10分間ターンを実現しました。そして、少ない機体数で多くの便を運航することに成功しました。

このようにサウスウエスト航空は業界の常識に捕らわれない独自の発想と創意工夫で数々の偉業を成し遂げてきたのです。

第4章 常識外れのコスト削減策

第3章では10分間ターンについて書きましたが、サウスウエスト航空はその外にもそれまでの航空業界の常識では考えられなかった方法でコスト削減を行っています。

コスト削減のためにチケットを廃止

今では見る機会も少なくなりましたが、一昔前までは飛行機に乗るためには紙のチケットが必要でした。

岡崎:「今はeチケットを使うことが多くなってるけど、少し前までは厚めの紙で出来たチケット持って飛行機に乗ってたよな」

内山:「あれを持って空港に行くとなんだかワクワクするんですよね」

「これから飛行機に乗るぞ!」というワクワク感を生み出してくれるあのチケットですが、サウスウエスト航空は発行してくれませんでした。

内山:「え?何で??」

チケットを発行するコストを削減するためです。80年代にサウスウエスト航空がチケットを発行するためのシステムを導入しようと検討をしたことがあったのですが、その時の投資額が数百万ドルも必要だったため、思い切ってチケットを廃止してしまうことにしたようです。

内山:「チケットの発行システムってそんなに掛かるんですか?」

岡崎:「専用端末が必要になったりするから高額になるんだろ。それに紙も専用の物が必要だったりするだろうからトータルで考えたらチケットの発行って結構コストが掛かると思う」

内山:「だけど、チケットが無かったらお客さんは困りますよね?どうしたんですか??」

レシートを渡しました。

内山:「え?レシート??」

そう。レシートです。チケットを買ったときに発行されるレシートを「これがチケットです」と言ってお客さんに渡しました。ただ、チケットだと思わずに間違えて捨ててしまう人もいたようで…。

岡崎:「まあ、そうなるだろうな…」

内山:「その問題はどうやって解決したんですか?」

レシートに大きく「これはチケットです!」と書くことにしました。

内山:「そんな方法で解決を…」

これがサウスウエスト航空です。「チケット?そんなの紙に何か書いてあればいいだろ!だったら、レシートでOK!!」「レシートを捨てた?だったら、レシートに”チケットです!!”と書いておけ!!」こういう単純な発想で仕事をしてしまうのがサウスウエスト航空です。

搭乗券も廃止

内山:「レシートをチケット代わりにするのは分かりましたけど、搭乗券はどうするんですか?飛行機に乗るとチェックイン後にチケットの半券を搭乗券としてくれますよね??それもレシートで代用ですか???」

搭乗券はプラスチック製のカードを使うことにしました。チェックインをすると番号が書かれたプラスチックのカードが「はい。これ搭乗券」と渡されるので、それを搭乗券として使います。

内山:「プラスチックのカード?チケットにはお金掛けないのにそこはお金掛けるんですか?」

岡崎:「そのプラスチックのカードは使い回すけどな」

内山:「使い回す???」

飛行機に乗るときにゲートのところでカードを回収して、それをまたチケットカウンターに持って行って次の便の乗客にまた「はい。これ搭乗券」って渡す訳です。

岡崎:「プラスチックのカードなら何回も使えるから搭乗券の材料費が節約出来てお得」

内山:「いやいや、『節約出来てお得』じゃないですよ。搭乗券には座席番号とか書いてあるじゃないですか。それを回収してしまったら乗客は飛行機の中で迷子になりますよ」

岡崎:「あー、それは問題無い。だって、サウスウエスト航空には座席指定という概念が存在しないから」

内山:「座席指定が無い?じゃあ、座席はどうやって決めるんですか??」

早い者勝ちです。チェックインした順番に飛行機に乗って、後は座席争奪戦です。先ほど”搭乗券”と言いましたが、実質的にはプラスチックのカードは飛行機に乗ることが出来る順番が書いてある”整理券”ですね。

だから、飛行機の中で『おい、ねーちゃん。俺の座席はどこだ?』っていうおじさんを目撃することもありません。だけど安心して下さい。搭乗客全員の座席は確保してあるので。

岡崎:「ただ、チェックインが遅いと2人分の座席を使うような体の大きな人の隣になって、『これなら立っていた方がマシ…』ってなるかもしれないけどな…」

内山:「座席ぐらい指定すればいいのに…。何で全席自由席なんですか?」

これは推測ですけど、その方が搭乗がスムーズなんじゃないですかね。座席が指定されていると、座席を探す時間も掛かるし、座席が決まってる安心感からなかなか席につかない人もいるじゃないですか。

岡崎:「あと、いつまで経っても搭乗口に現れない奴とかな…」

内山:「そっか、自由席にしたら皆良い席取りたいから早く飛行機に乗って座ってくれるわけか…」

前回話したようにスタッフが皆で協力して出発準備を整えても、乗客が席に付くのが遅かったら10分間ターンは出来ないですから、そういう意味でも全席自由席にするのは合理的だと思います。

他社に先駆けてチケット予約のオンライン化

内山:「こうやって話を聞くとレシート状のチケットとか、プラスチックの搭乗券とか実際に見てみたくなりますね」

残念ながら、今はオンライン化されているのでレシート状のチケットやプラスチック搭乗券はもう体験出来ないです。座席争奪戦は今でも変わらないですけど。ちなみに、サウスウエスト航空は現在一般的になっているeチケットのパイオニアでもあります。1995年には既にそのシステムを導入していました。

内山:「95年に?アナログなことをやっていたと思ったら次は最先端のことですか…。良いと思ったらどんなことでも取り入れてしまうんですね」

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