※本記事は2015年7月から10月までメルマガで配信した記事の内容を再構成したものです。
第1章 原因追究の基本 ~「なぜ」を常に考える~
今回はロジカルシンキング編の最初ですので、ロジカルシンキングの最も基本となる「なぜ?を考える」ということを中心に書いていきます。
ロジカルシンキングの基本は「なぜ?」を考えることから
論理的に物事を考えられる人とそうでない人の違いは何か?ひと言で言ってしまえば、この「なぜ?」を常に考えられているかどうかです。
逆に言ってしまえば「なぜそうなるの?」と聞かれたときに、「なんとなく…」とか「前からそうなってるから」とか「そういうものだから」としか答えられない場合は、論理的に物事が考えられていないということです。
内山:「う…。耳が痛い…」
これから今回のシリーズでは、論理的思考の技術や知識、考え方などを色々とお伝えしていく予定ですが、この「なぜ?」という思考が出来ていないと、いくら他の知識を学んでもあまり意味はありません。
極端なことを言ってしまえば、常に「なぜ?」と考える癖が出来ていれば、論理的思考が出来ていると判断してもいいくらいです。他のことは枝葉に過ぎません。
『なぜを5回考えろ!』
どこかで聞いたことありませんか?トヨタ関係の本を読むと必ずと言っていいほど出てくる言葉です。
恐らくトヨタ系の大手の会社に入ると新人はまずこれを叩き込まれます。何かあるとすぐ『なぜだ?』としつこく聞かれます。
正直、しつこく何度も『なぜ?』と聞かれると苦痛ですが、実はこれが論理的思考を養うための一番良いトレーニングです。
内山:「だけど、5回も『なぜ?』を考えることなんてそんなに出来ないですよね…。心が折れそう…」
岡崎:「大切なことは実際に5回考えられるかどうかじゃなくて、『それぐらい常になぜを考えろ』ってことだな」
素直な子供の気持ちで
さて、今回のテーマにしている『なぜ?』という問い掛けですが、私たちがいざ実践しようとすると中々難しいです。でも、これを何の抵抗もなく軽々と実践する人たちがいます。それが、小さな子供たちです。
小さな子供って結構「何で?」って聞いてきますよね?時には大人が返答を困ることも聞いて来たりします。皆さんも子供のころ大人にやたらと「何で?」って聞いていた記憶は無いですか?
大人になるにつれて中々出来なくなってくる『なぜ?』という問い掛けですが、実は私たちは子供のころは出来ているのです。つまり、論理的に物事を考えるための基本的な力は私たちに元々備わっているのです。だだ、大人になるにつれてその力を使わなくなって来ているだけです。
だから、論理的に物事を考える力を付けたいと思ったら、子供のころに戻って素直な気持ちで『なぜ?』という問い掛けをもう一度やるようにしてみて下さい。
内山:「確かに大人になってくると、色々なことが分かった気がして『なぜ?』って考えなくなってしまいますね」
岡崎:「そうだな。だからこそ普段から意識して、ちょっとしたことでも『なぜ?』って問い掛けをするようにすることが大切だな」
第2章 因数分解という考え方 ~問題を細かく分解して原因を考える~
私たちが仕事や日常生活で直面する問題は1つの要素だけではなく、複数の要素が複雑に絡み合った状態で存在します。そのような状態の中で、問題の原因を的確に探っていくためには、問題の構成要素を細かく分解していく「因数分解」が必要です。
因数分解って何だったっけ?
本題に入る前にまずは因数分解ってなんだったっけ?という話から始めます。少し中学生のころを思い出して下さい。因数分解とは、我々が中学校のときに習った…
X2- X -6=(X+2)(X-3)
とか
X2+ 3X=X(X+3)
というものです。
当時必死に公式を覚えましたよね?あれです。でもこれ、何をやってるんでしょう?恐らく多くの人が、当時「これはそもそも何をやっているのか?」までは考えてないと思います。
内山:「僕も訳も分からず先生に言われるがまま問題を解いていました」
因数分解って何をやっているの?
因数分解で何をやっているのか?ですが、これは、問題の構成要素を分解しています。例えば上の式で言えば、"X 2- X -6"という2次式を"(X+2)と(X-3)"という構成要素に分解しています。
内山:「それは分かりましたけど、何のためにそんなことをするんですか?」
岡崎:「それは『複雑な問題を(より効率よく)解くため』」
岡崎さんが言っているように因数分解は複雑な問題を解くために行います。どういうことかと言うと…
例えば、
”X 2- X -6=0という方程式を解け”という問題があったとして、これを因数分解をせずに解こうとすると…
「えっと…X 2- X -6が0になる数字を見つければいいんだから…。"X=1" あっ、これだと"1-5+6"で"2"になるから違うな…。"X=2"これは計算すると、"4-2-6"で"-4"だ…。"X=3"おー、これなら"0"になるぞ…。あ…。でももう一つ答え見つけないといけないんだよな…。メンドクサイ…。」
ということになります。
岡崎:「まあ、実際はそんなことせずに解の公式ってやつを使えば解けるんだけどな…」
内山:「解の公式って何でしたっけ?」
解の公式が何のことなのかはご自分で調べて頂くとして…。
当てずっぽうに複雑な問題を解いていたら効率が悪いので、因数分解して問題の構成要素を明らかにしてから、解答を考えるのです。これは、数学だけではなく日常の問題でも同じことです。
日常の問題と因数分解
では、ここからは日常の問題に因数分解の考え方をどう活かすのかを説明していきます。
例えば、ある会社の売上高が下がっているとしましょう。なぜ売上高が下がっているのか原因を知りたいですよね?そんな時に因数分解が使えます。少し岡崎さんと内山さんにやってもらいましょう。
岡崎:「まず売上高は『単価』と『数量』に因数分解出来るな」
内山:「『数量』の部分は更に『既存客の購入数』と『新規客の購入数』に分解出来そうですね」
このように因数分解をすると、売上が下がっている原因が「単価なのか?」「既存客の購入数なのか?」「新規客の購入数なのか?」を調べることが出来るようになります。ただ漠然と「何で売上が下がったのか?」と考えるよりも、問題の原因が探りやすくなります。複雑な問題ほど因数分解の能力が重要になってくるので、是非身に付けてみて下さい。
第3章 グルーピング ~論点をまとめて頭の中を整理しよう~
今回のテーマは論点を整理するために必要な『グルーピング』についてです。グルーピングを行うと問題の論点が整理できる、漏れやダブりが無くなる、優先順位付けが出来るなどのメリットがあります。今回はグルーピングの目的とその方法について解説をしていきます。
グルーピングって何ですか?
では、まず『グルーピング』とは具体的に何をするかについて話をします。下の例を見て下さい。
ある会社で営業会議が行われました。議題は「売上が減少しているのはなぜか?」です。会議の中で、「売上が減少している原因はこれだと思う」という意見をメンバーから出してもらいました。すると、こんな意見が出ました。
<売上が減少している原因は…>
①競合会社よりうちの商品が高い
②広告のインパクトが弱い(心に残らない)
③新商品がここ数ヵ月出ていない
④営業部門の人員が足りず、十分な営業活動が出来ない
⑤広告を打つ回数が減っている
⑥ウチの会社は生産コストが高い
⑦他の会社と同じような商品ばかり出している
⑧営業のセールストークが下手
⑨商品のキャッチコピーが弱い
このようにいくつか意見が出たとしましょう。これを…
<広告面の原因>
②広告のインパクトが弱い(心に残らない)
⑤広告を打つ回数が減っている
⑧商品のキャッチコピーが弱い
<商品面の原因>
③新商品がここ数ヵ月出ていない
⑦他の会社と同じような商品ばかり出している
<価格面の原因>
①競合会社よりうちの商品が高い
⑥ウチの会社は生産コストが高い
<人の面の原因>
④営業部門の人員が足りず、十分な営業活動が出来ない
⑧営業のセールストークが下手
というように、より大きな分類で括って整理していく作業が『グルーピング』です。
岡崎:「何かしらの共通点を見つけて整理していくってことだな」
グルーピングの目的
このグルーピングという作業は何のためにやるのか?その説明をしていきます。
1)論点を整理する
グルーピングを行うと論点が整理され、問題の原因追及が行い易くなります。
例えば、上の例で言うと、グルーピング前は1度に9個の原因が出てくるので、頭の中がごちゃごちゃになります。でも、グルーピングを行っておくと、とりあえず大きく分けて4つの原因に分かれるので、論点が絞り込まれてきます。
2)考える優先順位を付ける
1)に関係してきますが、グルーピングを行っておくと優先順位が付けやすいです。例えば、「まずは「広告面の問題」を考えてその次に「価格面」考えて、「人の面」は最後でもいいな」というような感じで優先順位を付けて物事が考えられます。
3)ダブリを無くす
グルーピングをして整理を行うと、「これと、これは同じことだね」というダブリに気が付くことがあります。上の例で行けば、<広告面>の「②広告のインパクトが弱い(心に残らない)」と「商品のキャッチコピーが弱い」がほぼ同じようなことを言っています。ダブリがなくなれば、同じような問題を何度も考える必要が無くなります。
内山:「なるほど~。グルーピングが上手く出来れば効率良く物事を考えられるようになりそうですね」
岡崎:「あと、会議をやるときに問題のグルーピングが上手く出来ていると議論がとっ散らからずに会議がスムーズに進むな」
グルーピングのやり方
最後にグルーピングのやり方についての話をします。
STEP1 とりあえず思いついたことを書く
まずこれやって下さい。頭の中だけで考えるとそのうちわけが分からなくなるので、どんな簡単なことでも紙やホワイトボードに書き出しましょう。ポストイットとかを使うのもお勧めです。後でグループごとに分ける作業が楽になります。
STEP2 グループごとに分けてみる
項目の書き出しが終わったらグループ分けです。最初はあまり難しく考えなくて良いので、「なんとなく、これとこれは同じグループな気がする」とか「同じキーワードが書いてあるから」とかそんな感じで分けてみて下さい。
STEP3 同じことが書いてあれば統一する
多分グループ分けを始めると「これと、これは同じことじゃない?」という項目が出てきます。そういう場合は一本化してしまいましょう。
STEP4 グルーピングの切り口をあれこれ変えてみる
STEP3まで出来れば頭の中は整理されてくるので、ここで止めてもOKですが、「折角なんで、もう少しちゃんとやってみよう」という場合は、このステップに進んで下さい。切り口を変えると違う考えが色々出てきたりします。
岡崎:「グルーピングも普段のトレーニングが重要なので、常に意識してやるようにしてみて下さい」
第4章 因果関係と相関関係 ~それって本当に原因ですか?~
今回は『因果関係』と『相関関係』の話です。
内山:「どちらも良く聞く言葉ですけど、混同しやすくてややこしいですよね」
岡崎:「だから今回のテーマで2つの違いを改めて知っておこう!」
因果関係と相関関係
では、まず「因果関係」と「相関関係」の言葉の定義を簡単に説明しておきましょう。
<因果関係>
『Aが発生したことによって、Bが起こると言い切れるもの(原因と結果の関係があるもの)。A→Bの関係になっているもの』
こうやって書かれると分からないですよね?なので、例をあげると…
交通事故件数と交通事故死亡者数の関係には因果関係があります。
「交通事故が起きるから→交通事故死亡者が起きる」わけです。逆に言ってしまえば、交通事故が起きなければ交通事故死亡者も出ないわけです。
また、因果関係では「A→B」の関係が一方通行です。どういうことかというと、「交通事故が起きるから→交通事故死亡者が出る」は成り立ちますが、逆は成り立たないです。(これを不可逆性と言います)
これが、「因果関係」です。
内山:「Aが起きたからBが起きたと『言い切れるもの』が因果関係ですね」
<相関関係>
『Aが変化したらBも変化するという関係。だだし、Aが変化したことによってBも変化するとは言い切れないもの』
これも言葉だけだと分からないので、例をあげます。
例えば、「車の保有台数」と「交通事故」の関係は相関関係です。
「車の保有台数の増加に伴って、交通事故も増加する」という関係は存在したとしても、必ずしも「車の保有台数の増加」が交通事故の原因だとは言い切れないですよね?
これが相関関係です。
岡崎:「関係がありそうだけど、必ずしもAが変化したからといってBが変化するとは『言い切れない』ものが相関関係だな」
因果関係は相関関係の一部
さて、ここまで読んで「因果関係と相関関係って同じように感じるな…」と思った方もいるかもしれません。
そうです。実は因果関係と相関関係は元々同じものです。どういうことかと言うと、「因果関係は相関関係の一部」です。つまり、因果関係とは相関関係の中で「AだからBが起こる」というメカニズムがはっきり分かっているもののことを言います。だから、「因果関係にある要素Aと要素Bは相関関係にもある」と言えますが、「要素Aと要素Bが相関関係にあるからと言って、この2つが因果関係である」とは言えません。
内山:「相関関係の中から厳しい審査を潜り抜けた選ばれし者が因果関係になるってことですね」
何が言いたいのかというと、
「2つの出来事や要素が関連しているからといって、必ずしもその2つが原因と結果の関係にあるとは限りませんよ」
「要素Aを変化させたら要素Bも変化したから、要素Bの原因は要素Aだ!と安易に考えてはいけませんよ」
ということです。
世の中には一見「因果関係(原因と結果)」と思われていることが、実は「相関関係」にあることがよくあります。
よくある「一見因果関係があるように見えるけど、よく考えたら相関関係」な事例を少しあげます。
よくある事例
①「毎朝子供に朝食を食べさせれば成績が上がる?」
まずこれです。毎朝朝食を食べる家庭の子供の成績と食べない家庭の子供の成績を比較して「ほら、朝食食べる子供の方が成績いいでしょ?だから、お宅のお子さんの成績が上がらないのは朝食を食べさせていないからですよ!」という主張です。
これですが、別に「朝食」と「成績」に因果関係はありません。ただ、相関関係が存在するのみです。じゃあ、朝食食べなかったら成績が上がらないのかって言ったらそうじゃないですよね?この場合は、朝食を毎朝食べさせる→規則正しい生活を送らせる→毎日勉強時間を確保させる→成績が上がる。というロジックが働いているように思います。だから、成績が上がった原因は「勉強時間を確保した」からであって、「朝食を食べた」からではありません。
②「毎日健康サプリを飲んだから、毎日元気?」
これもよくありますね。「毎日サプリを飲んだ人と飲んでいない人の血糖値を比較して…」みたいなやつです。これも、大概因果関係はないです。そもそも健康サプリを毎日飲むような人は健康に対する意識が高いですし、規則正しい生活を送っています。食生活にも気を付けるでしょう。だから、健康サプリが健康になった原因とは言い切れません。
③「トイレを掃除したら会社の業績が上がる?」
最後はこれです。「うちの会社は社長自ら毎朝トイレを掃除するようになったら、業績が急上昇!!」みたいな話がよくありますが、別に会社の業績とトイレ掃除に因果関係はありません。この場合は、社長がトイレを掃除する→従業員も掃除をする→環境が良くなる→士気向上→従業員が積極的に→改善のアクションを取る→業績アップというメカニズムが働いているのであって、トイレ掃除が原因で業績がアップしたわけではないです。
このような感じで他にも色々事例はあります。色々探してみると面白いです。ただ、一つ言っておきたいのは、別に私は「因果関係=良いもの(意味あり)」「相関関係=悪いもの(意味なし)」と言っているわけではないです。朝食を食べることも、サプリを飲むことも、トイレ掃除も非常にいいことです。だからやって頂きたいです。効果も出ると思います。ただ、安易に相関関係を因果関係と思い込んで、「じゃあ、これだけやってればいいんだな」と考えないで頂きたいということです。
内山:「一見因果関係があるように言われていることでも、『本当にそれって因果関係か?』って考えてみることが大切ですね」
第5章 因果関係と相関関係 ~因果関係と相関関係を区別することの意義~
第4章で因果関係と相関関係の違いについてお伝えしましたが、なぜこの2つを区別する必要があるのでしょうか?今回はこの2つを区別することによってどのようなメリットがあるのかを考えていきたいと思います。
因果関係と相関関係を分けることによるメリット
因果関係と相関関係を区別して考えることには次のようなメリットがあります。
①見当違いな行動や対策を避けられる
因果関係と相関関係の区別がついていないと本来原因ではないことを原因だと思い込んで、見当違いの行動を取り易い。又は、本当の原因を見逃してしまうということがありますので、これを避けるためにも因果関係と相関関係の区別は付けておきましょう。
岡崎:「第4章の例で言えば、実は他のことが原因なのに、『ウチの会社の業績が悪いのは、社長の私がトイレ掃除をしないからだ!』と思い込んで、『トイレ掃除のみ』をやる。といったことだな。」
内山:「そんな人はいないと思いますけどね…」
②ミスリードされない
因果関係と相関関係の区別がついているとミスリードされにくくなります。(「ミスリード」というオブラードに包んだ表現をしていますが、要は騙されないということです)
特に悪徳商法なんかはここをついてきますからね。怪しい健康食品などはこれを巧みに使ってきます。
岡崎:「因果関係と相関関係を混同させて意図的にミスリードをするのはあらゆるところで行われているからな」
③思考停止が避けられる
因果関係と相関関係の区別をつけるようになると、思考停止が避けられます。
どういうことかというと、私たちは原因が分からないことに対してものすごく不安を感じるので、何か物事が起きるとその原因を知りたがります。そして、その原因が分かった気になると安心するので、それ以上原因を調べたり、考えたりすることを止めて思考を停止させます。
実はここに問題があります。何が問題かと言うと、我々は原因が分かった”気になる”と安心して、思考を停止させるということです。言い換えれば、我々は『因果関係が分かったという気になった瞬間』に思考を停止させます。
世の中のAとBの関係が本当に全て因果関係ならこれでもいいかもしれませんが、前回お話ししたように世の中には、因果関係と思わせておいて実は相関関係に過ぎないものがたくさんあります。
だから、因果関係と相関関係の区別がついていないと、「Aが変化したからBが変化した」という関係を安易に因果関係だと思い込んでしまい、結局何も考えていない(思考停止)状態に陥ってしまいます。
このような状態を避けるためにも因果関係と相関関係の区別を付けておくことは必要です。
内山:「う…、これは心当たりがあるぞ…」
でも世の中のほとんどのことは相関関係で成り立っている
私は別に相関関係を否定しているわけではありません。相関関係を否定してしまったら世の中が成り立たないですから。
ご存じの方も多いかと思いますが、世の中のほとんどのことは「相関関係」で成り立っています。
「何でか分からないけど、Aを変化させたらBも変化してる」
といった関係の積み重ねで成り立っているのが我々の社会です。
岡崎:「むしろ因果関係がはっきりしていることの方が少ないよな」
内山:「そうですね。飛行機が飛ぶ理由とか薬によってはなぜ効くのかってことも分かってないらしいですし」
でも、だからと言って「相関関係は分かったけど、因果関係は分からないから行動しない」訳にはいかないですよね。そんなことしてたら、個人も会社も社会も発展しないですから。だから、相関関係と上手く付き合って(使いこなして)いくことが、重要になってきます。
岡崎:「だからこそ、因果関係と相関関係の違いを理解して『これは相関関係なのか?因果関係なのか?』ということを考えることが大切になってくるな」
第6章 問題解決の基本 ~「だから何?どうなる?」という問いかけ~
ロジカルシンキング編の第1章で「なぜ?」を考えることについて書きましたが、今回は論理的に物事を考えるために、「なぜ?」とセットで使いたい言葉について書いていきます。
問題解決をするための基本の言葉
「なぜ?(Why?)」が問題の原因を探るためのキーワードであるのに対して、問題の解決策を探るキーワードとして「だから何?だからどうなる?(So What?)」という言葉があります。
この「だから何?」という言葉ですが、どのように使うのかと言うと基本的には「なぜ?」と同じです。何らかの問題点とか、現象とか、行動とかに対してこの質問を繰り返します。
例えば…
奥さん:「最近、スーパーの野菜の値段があがってるのよね…」
旦那さん:「だから何?」
奥さん:「うん。だから最近食費が上がってるの」
旦那さん:「だからどうなるの?」
奥さん:「家計がちょっと厳しいのよね~」
旦那さん:「そう、だからどうするの?」
奥さん:「だから、あなたのお小遣いを来月から減らすことにする」
旦那さん:「え!!!」
このような感じで使います。
内山:「岡崎家で良く聞く会話ですね」
岡崎:「…」
ということは、岡崎家では結構ロジカルにお小遣い交渉が繰り広げられているようですね。ロジカルな考え方が出来る奥様を持つと旦那さんは大変です。
岡崎:「うるさい!ほっとけ!!」
「なぜ?」と「だから何?」はセットで身に着ける
さて、今回のテーマになっている「だから何?」という問いかけですが、これは「なぜ?」という問いかけとワンセットで身に付けて頂きたいです。
というのも、どちらか片方だけだと…
「なぜ?」だけ出来る→頭でっかちで行動が伴わなくなってしまう
「だから何?」だけ出来る→問題の深堀が出来ず、考えが浅くなる
からです。ロジカルシンキングの能力を付けたいなら、この二つはセットで身に付けていきましょう。
内山:「問題の原因を探ることが出来ても、その解決策を考えることが出来なかったら意味無いですし、解決策を思いついてもそれが原因を潰すものでなかったら的外れになってしまいますからね」
ちょっとひと工夫
ちなみに、この「だから何?」という言葉ですが、使う時には少し言い方に工夫をすると効果的です。
例えば…
現象を聞くとき→「だから”どうなる?”」
行為を聞くとき→「だから”どうする?”」
目標・希望を聞くとき→「だから”どうしたい?”」
みたいな感じで、「だから」の後を変えてあげると、質問された方は的確に答え易いです。
岡崎:「こういったちょっとした言い方の工夫で、問題の解決策がすぐに見つかったりすることもあるので、是非お試しあれ」
第7章 目的と手段 ~「何のためにそれをやるんですか?」~
今回のテーマ「目的と手段」は、ロジカルシンキング編の中でもかなり重要なテーマです。
売上は何のために確保するのか?
多くの会社さんで課題になっている売上高の確保。よく聞く話です。さて、ここでひとつ考えてみたいことがあります。
「何のために売上は確保するのか?」
この答えはいくつか考えられると思いますが、一番オーソドックスな答えは「利益を確保するため」です。言い換えれば、利益を確保するという「目的」のために、売上を確保するという『手段』を取るのです。まあ、当たり前の話ですね。ところが、我々はいつの間にか利益を確保するという目的を忘れて売上を確保するという手段のみを一人歩きさせてしまうことがあります。
岡崎:「ありがちな話だな」
内山:「分かってはいるけど、ついついそうなってしまうんですよね…」
これを「手段の目的化」と言います。そして、この「手段の目的化」が発生すると、折角問題に対して対策を取ったのに
「こんなはずじゃなかった…」という結果に終わることがあります。何が起こるのかいくつか例をあげてみます。
手段が目的化することによる弊害
<A社の場合>
A社は数年収益状況が悪く、赤字続きの会社でした。その要因が売上高の減少にあると考えた社長は、社内で売上高アップの大号令をかけて、毎月の会議でも「売上はどうなった?」が口癖になり、売上を上げれば評価される。上げなければ怒られる。「売上が上がればOKなんだ」という風土が出来上がりました。
岡崎:「売上至上主義というやつだな」
その数年後…。A社の収益はどうなったか??
売上は確かに上がりました。しかし、赤字は解消されるどころか、増加しました。
内山:「A社にしてみたら『こんなはずじゃなかった…』って状態ですね」
では、なぜこんなことが起きたのか?
答えは、この会社の営業が売上高を確保するために、利益を考えず安い価格での受注を繰り返したから、また、生産を行う工場側も「売上が確保出来ればいいんでしょ?」と考えコストを全く顧みなかったから、加えて、経営陣も「売上が上がってるからOKだ」と考え、営業と工場にストップを掛けなかったからです。
この場合、本来の目的である、「収益を上げること」が認識されていれば、(売上高アップが目的化していなければ)誰かが、「おい!こんな利益じゃ、売上高上げても意味ないぞ」と言って、途中で軌道修正出来たかもしれません。
<B社の場合>
B社も収益状況が悪い会社でした。B社はA社と違い「利益」を重視していました。B社の社長の口癖は「今期も利益が出てないぞ!何とかしろ!!」でした。そこで、B社では”会計上の利益”を出すために、毎年期末になると売れる見込みのない在庫を大量に作り、利益が出たように見せてました。
岡崎:「会計上、期末を跨いだ在庫は期末棚卸として費用控除されるからな」
だから、帳簿上の利益はしっかり出てました。B社の経営陣は毎期決算書を見て「前期も利益確保出来たな、よしよし」とご満悦。
その数年後…。B社はどうなったか??
倒産しました。原因は「資金繰りの悪化」です。俗に言う「黒字倒産」でした。
なぜこんなことが起きたのか?
原因はキャッシュが無くなったからです。会社というのは、帳簿上の赤字が続いても、債務超過の状態になってもすぐに潰れることはありません。しかし、キャッシュ(現金)が無くなった瞬間にどれだけ帳簿上の黒字があろうと、資産があろうと倒産します。会計上の黒字が良しとされているのは、「会計上黒字ならキャッシュフローはプラスになるはず」という前提に立っているためです。言い換えれば、会計上の利益を出すことはキャッシュフローをプラスにするための手段と言えます。
内山:「この場合キャッシュフローが目的で、利益が手段ってことですね」
では、B社はどうだったのか?B社は売れる見込みのない在庫を大量に作って会計操作してましたよね?在庫というのは、売れなければキャッシュフローを悪化させます。もし、B社の誰かが本来の目的であるキャッシュフローに注目して、「売れない在庫増やして出した利益なんか何の意味もない!」って言っていればなんとかなったかもしれません。だけど、利益自体が目的化したB社ではそれは無理でした。
岡崎:「A社の例もB社の例も十分あり得る話だな」
内山:「そうですね。実際にあり得ることだからこそ『手段の目的化』には気を付けないといけないですね」
「手段の目的化」を防ぐための言葉
これまで「なぜ?」と「だから何?」のロジカルシンキングに必要な2つのキーワードについて説明をしましたが、手段の目的化を防ぐためのキーワードもあります。
『何のために?』
これが、目的をはっきりさせるためのキーワードです。何かしらの行為や行動をするときにこれをやっておくと、目的がはっきりします。目的がはっきりとするということは、目的と手段が分離します。目的と手段が分離すれば、「手段の目的化」は起こりません。
そもそも「手段の目的化」というのは、手段の上位にある目的の存在を意識していないことから始まるので、まずは、この問いかけで上位の目的の存在を意識しましょう。
岡崎:「常日頃から『何のため?』ってことを考えることが重要だな」
一つ上の立場で物事を考えてみる
さて、「何のために?」ということを考えて欲しいという話をしましたが、この問いかけをすると問題が発生することがあります。それが何かというと…
「分からない」
という答えが返ってくる可能性があるということです。
ちょっと時間がある方は、試しに部下や後輩の方に「あなたは何のためにこの仕事をしてるの?」って聞いてみて下さい。もしくは、ご家庭でお子さんに「何のためにこの勉強してるの?」って聞いてみて下さい。そうすると、「よく分かりません」といった感じのニュアンスの答えが返ってくることがあります。一方で「○○だからです」って答えが返ってくることもあります。
この違いはどこから生まれるのかというと、『自分が今いる立場よりも、上の視点から物事を見ることが出来ているか』どうかです。
内山:「今の立場よりも上の視点かぁ…」
岡崎:「平社員なら係長の視点。課長なら部長の視点。初心者なら中級者の視点。子供なら親の視点ってことだな」
これが出来ていないと、「何のために?」という質問にはしっかり答えられないはずです。
「目的(=何のためにの答え)」というのは今自分がいる立場よりも「上の世界」に存在しています。だとしたら、その「上の世界」に行かなければ見つけることは出来ないですよね?
因数分解の話の中で、「何のために因数分解をするのか?」という話をしたと思いますが、あれを因数分解を習ったばかりの子供に聞いてもほとんど答えは出て来ないはずです。それも当然で、彼らは因数分解の「上の世界(二次方程式=複雑な問題)」に行ったことがないので、答えられないです。
立場や環境が変われば目的と手段も変わる
目的と手段の関係ですが、これらは絶対的なものではなく相対的なものです。
内山:「ん?どういうことだ???」
岡崎:「ある人にとっての目的が別の人にとっては手段にすぎないってこと」
岡崎さんが言うように今まで目的だったものが、基準の置き方次第で手段になることは十分にあり得ます。皆さんも会社で上司だった人が昇進して立場が変わった途端に言っていることが変わった。という経験をしたことはありませんか?
内山:「『今まで課長だった人が部長になった途端に行ってることが変わった』ってケースですね」
さて、これはおかしなことでしょうか?
別におかしなことではないです。立場が変われば考えの基準が変わるので目的と手段=言っていることが変わるのは当然です。むしろ、昇進して一つ上の世界に行ったにも関わらず今までと同じようなことを言っていることの方が問題です。
岡崎:「肩書だけ変わって中身は変わっていない=仕事をしていないってことだからな」
ということがあっても別におかしなことではありません。会社の立場(例えば、事業開始直後から安定期に入った)や環境が変われば会社としての方針が変わるのも当然です。むしろ立場や環境が変わっているのに、ずっと同じことを言い続けている方が問題です。
内山:「今自分がいるステージを把握しながら目的と手段を考えるのが重要ってことですね」
岡崎:「とは言っても、人としてのポリシーとか会社の理念とかそういう根本的な部分がころころ変わるのはおかしいからそういうところは気を付けないといけないな」
参考資料
(Toyama Suguru)
中小企業診断士事務所 マスタープランズ・コンサルティング代表
中小企業診断士。経営コンサルタントとして中小企業の経営コンサルティングを行っています。また、企業や商工会議所などでセミナー・講演会活動も行っています。著書:「小さな会社はまず何をすればいいの?~新米社長岡崎の10の物語~」
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