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【プラットフォームビジネス編】世の中を変えてしまう新たなビジネス(全8章)

連載記事
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※本記事は2019年6月から10月までメルマガで配信した記事の内容を再構成したものです。

今回の「プラットフォームビジネス編」では、ここ10年で登場し一気に私たちの生活・社会・経済を変えてしまったプラットフォームビジネスについて迫ってみたいと思います。

第1章 プラットフォームビジネスって何?

世の中を変えてしまったビジネス

今回の連載記事のテーマはここ10年で世界を変えてしまった「プラットフォームビジネス」についてです。2人はプラットフォームビジネスは知っていますよね?

岡崎:「もちろん」

内山:「当然です。プラットフォームビジネスのお陰で僕たちの生活は大きく変わりましたからね」

そうですね。その最たるものがフェイスブックやツイッターなどのSNSですね。他にも、音楽配信サービスや映像配信サービスなど、ここ10年で世の中は大きく形を変えました。そして、その中心となったのがプラットフォームビジネスです。

プラットフォームビジネスって何?

さて、これからプラットフォームビジネス編ではプラットフォームビジネスのビジネスモデルや特徴について色々と語っていこうと思いますが、その前に「プラットフォームビジネスとは何ぞや?」という話をしておきましょう。

岡崎:「確かにプラットフォームビジネスという言葉はよく聞くけど、実際どんなものか分からなかったりするからな」

プラットフォームビジネスというものが世に出てきてからまだ日が浅いので、プラットフォームビジネス自体の明確な定義は無いんですが、私は「インターネット空間上で商品・サービスの提供者とその利用者をつなぐ『場』を提供するビジネス」がプラットフォームビジネスだと解釈しています。

内山:「『場』を提供するビジネスですか?」

そうです。もともとプラットフォームという言葉には「土台」や「基盤」「場」といった意味があります。ほら、駅のプラットフォームって言いますよね?あれは電車を利用する『場』だからプラットフォームと言うんです。

内山:「あー、確かに」

そして私たちは駅のプラットフォームを使って、電車を利用している。つまり、駅のプラットフォームは電車というサービスと私たち利用者をつなぐ『場』としての機能を果たしているわけです。

これと同じように、インターネット空間上で私たちと何かしらの商品・サービスをつなぐ『場』としての機能を果たすことで、収益を得ているビジネスのことをプラットフォームビジネスと言います。

第2章 プラットフォームビジネスを展開している企業とそのサービス

第1章では「プラットフォームビジネスとは何か?」ということについて話をしましたが、第2章ではどのような会社がプラットフォームビジネスをおこなっていて、どのようなサービスが提供されているのかを提供しているのかを紹介していきたいと思います。既に皆さんよくご存知だとは思いますが、少しお付き合い下さい。

GAFAのサービス

グーグル

プラットフォームビジネスを展開している企業のことを「プラットフォーマー」と呼びますが、その中で最も有名なのがグーグルです。グーグルは「グーグル検索」を筆頭に「グーグルマップ」や「Gmail」などの様々なサービスを提供しています。

岡崎:「グーグルさんにはいつもお世話になっています」

内山:「あと、YouTubeもグーグルのサービスですね」

そうですね。そして、よく知られていることですが、グーグルはその収益の多くを広告収入で稼いでいます。「情報を検索する場・提供する場」に人を集めて、そこに広告を出稿させて、その広告から収益を得るというのが基本モデルですが、最近では広告モデル以外でも収益を得られるように「GooglePlay」や「ユーチューブプレミアム」などのサブスクリプションのサービスも多く展開しています。

アマゾンドットコム

巨大EC企業アマゾンもプラットフォーマーです。アマゾンは「マーケットプレイス」というECプラットフォームサービスを運営しています。マーケットプレイスという「商取引の場」を提供し、そこから発生する手数料で収益を得るというビジネスモデルです。

岡崎:「楽天やメルカリなども同じモデルのサービスだな」

アマゾンは他にも色々なプラットフォームサービスを持っています。有名なのはプライムビデオですね。後ほど紹介するネットフリックスと同じサブスク形式や単発視聴の視聴料から収益を得ています。他にもTwitchというゲーム実況配信サービスも運営しています。

フェイスブック

次はフェイスブックです。フェイスブックは「フェイスブック」や「インスタグラム」の他に「メッセンジャー」や「ワッツ・アップ」というメッセージサービスも提供しています。

内山:「フェイスブックも広告収入から収益を得てるんですよね?」

そうですね、フェイスブックのビジネスモデルはグーグルと基本的には同じで、SNSやメッセージサービスという「情報発信・交流の場」を提供し、そこに広告を出すことで広告から収入を得ています。

岡崎:「SNSと言えば、ツイッターも同じモデルだな」

アップル

グーグル・アマゾン・フェイスブックとくれば次はアップルです。アップルもプラットフォームのサービスを提供しています。アップルのサービスとしてはApp Storeが有名ですね。AppStoreは「アプリなどを販売する場」を提供し、販売手数料を得ることで収益を得ています。他にもAppleMusicも有名で聴き放題のサービスや曲の販売など「音楽を聴く場」を提供することで収益を得ています。

内山:「GAFA勢はこんな感じですね」

では、続いてはGAFA以外の有名企業のサービスについてです。

GAFA以外有名企業のサービス

ネットフリックス

GAFA以外にもプラットフォームビジネスを行っている企業は多くありますが、一般的に有名なのは動画配信のネットフリックスでしょう。

岡崎:「毎日夜な夜なネットフリックスで見てるぞ」

私もです。海外作品が多い印象ですが、日本のアニメも充実しているので結構楽しめます。ネットフリックスは「映像作品視聴の場」を提供し、サブスクで収益を得るというビジネスモデルです。

スポティファイ

映像作品配信のネットフリックスに対して音楽配信サービスを提供するのがスポティファイです。スポティファイが提供しているのは「音楽を聴く場」です。

内山:「スポティファイみたいな音楽配信サービスが出てきたおかげで、CDを買ったりレンタルしたりすることがほとんどなくなりましたね」

ですね。ネットフリックスとスポティファイが出てきてから私はほとんどレンタルショップに行かなくなりました。そして、高額の延滞料にびっくりするということも無くなりました。これまで月平均で払ってきた延滞料よりも、視聴料の方が安くて経済的に助かっています。

岡崎:「いや…。延滞するなよ…」

ウーバー

次に紹介するのは配車サービスのウーバーです。

内山:「日本ではウーバー本体よりもウーバーEATSの方が有名なっている印象ですけどね」

ウーバーは「タクシーのドライバーと利用者をつなぐ場」を提供し、手数料収入で収益を得ています。ちなみに、ウーバーイーツも基本は同じで「タクシーのドライバー」が「飲食店」に変わって、飲食店と利用者の間を物理的につなぐ存在として宅配事業者というプレイヤーが加わっていると思ってもらえればOKです。

配車サービスでは他にも「リフト」が有名で海外では様々なプレイヤーが参入している市場です。日本でももう少し経てば配車プラットフォームが一般的になっているかもしれません。

エービーアンドビー

東京オリンピックの関係で一時期よく話題に上がっていた民泊だが、民泊を仲介するサービスを提供しているのがエービーアンドビーです。「家主(貸主)と宿泊客をつなぐ場」を提供して、手数料収入を得ています。

その他のプラットフォームサービス

上記以外にもプラットフォームビジネスは数多く存在しますが、一つ一つ紹介していたらいつまでたっても終わらないので、ここからは主要な分野別にまとめて紹介していきます。

決済系プラットフォームサービス

決済系のサービスとはいわゆるキャッシュレスのサービスです。メジャーどころでいくと「PayPay」や「楽天Pay」「LinePay」など。海外勢でいくと「PayPal」が有名です。GAFAも参入していて「GooglePay」や「ApplePay」「AmazonPay」などのサービスもあります。

岡崎:「決済系のプラットフォームは激戦区だよな」

ですね。何せビジネスで重要な購買データが手に入りますからね。それを使えば新たなビジネス展開も見えてきたりするので、激戦区の市場です。

ゲーム系プラットフォームサービス

ゲーム空間を使ってプレイヤーの「遊び場」を作ったり、「表現の場」を提供するサービスもあります。例えば、フォートナイト編で取り上げたフォートナイトやマインクラフトなどです。

ゲームに関しては今後VRやARが普及していたらバーチャル空間を提供するプラットフォームとして発展していく可能性があると個人的には注目の分野です。

これもプラットフォームサービス?

プラットフォーム「ビジネス」ではないですが、もう一つ有名なプラットフォームがあります。

内山:「何ですか?」

ウィキペディアです。お金儲けはしていないですが「知識を共有する場」を提供していると考えれば、ウィキペディアも一つのプラットフォームサービスなんじゃないかと私は思っています。

岡崎:「なるほど」

第1章でも説明した通り、プラットフォームビジネスという言葉の定義はまだ曖昧な部分があるので、何をプラットフォームビジネスとするかについては意見が分かれるところではありますが、他にも色々とプラットフォームビジネスを行っている企業はたくさんあるので、興味があれば調べてみて下さい。


第3章 プラットフォームビジネスの収益モデル

岡崎:「第2章で思ったけど、一口にプラットフォームビジネスと言っても色々な種類があるんだな」

内山:「ですね。色々なサービスがあるので少し頭が混乱してきました」

では、第3章では収益モデルごとに整理して頭の中をすっきりさせることにしましょう。

プラットフォームビジネスで収益を得る方法

プラットフォームビジネスで収益を得る方法は大きく分けて「広告収入」「サブスクリプション」「手数料」の3つです。

岡崎:「確かに第2章で紹介した会社はそのどれかの方法で収益を得てるな」

内山:「複数の方法を組み合わせるパターンもありますけど、基本はこの3つですね」

では、それぞれがどういったものなのか詳しくみていきましょう。

広告型

広告から収入を得ているものが広告型です。大きな特徴は基本的にユーザーはサービスを無料で利用出来るので、ユーザーを呼び込みやすいということです。

岡崎:「グーグルやフェイスブック、YouTubeはこのタイプだな」

だた、収益を得るためには多くのアクセスが必要なので、どうやってアクセス数を稼ぐかということが課題になります。

内山:「あと、ユーザーの質の維持も大変そうですね」

無料ということは変な人が混ざってくる可能性も高くなるので、いかにフィルターを掛けてユーザーの質を保つかということも重要です。

岡崎:「広告型のサービスだとたまに『広告がうざい』っていう意見も出たりするよな」

ですね。なので、ユーザーが不快にならない広告の出し方も重要です。

サブスクリプション型

月額定額課金で収入を得ているものがサブスクリプション型です。契約者数に応じて毎月一定額の収入が安定して入ってくるというメリットがあります。また、ユーザーにとっても月額定額で使い放題なので、一度契約してもらえればあとは安心して使えるというメリットもあります。

内山:「アマゾンプライム・ネットフリックスがこのパターンですね」

手数料型

取引の仲介をすることで手数料を得るのが手数料型です。アマゾンマーケットプレイス、AppStore、ウーバー、エービーアンドビーなどがこのパターンに該当しますね。

岡崎:「日本だと楽天やメルカリもこのモデルかな?」

ハイブリッド型

プラットフォームビジネスの収益モデルの基本形は上の3つですが、複数の収益モデルを組み合わせているサービスもあります。これをハイブリッド型と呼ぶことにします。

内山:「スポティファイはハイブリッド型ですね」

そうですね。スポティファイは無料版では広告が流れますが、有料版だと広告無しなので、広告型とサブスク型のハイブリッドですね。他にもクックパッドも広告&サブスクのハイブリッドです。

岡崎:「他にも広告型とサブスク型のハイブリッドのサービスは多いよな」

ですね。広告型だとユーザーは集めやすいが収益が安定しない、サブスク型だと収益は安定するがユーザー獲得が難しいという問題があるのですが、ハイブリッドにすれば相互に補い合えますからね。

プラットフォームビジネスの分類は他にも様々な切り口で出来るのですが、今回は収益モデルで分類してみました。

第4章 最強のビジネスモデル

今回のプラットフォームビジネス編を書くに当たって「プラットフォーム革命」という書籍が大きな参考になったわけですが、その著者であるアレックス・モサドとニコラス・L・ジョンソンはその著書の中でプラットフォームビジネスのことを『最強のビジネスモデル』と表現しています。

岡崎:「わずか10数年程度で世界を席巻してしまうだけの力を持っているんだから、確かに『最強のビジネスモデル』かもしれないな」

内山:「でも、何で最強なんでしょう?」

高い限界利益率

プラットフォームビジネスが最強である理由の一つはその損益構造です。プラットフォームビジネスはその構造上、限界利益率が非常に高くなります。

内山:「そっか、何かを仕入れて販売しているわけじゃないから変動費掛からないですもんね」

そうです。ちなみに、「プラットフォーム革命」の中ではこのことが「限界費用ゼロのビジネス」と表現されています。

岡崎:「限界費用とは変動費のことだな」

まあ、厳密に言えばサービスによっては変動費は掛かるでしょうから厳密にはゼロではないですが、プラットフォームビジネスの大きな特徴を表す言葉だとは思います。

そして、限界利益が高ければ売上が上がれば上がった分だけどんどん儲かります。これは損益分岐点の図をイメージしてもらえれば良く分かるかと思います。

さらに、仕入などの変動費が掛からないことにはもう一つ大きなメリットがあります。内山さん。何だと思いますか?

内山:「え?何だろう…」

岡崎:「運転資金が必要無くなるな」

さすが岡崎さん。その通りです。変動費が掛かるとその分運転資金が必要になります。そして、運転資金は事業スケールするときの障害になります。

内山:「ごめんなさい。スケールって何ですか?」

「規模を大きくする」とか「事業を成長させる」という意味だと思って頂ければOKです。

話を元に戻しますね。もし、変動費(仕入)があると「事業規模を2倍にしたい!」と思ったら今の2倍の運転資金をどこかから調達してこなければなりません。当然、変動費の割合が多ければ多いほどその負担も大きくなります。十分な運転資金を確保せずに無理やり規模を大きくすると最悪資金ショートを起こして事業が立ち行かなくなることもあり得ます。

岡崎:「運転資金が必要無ければそんな悩みからも解放されるな」

そして、運転資金が必要なければその分の手元にお金が残るので、その分をサービスの開発や人材の投資資金にも回すことが出来ます。

外部資源を活用して価値を生み出す

岡崎:「だけどさぁ、限界利益が高いビジネスなんて今までもたくさんあっただろ?お前もそうだろ?」

まあ、そうですね。私のような専門職や美理容業、医療業、教育業、ITエンジニアみたいな「人」がそのスキルや知識を商品として提供する業種は限界利益率は高いですね。

内山:「そうなると、限界利益率の高さだけが最強の理由ではないですね」

そうです。実は今挙げたような限界利益率が高い業種って構造的にある大きな問題を抱えているんですよ。

内山:「その問題って何ですか?」

スケールが非常にしづらいんです。なぜならサービスが人に依存するから。人には時間という制約がありますよね?みんな24時間365日の範囲内でしか働けないわけです。つまり、こなすことが出来る仕事の量に上限があるわけです。じゃあ、この上限を超えて仕事をするためにはどうすればいいか?

岡崎:「人を増やすしかないな」

そうですよね。ただ、ここで問題があって、その人の確保が難しいんです。業種によっては特別な資格が必要ですし、資格があってもその人の素質・能力・人柄などの問題があります。これらのことをクリアするためには人材教育が必要ですが、それも時間が掛かります。「仕事が増えたから、明日から俺と同じように働いて」というのは無理なわけです。

内山:「確かにそうですね」

まあ、このような人の問題は業種限らず共通の問題ですが、いずれにせよ仕事をこなすためのリソースの確保に時間が掛かるので、スケールにも時間が掛かります。でも、プラットフォームビジネスは根本的にビジネスの仕組みを変えてしまうことで、この問題をクリアしてしまいました。

内山:「どうやって?」

「外部の人たちに価値を生み出してもらう」という方法を取りました。プラットフォームビジネス以外のビジネスではお客様に提供する価値は会社の内部のリソースを使って生み出します。そして、それがビジネスの常識でした。しかしプラットフォームビジネスはその常識をひっくり返してしまったんです。

具体的には、プラットフォーマーは自分たちはユーザーが使用する「場」だけを提供して、実際の活動はユーザーに行ってもらうという方法を取ったわけです。例えるなら岡崎さんが建物と設備だけ用意して「あとは皆さんここで好きにものづくりをして下さい」と言っているようなものです。

岡崎:「おー、そのビジネス魅力的だな。俺はその様子を見ながら設備の使用料なり売上の一部なりを頂けばいいわけだろ?楽でいいな」

とは言っても、何もしなくていいわけでは無いです。ユーザーはプラットフォーマーが作り出した「場」の環境に魅力を感じて利用してくれているので、環境の整備にはしっかりと力を入れて頂く必要があります。後述しますが、実際にプラットフォーマーは環境の整備に莫大な工数とお金と技術力を投じています。

このように、「外部の人たちに価値を生み出してもらう」という仕組みを作ることで、プラットフォームビジネスはビジネスをスケールしやすくしたわけです。スケール出来ればその分だけ利益も増えます。そして、利益が増えればその分を再投資に回せるので…

内山:「さらに会社は大きくなるわけですね」

岡崎:「そして、そのサイクルが従来とは比べ物にならないほど早い」

だから、このサイクルに上手く乗った企業は毎年指数関数的に成長していきます。創業から数年で世界的企業になるなんてことが普通に起こり得るのがプラットフォームビジネスの世界です。

内山:「まさに『最強のビジネスモデル』ですね」


第5章 プラットフォームビジネスの基本戦略

第4章でプラットフォームビジネスのビジネス構造については理解して貰えたと思うので、第5章ではその構造を活かしてどのような戦略でビジネスを行っているのかを考えていきたいと思います。

一気に成長し、市場を押さえる

ここからはどのようなステップでプラットフォーマーが成長し、莫大な収益を得るようになるのかを考えてみたいと思います。

世の中を席巻しているプラットフォーマーの基本戦略は非常にシンプルです。「一気に成長し、市場を押さえて収益を確保する」です。

岡崎:「それだけ?」

シンプルでしょ?スピードとパワーで勝負するのがプラットフォームビジネスの基本戦略です。ただ、これだけだと不親切なのでもう少し詳しく解説します。

一気に成長する

プラットフォームビジネスの創業者はビジネスの種が見つかるとそれをすぐにビジネスとして立ち上げ形にします。創業に際してまとまった資金が要らないのですぐにビジネスが始められます。

そしてこの時重視されるのがスピードです。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグが「完璧であることより、まず終わらせることが重要だ(Done is better than perfect)」と言っているように、サービスの完成度よりも、まずは「形にすること」が重要視されます。

内山:「多少の不具合は仕方がないと?」

そういうことです。実際初期のサービスには色々と問題があったりしますが、プラットフォームビジネスの創業者からしたら不具合で発生する損失よりも、リリースが遅れることによる機会損失の方がはるかに大きいと考えているんでしょう。この考え方は良く分かります。

岡崎:「お前も同じような考え方してるもんな。『とにかくやってみよう!』が口癖だし」

まあそうですね。基本的に6割見通しが立ったら動いてしまうタイプですね。

内山:「実際、この『けいなび』も6割の時点で立ち上げましたからね」

話を私の話から本題に戻しますね。サービスを立ち上げ、ヒットする見込みが出てくると、次はプラットフォームビジネスのビジネス構造を活かしてスケールをしていく段階に入ります。この段階に入ると、投資資金や人材も集まり始めます。それらのお金や人材を上手に使いながらビジネスを成長させていくわけですが、ある程度ビジネスが成長していくと成長を後押しするある不思議な力が働くようになります。

内山:「不思議な力?」

「ネットワーク効果」です。ネットワーク効果とは利用者が増えれば増えるほど、そのサービスの価値が増すという効果のことですが、このネットワーク効果の力も利用してプラットフォーマーは自分たちのサービスをどんどん成長させていきます。そして、他社の追随を許さないスピードで一気に成長して、あれよあれよという間に市場シェアを押さえてしまいます。

ちなみに、この段階では成長性が優先されるので、利益は後回しにされることも多いです。利益を成長のために再投資しているという言い方の方が良いかもしれませんが。

市場を押さえる

岡崎:「利益を後回しにして、成長を優先させるかぁ…。俺としてはそこまで成長を追い求めなくても良いような気もするんだけど…」

ですよね?でも、プラットフォーマーの場合、経済学的に考えると利益よりも成長を優先させた方が合理的なんです。

内山:「何でですか?」

その説明をするために、一つ質問をさせて下さい。2人は事業が一番利益を出せるのはどのような状態の時だと思いますか?

岡崎:「そりゃ、独占状態のときだろ?」

そうです。ビジネスにおいて一番利益が出せるのは自社しかそのサービスや商品を提供していないという独占状態の時です。また話が横道にそれますが、経営学の世界で有名なマイケル・ポーターの競争戦略に「コストリーダーシップ」「差別化」「集中」という3つの戦略があります。

内山:「聞いたことあります」

マイケルポーター3つの基本戦略 ~どのように他社と競争するのか?~
経営戦略の有名な理論に「マイケルポーターの3つの基本戦略」というものがあります。 経営学の世界では有名なマイケル・ポーター氏が提唱した理論で、企業が競争していくためには「①コストリーダーシップ」「②差別化」「③集中」の3つの基本戦略が...

あれは何を目指しているのかというと、究極的には独占状態を作り出すことを目指しています。ポーターさんの理論の背景には実は「独占状態が最も儲かる」という考え方があって、ポーターさんは「じゃあ、どうやったら独占状態に出来るのか?」ということを考えて3つの競争戦略を生み出したわけです。

岡崎:「なるほど。じゃあ、プラットフォーマーは成長を優先させることで、独占状態を実現して将来的に大きな利益を獲得することを目指しているわけか」

まあ、実際のところは結果的にそうなっているだけかもしれませんけど、プラットフォームビジネスの世界は「勝者総取り」的な性質があるのは確かだと思います。


第6章 プラットフォームビジネスの経営資源と参入障壁

岡崎:「第5章で市場を独占して利益を出すって話が出たけど、独占した後はどうするんだ?獲得した市場シェアを守らないといけないだろ?そのための参入障壁はどうやって作ってるんだ?」

内山:「プラットフォームビジネスはすぐに立ち上げられて、急速に成長出来るんだから何かしらの参入障壁が無いと、独占状態を作り出してもすぐに他のプレイヤーに取って代わられてしまいますよね」

岡崎:「そう。何か『これが参入障壁を生み出している』という経営資源でもあれば、どうやって参入障壁を作っているのかの当りも付くんだけど、それもいまいち分かりづらいからなぁ…」

では、プラットフォームビジネスがどのようにして参入障壁を築いているのかを考えるために、まずはプラットフォームビジネスの経営資源が何なのかということを考えていきましょう。

ユーザーの「ネットワーク」という経営資源

結論から言ってしまうと、プラットフォームビジネスの経営資源はユーザーの「ネットワーク」です。

内山:「ユーザーのネットワーク?」

そうです。そもそも経営資源とは事業や会社の価値を生み出すもののことです。では、プラットフォームビジネスの価値を生み出すものは何かというと、第4章で説明した通り、外部の資源=外部のユーザーのネットワークです。外部のユーザーのネットワークが充実していれば、それだけ価値が生み出されます。

製造業が製品を生産するための「技術」や「設備」。サービス業が「人材」という経営資源を使って価値を生み出しているのと同様に、プラットフォーマーは「ネットワーク」という経営資源を使って価値を生み出しているんです。

良質なネットワークはプラットフォームビジネスの参入障壁

そして、良質な経営資源は参入障壁にもなります。他社が持っていない設備や人材は参入障壁になりますよね?

岡崎:「確かにそうだな」

そう考えると、プラットフォームビジネスの参入障壁は何になるでしょうか?

内山:「ユーザーのネットワークですか?」

はい。プラットフォームを利用する供給・消費双方のネットワークの存在こそがプラットフォームビジネスの参入障壁だと私は考えています。だから、質・量ともに十分なユーザーネットワークがあるうちは独占状態のポジションを維持できる。

岡崎:「だけど、それって逆に考えたら、質と量が上回るユーザーネットワークを獲得した競争相手が出てきたら簡単にポジションをひっくり返されることもあるってことだよな」

そういうことになりますね。だから、そうさせないために、プラットフォーマーはユーザーの獲得・維持のためにあらゆる方策を取っています。

ネットワークを維持・獲得するための施策

では、ここからはプラットフォーマーが具体的にどのような方法でユーザーを維持・獲得しているのかを見ていきたいと思います。

新サービスの追加

ユーザーを維持・獲得する手段としてまず思い付くのが、新サービスの追加です。これはグーグルを例に取ると分かり易いかもしれませんね。

検索サービスで多くのユーザーを獲得したグーグルは、その後、グーグルMap、Gメール、グーグルカレンダー、グーグルドライブ、グーグルフォトなどの新サービスを次々と提供し続けています。

内山:「最近はリモートワーク向けのサービスなんかも次々と出していますね」

このように新たなサービスを次々と提供し、ユーザーにそれを利用してもらうことで、グーグルは他社のサービスへのスイッチングコストを高めて、ユーザーが他に移らないようにしているわけです。

UI/UXの改善

ユーザーを維持・獲得の手段として、UI/UXの改善なども積極的に行っていますね。

岡崎:「UI/UXって何だ?」

「使い勝手」だと思って下さい。具体的に言うと、画面の表示を見やすくしたり、簡単に目的のページにアクセス出来るようにしたり、アクセス速度の改善等ですね。UI/UX改善の代表例はアマゾンですかね。アマゾンはサイトにワンクリック機能を付けることで、利便性を高めてユーザーが離れられないようにしました。

内山:「アマゾンは1クリックで欲しいものが買えるから便利ですよね」

「ポチる」なんて言葉が出来るほど、購入の簡単さには定評があります。調子に乗ってポチり過ぎて家に物があふれるなんてこともしばしばです。

岡崎:「おすすめ機能・関連商品の機能も便利だよな」

そうですね。サジェスト機能もすぐに欲しい商品が出てくるので助かります。あと、ウーバーもUI/UXに力を入れている感じはありますね。

内山:「確かにスマホ1つでタクシーを呼べて支払いまで出来るのは魅力的ですからね」

悪質なユーザーの排除

ユーザーの質を維持するためには悪質なユーザーを排除することも重要です。「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉通り、質の悪いユーザーがサービスに紛れ込むとサービス全体の質も瞬く間に悪化して、ユーザーの離脱を招きます。

フェイスブックはこの点に非常にこだわっています。アカウント名に関する規約もあり、責任を持って情報発信をすることが求められます。創業時からフェイスブックはユーザーの質にこだわっていて、最初はザッカーバーグの出身校であるハーバード大学、その後はアイビーリーグと呼ばれるアメリカのエリート大学の関係者しか利用出来ないようになっていました。

岡崎:「アイビーリーグの関係者なら不適切な投稿はしないと考えたんだろうな」

その後、一般にもサービスを開放することになったわけですが、ユーザーの質を維持するためにに実名登録を原則としました。

ご存知の方も多いと思いますが、フェイスブックというのはSNSサービスの中では後発組です。

内山:「先発組は何でフェイスブックみたいになれなかったんですかね?」

ユーザーが獲得出来なかったという例もありますが、質の維持が出来なかったケースも結構あるみたいです。公開直後はユーザーが付くのですが、変なユーザーが現れるとそれに汚染されて健全なユーザーが離脱してしまったんです。中には「最初は良かったのに、今では怪しい業者と変態しかいない」という状態になってしまったサービスもあるとか。フェイスブックはそんな事例を見ているので、そこから学んでユーザーの質を維持することに力を入れたんでしょうね。

岡崎:「YouTubeもユーザーの質を保つために色々とやってるよな」

そうですね。不適切なアカウントをBANしたり、不適切な動画は収益化出来ないようにしていますね。ちなみに、質の維持はSNS系以外のサービスも力を入れて取り組んでいます。

ウーバーやエービーアンドビーはドライバーやホストの質の担保に力を入れていますし、ネットフリックスやスポティファイが有名映像制作会社やアーティストと契約するのもコンテンツの質を維持するためです。日本でもメルカリが出品商品の制限をしたりしてますよね。グーグル先生も不適切なコンテンツは上位表示してくれません。

内山:「どこも質の維持に必死ですね」

まあ、それが参入障壁ですからね。各社人材と技術をフル活用しながら、ネットワークの維持に必死ですよね。

他のサービスとの連携

あと最近は他のプラットフォームサービスとの連携なんてこともよく行われていますよね。

岡崎:「グーグルアカウントとかツイッターアカウントでログイン出来るやつか?」

そうです。あれもユーザーの維持・獲得には有効です。他のサービスのユーザーに自社のサービスを利用してもらうことが出来るし、ユーザーの質も担保出来ます。ユーザーとしてもユーザー登録の手間が省けるので助かります。

このようにして各プラットフォーマーは彼らが提供する「場」を日々改善して重要な経営資源である「ユーザーのネットワーク」を守っているわけです。


<h2>第7章 データ技術とプラットフォームビジネス

内山:「ここまでの話でプラットフォームビジネスがどういうものか何となく分かってきました。だけど、何でプラットフォームビジネスはここ10年くらいで急に登場してきたんですかね?」

岡崎:「そうだよな。インターネットを使ってサービスを提供しているなら2000年代前半から登場してても良さそうなものだけどな」

では、第7章ではその理由を考えてみましょう。

第7章 データ技術とプラットフォームビジネス

内山:「ここまでの話でプラットフォームビジネスがどういうものか何となく分かってきました。だけど、何でプラットフォームビジネスはここ10年くらいで急に登場してきたんですかね?」

岡崎:「そうだよな。インターネットを使ってサービスを提供しているなら2000年代前半から登場してても良さそうなものだけどな」

では、第7章ではその理由を考えてみましょう。

プラットフォームビジネスが登場した理由

プラットフォームビジネスがここ10年前後で次々と登場した大きな理由に「データ技術の向上」があります。具体的には、データの収集・保管・分析の技術が発達して、データの収集・保管・分析が簡単に低コストで出来るようになったということです。

まず、データの収集についてですが、これは私たちがセンサーの塊のようなデバイスを持ち歩くようになったことで、それまで収集出来なかった情報が収集出来るようになりました。

内山:「センサーの塊のようなデバイスってスマホのことですね?」

そうです。2010年頃からスマホが爆発的に普及したことで、これまで収集出来ないデータが取れるようになりました。一番分かり易いのは位置情報ですね。他にもアプリを使えば大抵のデータは取れます。

岡崎:「あんまり意識してないけど、スマホからかなりのデータ取れるんだよな」

スマホだけあっても通信インフラが不十分だとデータは送れないですが、この点に関しても通信インフラが発達して料金も安くなったことで通信面の問題も解決されました。これで、十数年前には考えられなかった種類と量のデータが簡単に集められるようになりました。

データの保管費用も十数年前と比べたら安くなっています。総務省がストレージ1GB当たりの単価のデータを調査して公表していますが、それを見ると見事に下がっています。また、保管場所に関してもストレージのクラウドサービスが発達したので、物理的な制約も受けずにデータを保管することが出来るようになりました。これで膨大なデータを集めてもコストを気にせずに保管出来るようになりました。

データはコレクションアイテムでは無いので、集めて保管するだけでは意味がありません。データの分析をする必要がありますが、分析に関してもコンピューターの性能向上やソフトウェアのお陰で素早く手軽に分析が出来るようになりました。機械学習の技術も向上したので、必要があれば機械学習も活用出来ますしね。

パーソナライズされたサービス

大量のデータが扱えるようになるとこれまで出来なかったことが出来るようになります。

内山:「具体的にはどういったことが出来るようになるんですか?」

データを活用してユーザー個人に合わせたサービスを提供出来るようになります。これを「パーソナライズされたサービス」と言います。例えば、第6章でも触れましたが、アマゾンで買い物しようとするとおすすめ商品が出てきますよね?あれは購買履歴とか商品の検索履歴のデータからその人に合ったものを推測して提案を行っています。

フェイスブックはその人の属性のデータを参照して広告を出して来たり、「友達ですか?」って言って友達同士の繋がりから友達申請を促したりしてきます。

岡崎:「たまに微妙な知り合いとか出てくるけどな…」

まあ、そのあたりは岡崎さんの人間関係の問題なので深くは触れないようにしておきます…。

内山:「グーグルの広告も人によって違いますよね?」

そうですね。あれも検索履歴や位置情報に基づいて広告を出してきますからね。だから、変なサイトばかり見ていると変な広告が出てくるかもしれませんので、岡崎さん注意して下さいね。

岡崎:「俺に言うな!」

このようにその人にあった提案が的確に出来るので、その分ユーザーの利便性が高まります。そして、提案の精度は集められるデータが多ければ多いほど上がります。だから、プラットフォーマーはあの手この手でデータを集めようとするし、色々なことをデータで判断するのがプラットフォームビジネスの世界です。

内山:「データ至上主義って感じですね」

データ至上主義のリスク

岡崎:「色々なプラットフォームがデータを集めて俺たちに合った提案をしてくれるようになったことで、生活は便利になったよな」

内山:「アマゾンで買い物をするときもいちいち検索しなくても良くなってるし、ユーチューブやネットフリックスを見るときも自分が見たい動画がすぐに出て来ますしね」

確かに便利になりましたね。ただ、便利になったからといってそこに依存し過ぎるのも良くないという考え方もあります。

岡崎:「プラットフォームの提案に従い過ぎるとAIやプラットフォーマーに都合よく支配されるリスクがあるって考え方だろ?」

内山:「なんかSFの世界みたいな話ですね」

そうですね。1984のビッグブラザーやサイコパスというアニメに出てくるシュビラシステムの世界の話みたいですからね。私もさすがに支配って言い方は多少大袈裟な気もしますけど、言っていることは分かります。

岡崎:「便利だからといって、あまりおすすめに従っていると世界が狭くなるからな」

内山:「自分で考えて判断をしなくなりますしね。そういう意味では支配されるって表現もあながち間違いじゃないかも…」

それを防ぐためには自分で情報を集めたり、判断をする努力もしながら上手にサービスを使っていくことが重要ですね。


第8章 これからのプラットフォームビジネス

内山:「プラットフォームビジネスについて、ここまでざっくりと見てきたわけですけど、これからのプラットフォームビジネスってどうなるんですかね?」

岡崎:「多分これからも色々なプラットフォームビジネスが出てくるんじゃないか?アイデア次第では様々な分野で勝負出来る可能性があるわけだし」

ということで、最終章の第8章では創造力を膨らませながらこれからのプラットフォームビジネスについて考えてみたいと思います。

これから出てくるプラットフォームビジネス

内山:「今後はどんな分野のプラットフォームが出来てくるんですかね?」

ヘルスケア分野なんてどうでしょう?アップルがヘルスケア事業でサービスを展開するとは前から言われていますし。

岡崎:「アップルはウェアブル端末などのデバイスがあるから強いよな」

実際にアップルの商品を使うと運動の履歴やヘルスデータ取れますしね。健康意識が高い人は多いから有望な市場だとは思います。医療関係者とかフィットネスジム、ヘルスグッズを扱う人たちを巻き込んだネットワーク作って、そこにユーザーのデータを提供して最適な提案が受けられるサービスが出来たら面白いと思うんですよね。

岡崎:「データ入力したら『高血圧の方におすすめのクリニックはこちら』みたいな提案をしてくれるとか?」

そうです。予防医療って観点で『高血圧のあなたに最適な運動メニューはこれです』みたいにフィットネスジムからアドバイスがもらえるとか。

内山:「『最適な食事』って提案が飲食関係からあってもいいですよね」

で、ネットワークの参加者はプラットフォームからお客さんの紹介受けて、プラットフォームそのものは紹介料貰うなり、ユーザーからサブスクで収入を得るなりするサービスが出てきても面白いかなと思います。

岡崎:「ヘルスケア以外にも金融分野も有望だって聞くけど…」

内山:「フィンテックってやつですね」

金融分野は信用をどう保証していくかってことが極めて重要な課題なので、難しい分野ではありますけど、確かに可能性はありますね。

災害対応プラットフォーム

内山:「他には何かありますか?」

そうですね。他にも交通系やIoT関連などがありますけど、個人的にプラットフォームサービスを作って欲しい分野があるんですよ。

岡崎:「どの分野だ?」

防災分野ですね。

内山:「防災関連ですか?どんなサービスですか?」

では、巨大台風が来たと想定して、このサービスを説明します。まず、台風の進路や降水量・風速等予測が出ますよね?この情報をユーザーの位置情報をもとにしてピンポイントで届けます。

岡崎:「『あなたがいる地域は何時間後にこういう状況になります』という情報を出すわけだな」

そうです。まずはこの情報でユーザーに「災害に会うかも、準備しておかなきゃ」という認識を持ってもらいます。そして、台風が近づいてきたらより具体的な被害予測を出します。自治体のハザードマップのデータや過去の被害データなどを使って「この地域はこういう被害が出る可能性がある」という情報を提供します。

内山:「具体的な被害を伝えることで危機意識を持ってもらうわけですね」

今は交通機関が計画運休の情報を早期に出すので、その情報も折り込みたいです。豪雨でダムが緊急放流する可能性があるなら、その情報も折り込んだ情報を提供します。

岡崎:「『何日の何時から移動出来なくなるぞ!』『何時頃から水位が上がるぞ!』という情報を出すんだな」

事前に知っておくべき情報は漏れなく提供します。ここまでが、実際に台風が来るまでの事前予測段階でやることです。

次は、実際に台風が来てからの話です。この段階では、避難に関する情報を提供します。

内山:「避難所の場所を教えるってことですか?」

もちろんそれもやりますが、避難状況の情報も併せて提供します。具体的には「あなたの近所でこれだけの人が実際に避難している」という情報です。実際の避難状況はスマホの位置情報を使ったり、避難所に避難状況を確認するデバイスを置いて情報収集をします。

岡崎:「なるほど、そうやって実際の避難を促すわけか」

そうです。私も経験ありますけど、災害に合って非難するときに一番気にするのって、避難所がどこかってことよりも「皆はどうしているのか?」ということだと思うんです。実際に災害の後のインタビュー聞くと、被害に合わなかった人は仲間内や、地域で呼びかけて早期に避難しているケースが多いと思うので、この呼びかけをプラットフォームを使って行います。

内山:「昔は地域でやっていたことをプラットフォームにもやってもらうわけですね」

もちろんプラットフォームにアクセス出来ない人もいると思うので、そういう場合はアクセス出来る人が情報を見ながら昔ながらの呼びかけをしてもらいます。とにかく、「早く避難さえしていれば…」という状況を出来るだけ減らせるようにすることがこの段階では大切です。

そして、台風が過ぎ去って被害が出た場合もプラットフォームを活用します。

岡崎:「被害状況をプラットフォームを使って伝えるってことか?」

はい。今でもツイッターなどで被害状況は伝えられているわけですけど、あれをやります。既存のSNSの情報を集約しても良いと思います。あとは、その地域の通信量のデータも集めます。

内山:「通信量?何のためにですか?」

通信量から被害状況を予測するためです。例えばある地域で通信量が減少したらその地域は何かしらの被害に合っている可能性があるってことですよね?通信インフラがやられたのか、電力が無いのか、もっとひどいことになっているのか…。何にせよ被害状況も伝えられない状態になっているってことです。そういう地域を早期に確認して優先的に対処するために通信量のデータを活用します

岡崎:「なるほど」

救援物資の情報も提供したいところです。自衛隊や消防の救援は来ているのか?救援物資は何が必要なのか?ボランティアは必要なのか?こういう情報も提供します。

内山:「思っていたよりも、かなり大規模ですね…」

素人の思い付きなので、技術的な問題などは無視して勝手なことを言っていますけどね…。

実は今のやり方でも上の情報を提供することは出来ていると思うんです。被害予測は天気予報で得られるし、避難状況は自治体で得られているだろうし、被害状況や救援情報は個人の方や救援者の方がやってくれていますからね。

ただ、問題はこれらの情報が細切れの状態になっているので、統合する必要があると思うんです。長々と説明しましたけど、こういう災害情報統合プラットフォームはこれから必要だと思うんですよね。

内山:「僕もそう思います。あとはこれを誰が作って運営するのかってことですね」

そうなんですよ。正直ビジネスにはならないし、公益性が高くて責任も重いですからね…。一企業だけだと中々難しいと思います。どうやって実現するのかはじっくりと考えていかないといけないですね。

ということで、プラットフォームビジネス編は以上です。プラットフォームビジネスにはまだまだ良く分からない部分もありますが、良く分からないからこそこれから発展の余地はたくさんあると思います。だから、まずは今回のシリーズを通してプラットフォームビジネスに興味を持ってもらって、これからどう活用していくのかを少しでも考えて頂ければと思います。


参考資料


プラットフォーム革命――経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか