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【キーエンス編】高付加価値企業キーエンスのものづくりと人づくり(全7章)

高付加価値企業キーエンスのものづくりと人づくり 連載記事
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第1章 キーエンスの凄さ

今回の連載企業では高収益・高給与で有名なキーエンスを事例として取り上げます。高収益を出し続けているキーエンスですが、どうしてそのようなことが可能なのでしょうか?今回のシリーズではキーエンスの「人づくり」と「ものづくり」という観点でその秘密に迫ってみたいと思います。

キーエンスって何をしている会社?

今回の連載記事のテーマはセンサーやFA機器などで有名な企業「キーエンス」です。

岡崎:「またマニアックなところに目を付けたな」

内山:「製造業に関わる人は知ってる凄い会社ですけど、一般の人は知ってるのかなぁ…」

事例企業としては少々マニアックかもしれませんが、生産性の向上が叫ばれる昨今。この会社のことを知っておくことは非常に重要だと思うので、今回のシリーズの事例として取り上げることにしました。
第1章の今回はキーエンスがどんな会社なのかよく分からない方もいると思うので、キーエンスが何をしていて、何がどう凄いのかを説明していきます。

まずはキーエンスの会社概要ですが、キーエンスは大阪府にある会社で主に工場で使う電子機器を作っています。

岡崎:「センサーや測定機が有名なイメージだな」

内山:「電子顕微鏡やマイクロスコープもありますね」

他にもPLCやハンディーターミナルなども取り扱っていますね。大きな会社なので製品ラインナップは豊富です。メーカーの仕事に関わっていない限り、直接キーエンスの商品を目にする機会は少ないですが、スマホや自動車の製造工程に数多く使われていたりするので、一般の人でも間接的には関りが深い会社です。

そんなキーエンスですが、メーカーで働く生産技術担当者・現場の担当者の方や投資家、就活生の間では有名です。どう有名なのかをここから説明していきます。

「キーエンスなら何とかしてくれる」 ~エンジニアの強い味方~

キーエンスの製造業の生産技術担当や現場の方の間では超有名です。どれくらい有名かというと…

岡崎:「メーカーで生産技術担当しててキーエンス知らないなんてことあるか?」

というレベルの知名度です。なぜそこまで有名なのかというと、キーエンスに頼れば難しい技術課題も解決出来るからです。例えば、「検査を効率よくやりたいけど、良い方法が見つからない」というときにキーエンスに相談すれば、「この測定機をこのように使えば解決出来ますよ」といった解決策をばっちり示してくれたりします。他の業者さんに相談して何ともならなかったことでも、キーエンスなら何とかしてくれることもあります。

岡崎:「俺は難しい課題でも『それでもキーエンスなら…。キーエンスなら何とかしてくれる…!!』って思ってるとこあるけどな」

内山:「無理難題にくじけそうになっても『まだ慌てるような時間じゃない』ってキーエンスの担当者が言ってくれるような気がしますよね」

スラムダンクの仙道君のようにメーカーのエンジニアの強い味方。それがキーエンスです。

「高収入が魅力的」 ~就活生にも大人気~

キーエンスは就職活動をしている学生さんたちの間でも有名です。就職したい企業ランキングでは毎年上位にランキングするほどの人気企業です。

内山:「それ知ってますけど、何でそんなに人気なんですかね?」

学生さんによって理由は様々でしょうけど、理由の一つはその年収の高さにありますね。

岡崎:「実際いくらくらい貰えるんだろ?」

キーエンスの2019年の有価証券報告書によると、社員の平均年収は18,392千円となっていますね。

内山:「かなり高いですね。っていうか有価証券報告書で年収公開するってことは待遇に自信あるんだな…」

メーカーとしては驚異的な額ですね。この水準の年収を得ようと思ったら外資系企業に行くか、有望なスタートアップ企業を探して将来にかけるしかないですからね。学生さんにとってインパクトはあると思いますよ。

岡崎:「キーエンスの年収と言えば、キーエンスの年収の高さを表す有名な言葉あったよな?」

「30代で家が建ち、40代で墓が建つ」ってやつですね。30代で家が建てられるほどの高収入が得られるけど、40代で墓が建つほどの激務って意味ですけど、40代の部分はウソです。仕事は厳しいですが、長時間残業は無いし、休日もしっかり取れるのでブラックではありません。しっかりと結果を残していれば自由にやれる部分も多いらしいので、仕事が合う人には働きやすい会社じゃないかと思いますけどね。

内山:「まあ、そのあたりは他の会社も同じですね」

ちなみに、もう十数年前の話になりますが、私が就活をしていたころもキーエンスは人気で友達も何人か応募してました。頼んでも無いのにどこからかキーエンスの会社研究本が届いたりしましたしね。

「営業利益率50%」 ~メーカーとしてはあり得ない高利益率~

そして、キーエンスは我々企業経営に関わる方や投資家の方たちの間でも有名です。なぜなら、毎期メーカーとしてはあり得ないんじゃないかってほどの高利益率をたたき出しているからです。メーカーの平均的な営業利益率は4%前後と言われる中で、キーエンスは50%の営業利益率を誇っています。

岡崎:「そこが一番すごいよな」

しかも、利益率が高いから財務体質も健全です。財務体質の健全さを表す自己資本比率は2019年度で95.8%。

内山:「超健全経営ですね」

高収益かつ健全ということで、経営に関わる人たちからも大きな注目を浴びているのがキーエンスです。

岡崎:「うーん。知ってはいたけど、改めて見てみるとやっぱりすごい会社だな」

内山:「だけど、何でこんなことが出来るんですかね?」

ということで、今回のシリーズではキーエンスはどうしてこんなことが出来るのかを「ものづくり」と「ひとづくり」という切り口で迫ってみたいと思います。


第2章 キーエンスのビジネスモデル

第1章でキーエンスは50%という驚異的な営業利益率を出し続けていると説明しましたが、第2章ではそのような利益率をたたき出すキーエンスのビジネスモデルはどうなっているのかを考えてみたいと思います。

ファブレスメーカー キーエンス

キーエンスはメーカーですが、工場は持っていません。キーエンス本体は「開発」「企画」「販売」という業務に特化していて、「製造」は外部に委託しています。

岡崎:「ファブレスメーカーというやつだな」

そうです。有名企業でファブレスなところは結構ありますね。例えばアップルとか。

内山:「メーカーなのに工場を持たないのは何でですか?ファブレスにするのはそこに何かしらのメリットがあるからですよね?」

ファブレスのメリットとしては製造に関わる経費が掛からないということがあります。「スマイルカーブ」という考え方があるのですが、この考え方によると研究開発などの上流工程と販売・アフターサービスといった下流工程は付加価値が高くて、中流の製造工程は付加価値が低いとされているんです。ファブレスのビジネスモデルの会社はこの考え方を採用して付加価値を最大限に高めようとしているケースが多いですね。

内山:「キーエンスの収益性が高い理由はファブレスのビジネスモデルを採用しているからですか?」

えーと、それもあると思いますが、それだけが高収益を生み出す理由では無いと思います。というか、私はむしろ「ファブレス」というコスト面の部分に囚われすぎると、キーエンスの収益性の本質を見失ってしまうんじゃないかと思っています。

岡崎:「ということは、キーエンスの収益性の高さの理由は他にあると?」

そうですね。キーエンスの収益性の秘密を理解するためには売上・営業面に注目しないといけないと思っています。

商品を高く売って儲けろ

どのような商売でも高い収益を得るためには商品を「安く作って、高く売る」必要があります。

岡崎:「当然そうだな」

そして、キーエンスの高収益の秘密は「高く売る」という部分にあると私は思っています。とは言っても、コストを掛けて商品を作っていたら利益は確保出来ないので、「安く作る」の部分も重要ですしキーエンスはそこにも力を入れていますが、「安く作る」の部分は従であって、主は「高く売る」だと私は考えています。では、どうやって「高く売る」を実現しているのかをここから考えてみたいと思います。

世の中に無い商品を提供して高い付加価値を得る

商品を高く売るためには、まずは「高く売れる商品」を用意しなければなりません。では、「高く売れる商品?」とはどんな商品でしょうか?

内山:「うーん。そうだなぁ…。まだ誰も作っていない商品とか?」

そうですね。まだ誰も作っていない商品、まだ世の中に無い商品であれば高く売れます。少々値段が高くてもキーエンスでしかその商品を作っていない、つまりキーエンスが独占状態にある商品であれば、キーエンスから買うしかありません。

岡崎:「独占状態にあるものは高く売れるというのは経済の原則だからな」

実はキーエンスはこの「世に無い商品」ということにこだわって商品開発を行っていて、次々と「世界初」「業界初」の商品を送り出しています。キーエンスが世に送り出す製品の7割が「世界初」「業界初」です。

内山:「そういえば、キーエンスの営業さんは商品説明で『ウチが初です』ってよく言ってる気がします」

私も何度も聞いたことがあります。こうやって他社に先駆けて次々と世の中に無い商品を送り出すことで、「他社が類似品を出すころにはキーエンスは次の商品を出している」という状態を作り出すことで、キーエンスは高く売れる商品を売り続けています。

岡崎:「だけど、実際キーエンスの商品って高いかな?知り合いの中には高いってイメージを持っている人もいるけど…」

高く感じるかどうかは費用対効果の問題というかキーエンスの商品にどれだけの価値を見出せるか次第じゃないですかね?使い方次第と言ってもいいかもしれないですけど…。私は仕事柄何度かキーエンスの商品を検討する場に立ち会ったことありますけど、「こういう使い方でこれだけの効果が得られるならそこまで高くないな…」という印象だったことが多いですけど。まあ、いずれにせよ検討の窯の中に入れてみるのはありだと思いますよ。

能力の高い人材による提案力

まだ世の中に無い商品は高く売れる可能性を秘めていますが、一つ大きな問題があります。世の中に無い商品は売りづらいです。

内山:「そりゃそうですね。どんなものかよく分からない上にそれなりの値段だったらなかなか『買おう』という判断はしづらいですね」

この当りが高くものを売ろうとするときに難しいところです。そこで重要になるのが「提案力」です。

岡崎:「どんなに売り物が優れていても、売り方がいまいちだったら売れないから提案力は重要だな」

キーエンスはその提案力にも定評があります。というか、その提案力の高さに価値を見出している人たちも多いです。キーエンスの営業さんに「こんなことやりたいんだけど…」という要望を伝えると、「ではこの商品はどうでしょう?」と的確な商品を持ってきてくれて、「こんなことが出来ます」というデモまでしてくれたりします。

内山:「あの提案受けると欲しくなっちゃうんですよね…」

車の試乗会と同じ気分になりますよね。こうやって「欲しい」「必要だ」という気持ちにさせてくるので、キーエンスの提案力はすごいです。

こうやって「売り物」と「売り方」両面で価値を感じさせて高く商品を売ることが出来るのがキーエンスの高収益の大きな秘密だと私は思っています。

約80%の粗利益率

岡崎:「高い付加価値を付けて売ることでキーエンスは50%という驚異的な利益率を出してるんだな。ところで、キーエンスの粗利益率ってどれくらいなんだ?それを見たらどれだけの付加価値を付けているか分かると思うんだけど」

そこも調べてあります。キーエンスの粗利益率=売上高総利益率は約80%です。

内山:「80%?めちゃくちゃ高いじゃないですか」

経産省の調査によると製造業の売上高総利益率の平均は20%~30%ですからそれと比べるとかなり高いですね。この高い粗利益率には理由があるんですけど、それはまたシリーズの後半で説明します。


第3章 キーエンスの人づくり

第2章でキーエンスの高収益の秘密は商品の開発力と提案力にあるとお伝えしましたが、今回は「提案力」の部分についてもう少し深堀をしていきたいと思います。

適切な提案を行うために必要な「企画力」と「考える力」

内山:「キーエンスの営業マンの提案力が高くて、それによって付加価値が発生していることは分かったんですけど、どうやったら提案力を養えるようになるんですかね?」

そうですね…。やはり重要なのは「自分で考えて企画をする力」でしょうね。良い提案を行うためには、相手が「何に悩んでいるのか?」「何が問題なのか?」「どうすれば解決できるのか?」ということを自分なりに論理的に考えることが必要です。

岡崎:「言われたことだけをやっている受身の姿勢じゃ駄目だってことだな」

はい。そして、自分が考えたことを相手に分かり易く伝えるということも大切です。この当りはコンサルの仕事も同じですね。

キーエンスでは常日頃から「考えて企画する力」を養うために、開発や営業担当だけでなく、事務担当の人も様々な改善提案の企画を出すことが重視されているようです。

内山:「改善提案で企画力って養えるものなんですか?」

岡崎:「目的をしっかり理解していれば養えると思うよ」

改善提案の目的

では、少し話が脱線しますが、改善提案の目的について考えてみましょう。内山さんは改善提案の目的って考えたことはありますか?

内山:「改めてそう聞かれると少し困ってしましますが、そうですね…。まず思い付くのは職場の効率化ですかね」

そうですね。それも大切なことです。多くの会社は「仕事を効率化させたい」という目的で改善提案活動を始めることが多いと思います。でも、改善提案活動を続けていると、効率化以外の別の効果も得られるようになります。それが「企画力」です。

改善提案を出すためには、身近なことのの現状を調査して問題点を把握し、その解決策を考えるというステップが必要になるわけですが、これってそのまま商品開発や営業提案の企画をするときのステップと同じなんですよね。

内山:「そう言われてみればそうですね」

だから、改善提案をたくさん出せばそれだけこのステップを繰り返し行うことになるので、それだけ考える力や企画力が身につくってことです。

ちなみに私はメーカー時代に先輩から「改善提案をすると企画をする能力が付くから頑張って出せ!」とよく言われていました。当時はただただ面倒だったので、適当にやっていましたが、今思えばもう少し真面目にやっていれば良かったと少し後悔です。

岡崎:「社員さんに提案力を身に付けさせたいと考えている会社は、キーエンスの真似をして身近な問題の改善提案活動に力を入れてみるのも良いかもな」

<h3>目的志向で考える力を養う

話が脱線して改善提案の目的の話をしたので、脱線ついでに「目的を考えることの重要性」ってことにも触れておきたいと思います。

実は、キーエンスでは「何のためにそれをやるのか?」という目的がすごく重視されていて、上司の人は部下の人にしっかりと目的を伝えて、理解させることが求められるそうです。目的を理解させることで自分で仕事のやり方を考えさせて、結果的に効率的な指示が出来るようにすることを狙ってのことですが、キーエンスはこのような目的志向で仕事を進めてきたから優秀な人材が多く育ったんだと思います。

内山:「目的をしっかりと伝えて、理解してもらうってことは仕事をする上ではすごく大切なことなので、この目的志向の姿勢も真似したいところですね」

データベースを活用して情報を共有

さて、企画力が付いたら実際の提案を考える段階に入るが、このときに必要なのが顧客や商品の「情報」です。

岡崎:「能力があっても提案の材料となる情報が無かったら良い提案は出来ないからな」

キーエンスでは営業が適切な情報を効率的に収集して良い提案が出来るように様々なデータベースが整備されている。具体的には顧客情報のデータベースや商品の事例集などです。通常、顧客情報や商品の活用事例などは暗黙知として個々の営業マンの頭の中に保管されたままになっていることが多いのですが、キーエンスでは営業マンの頭の中の情報をきちんと形式知化して組織として情報が活用出来るような仕組みになっています。

内山:「なるほど、営業マンの提案能力に加えて、情報も資産としてしっかり蓄積されているから良い商品開発や良い提案が出来るわけですね」

直販営業で顧客を知る

第2章でキーエンスのビジネスモデルを説明する際には触れなかったが、キーエンスの営業体制にはもう一つ大きな特徴があります。それが「直販体制」です。通常、産業機器のメーカーは代理店経由で販売を行うことが多いのですが、キーエンスはその体制を取っていません。

内山:「何でですか?」

代理店を使わないことでダイレクトにお客様の接することになって、生の情報が豊富に集められるからですね。

岡崎:「なるほど。営業マンがお客様の担当者や現場に直に触れることで、提案の材料になる様々な情報を集めているわけだな」

そういうことです。直販体制は人もお金も掛かるので大変ですが、キーエンスは敢えて大変な直販体制を取ることで、質の高い提案が出来るようにしているわけです。


第4章 人の能力を引き出すための人事制度

第4章ではキーエンスの人事制度について考えてみたいと思います。

「貢献度」を図る人事評価

優秀な人材を育てるためには人事評価制度が必要になりますが、キーエンスの人事評価はなかなかユニークです。

岡崎:「どうユニークなんだ?」

キーエンスでは人事評価項目として、自身の仕事への「貢献度」が重視されます。例えば、Aさんがあるセンサーの開発に関わり、そのセンサーがヒットしたとします。すると、Aさんは人事評価で「あなたはAという商品のヒットにどう貢献しましたか?」ということが問われます。言い換えると、「どのような付加価値を生み出したのか?」「もし、その人がいなかったらどうなっていたのか?」ということが問われるわけです。

内山:「難しいことを聞いてきますね…」

そう。難しいことを聞いてきます。

岡崎:「常日頃から自分はどんな付加価値を生み出しているのか?ってことを意識して仕事をしていないと、答えられないよな」

そうです。そして、そこにこの人事評価制度の狙いがあると私は思っています。

岡崎:「なるほど…。『仕事の貢献度=自身が生み出した付加価値』を重点評価項目にすることで、皆が付加価値を生み出す行動をするように促しているってことだな」

そういうことです。少し話が横道に逸れますが、会社の風土やそこで働く人の考え方や行動って人事評価項目に大きく影響されると思うんですよ。「年齢」を重視していれば年功序列の風土になりますし、「規則の順守」を重視していれば規律を重視するようになります。「アイデアを出した数」を重視していれば、そこで働く人たちはアイデア豊富になるでしょうし、「重視している項目が無い」ならば特色が無い会社になるんじゃないかと私は思っています。

内山:「『名は体を表す』ならぬ『評価制度は風土を表す』ですね」

岡崎:「そう考えると、キーエンスは「貢献度」を重視することで、付加価値を生み出す風土を作り出しているのかもな」

営業利益の一部を賞与として還元

キーエンスは給与制度もユニークです。これは有名な話ですが、キーエンスでは稼ぎ出した営業利益の一部が業績連動賞与として社員に還元される仕組みになっています。

岡崎:「それは知ってるぞ。だから年収が高いんだろ?」

まあ、実際にキーエンスの社員の方の給与明細を見たことはないので、年収の構成がどうなっているのかは分かりませんが、業績連動賞与の影響は大きいでしょうね。

内山:「だけど、自分の働きが給与としてフィードバックされるとなると、働くモチベーションは高まりますね」

それに、給与が利益と連動しているとなると、会社の利益=自分の利益となるので、利益につながるような行動=付加価値のある行動を取るようになりますしね。このように、給与面でも高い付加価値を生み出すことが出来るような仕組みになっているわけです。

魅力があるから優秀な人材も集まる

ここからは少し採用についても触れておきたいと思います。第1章でも触れましたが、キーエンスは大学生の就職したい企業ランキングで常に上位にランキングするほどの人気企業です。

岡崎:「それだけ人気ってことは、全国から優秀な人材が集まってくるってことだな」

内山:「でも、何でそんなに人気があるんですかね?」

1つは給与面でしょうね。やはりキーエンスの給与はインパクトが大きいですからね。ただ、それ以上に大きいのは、「自分の能力を高められること」だと思います。キーエンスでは提案力などのビジネススキルを厳しい環境で高められるので、そこに魅力を感じて就職する人たちも多いと思います。

岡崎:「優秀な人たちと一緒に働くことで、自分を高めたいって人も多そうだな」

そうですね。優秀な人が増えると会社の魅力が高まって、さらに優秀な人材集まってより多くの付加価値を生み出すことが出来るようになります。そして、付加価値が生まれたら、それを人材に再投資してどんどん優秀な人材を増やしていきます。こうやってキーエンスは優秀な人材を確保するためのの流れを確立することが出来ているから、第1章で説明したような結果を残し続けることが出来ているんだと思います。


第5章 キーエンスの経営方針とコスト意識

これまでキーエンスの人づくりについて話をしてきましたが、ここで少しキーエンスの経営方針についても触れておきたいと思います。キーエンスの経営方針は「キーエンスらしさ」が出ていて非常に面白いです。

キーエンスの経営方針

キーエンスは「最小の資本と人で最大の付加価値をあげる」という経営方針を持っています。

岡崎:「経営方針からして生産性を高めることへのこだわりがすごいな」

内山:「会社としてこういう方針を出しているのであれば収益性が高いのも納得出来ますね」

キーエンスのコスト意識

第4章までは経営方針にある「最大の付加価値」というアウトプットの部分に着目してきましたが、ここで少し「最小の資本と人」というインプット面にも注目してみたいと思います。当然のことながらキーエンスで働く人たちはコスト意識も高いです。

岡崎:「当然そうだろうな」

キーエンスでは特に人の部分に対するコスト意識が高くて、「時間当たり人件費」という指標を常に意識しているそうです。具体的には製品開発のときのプロジェクトメンバーの人件費がいくらになるかとか、営業会議の出席者の人件費がいくら掛かるのか、ということが問われるみたいです。

内山:「なるほど。その時間当たり人件費を出来るだけ低く抑えながら、多くのアウトプットを出すことが求められるわけですね」

そういうことです。そう考えると人選はなかなか難しいですよ。優秀=人件費が高いメンバーを集めたら効果が出る可能性は高くなるけど、その分コストも掛かってしまいます。逆にコストを抑えるために人件費を抑えたらそれなりのものしか出ない可能性も出てきてしまいますからね。インプットとアウトプットを考えながら最適なバランスを取ることが重要です。

岡崎:「俺たち経営者が日々抱えている葛藤と同じだな」

そうですね。私たち経営者もインプットとアウトプットのバランスを上手く取って資源を配分していかないと事業を上手く回していくことは出来ないですからね。そういう意味では、キーエンスは「時間当たり人件費」を強く意識させることで、社員の方たちに経営目線での考え方や行動を促しているのかもしれませんね。

内山:「経営目線での考え方や行動か…。サウスウエスト航空と同じですね」

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第6章 キーエンスの商品開発

第5章まではキーエンスの「人づくり」がテーマでしたが、第6章ではキーエンスの商品開発というテーマで、キーエンスの「ものづくり」に注目していきます。

お客様の役に立つ商品を開発する

キーエンスの商品開発には大きな特徴があります。

内山:「特徴って何ですか?」

「お客様の役に立つ商品を開発する」ということです。商品を開発していると、その商品に使われる技術にこだわってしまいがちですが、いくら技術的に優れたものでもそれをお客様が欲しいと思わなければそこに付加価値は生まれません。

岡崎:「確かにそうだな」

だから、キーエンスでは「お客様の役に立つかどうか?」を第1に考えて商品開発を行っています。

営業と開発のコミュニケーション

お客様の役に立つ商品を開発するためには営業部門と開発部門の連携が鍵になります。いかに両社のコミュニケーションが取れているかということが非常に大切になります。

岡崎:「営業と開発がバラバラに動いていたらお客様のニーズを商品に反映することが出来ないから、両者のコミュニケーションは大切だな」

キーエンスではお客様のニーズを開発にフィードバックして商品を開発する体制が整っています。だから、キーエンスの営業さんに「こういう物が欲しい」というニーズを伝えればその要望を形にしてくれます。このようにして、開発と営業が連携しているから、他社に先立った商品が次々とリリース出来るわけですね。

内山:「営業と開発が上手く連携するための仕組みは何かあるんですか?」

キーエンスでは社内の情報共有を円滑に行えるようにするために、データベースがしっかり整備されていると聞きますね。例えば、商品の活用事例集やお客様の情報などのデータベースです。個々の営業担当者の頭の中にある情報をデータベースという形で形式知化することによって情報の共有、フィードバックがスムーズに出来るようにしているわけです。

付加価値はお客様の役立ち度を測る指標

岡崎:「『お客様の役に立つ商品を開発する』かぁ…。非常に良いことだからうちも是非見習いたいな。ただ、1つ聞きたいことがあるんだけど、教えてもらっていいか?」

何でしょう?

岡崎:「開発した商品がどれだけお客様の役に立っているかってどうやって測ればいいんだ?『これだけお客様の役に立っているぞ』ということが具体的に数値化出来るといいんだけど」

なるほど、そういうことですね。ちなみに、キーエンスでは付加価値を「お客様の役立ち度を表す指標」と考えています。「役に立つ商品は高くても買ってくれるから付加価値も高いはず」という考え方ですね。具体的に付加価値を管理する指標としては粗利益率が使われていて、新商品をリリースするしないを判断する基準にもされています。

内山:「キーエンスではどれくらいの粗利益率があればOKなんですか?」

目標の粗利益率は80%とされているようです。80%に満たない商品はリリースされません。

岡崎:「第2章でキーエンスの売上総利益率が80%って聞いたけど、あれはこの高い目標が達成され続けているからなんだな」

このようにして開発された付加価値が高い商品を営業が的確な提案を行って売ってくるからキーエンスは常に高い収益が得られるようになっているわけです。

第7章 日本の生産性を高めるにはキーエンスのような企業がもっと必要

キーエンス編は今回が最終章です。最終回の今回は今後の日本企業はどうあるべきかということについて考えてみたいと思います。

業務効率の改善だけが生産性の向上ではない

ここ数年、日本企業の生産性の向上が大きな課題だと言われていて、実際に取り組む企業も多いと思います。ただ、日本企業の生産性向上策は、効率の改善=インプットの改善の対策に偏り過ぎている感じがあります。

岡崎:「そう言われてみるとそんな感じもするな」

日本では生産性=インプットがを少なくすることと考えられがちだが、生産性の向上を実現する手段はそれだけではありません。「アウトプットを増やす」という切り口でも生産性を向上させることは出来ます。そう考えると、日本企業が今後取り組むべき本当の課題はインプットを減らすことではなくて、アウトプットを増やすことなのではないかと思います。

今回、連載記事のテーマとしてキーエンスを取り上げた理由は、キーエンスという会社の事例を通してアウトプットの重要性に気が付いて欲しかったからです。

アウトプットに目を向けて将来の成長・発展を目指す

繰り返しになりますが、私はこれからの日本企業はインプットの改善はもちろん大切だが、それ以上にアウトプット側の対策にももっと目を向けないといけないと思っています。なぜなら、アウトプットに目を向けないと、企業や社会のこれからの成長・発展が見込まれないからです。そして、何よりワクワクしないからです。

内山:「確かに、新しい商品やサービスを次々と出して、世の中に価値を提供し続けている会社を見てるとワクワクしますよね」

アウトプットに目を向けることで、新しい価値をどんどん生み出していけば未来の社会もワクワクするものになると思います。だから、これからの日本企業には新しい価値をどんどん生み出してキーエンスのような会社になっていって欲しいと思います。


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