第1章 日清の定番商品の特徴は何?
今回の連載記事のテーマは皆さんご存知の日清食品です。
日清食品と言えばカップヌードル、焼きそばUFO、どん兵衛など誰でも一度は食べたことがあるインスタント食品で有名ですが、その一方で日清食品はCMが一風変わっているというか、ふざけたCMでも有名です。CMの視聴者を混乱の渦に巻き込むだけではあきたらず。時折炎上騒動を巻き起こしたりもしています。今回の連載ではなぜ日清がそのようなCMを流すのかを少し真剣に考えていきたいと思います。
日清食品の定番商品の特徴
本題のCMの話に入る前に、まずは日清の商品について考えていきたいと思います。日清と言えばカップヌードル、焼きそばUFO、どん兵衛などが定番商品として有名だが、これらの商品はなぜ有名なのでしょう?何か商品そのものに目立った特徴などがあるのでしょうか?
内山:「うーん。そう言われてみるとすぐには出てこないですね」
岡崎:「他のメーカーであれば『麺のこだわり』とか『独自の調味料を使ったスープ』とか『独自のトッピング』とか何かしらの特徴があるけど、日清の定番商品にはそういうものがある印象は少ないな…」
もちろん、日清の商品の中には特徴を持たせているものもありますが、私たちがすぐに思い出すような定番商品にはこれといった特徴がありません。
内山:「だけど、特徴が無いのに何で売れるんだろう?」
岡崎:「そこ不思議だよな」
私は日清の定番商品が特に目立った特徴もないのに売れる理由は、日清の商品が「王道の商品」だからではないかと考えています。言い換えると、消費者にとってインスタント食品の基準になっているいうことですね。2人ともカップラーメンならカップヌードル。焼きそばならUFO。うどんならどん兵衛が基準になっていませんか?
内山:「そういわれてみるとそうですね。スーパーやコンビニにいってインスタント食品を買うときはついつい日清の商品と比べてしまいますね」
岡崎:「『このカップ麺はカップヌードルとどこが違うんだ?』って感じで選んだりするよな」
やはり2人もそうですね。2人のように日清の商品が他の商品を選ぶ基準になっていれば、あえて特徴を持たせる必要はありません。なぜなら、最初から日清の商品は選ばれているからです。むしろ、変に特徴を持たせてしまうと基準が変わってしまって大騒ぎになる恐れがあるので、大きな特徴は持たせられないと思います。
内山:「確かにカップヌードルの謎肉が、ある日突然普通のチャーシューになっていたら『何してくれてんだ!』って思うかもしれないですね」
とは言っても少しずつ消費者の好みや時代に合わせて改良はされていますけどね。
どこで差別化をしているのか?
王道の商品として君臨する日清の定番商品ですが、王様としての地位に胡坐をかいて安穏としてもいられません。西日本で絶大な人気を誇る「金ちゃんヌードル」や、とにかくボリュームで勝負を挑んでくる「ペヤング」。「きつねとたぬき」などが虎視眈々と王の座を狙っていますからね。王様は王様なりにその地位を保ち続ける努力をしなければなりません。
岡崎:「日清は日清なりに差別化をしないといけないってことだな」
そうです。だから、日清はそのブランド力を高めることで他社との差別化を図っています。そして、そのためにはどんどんCMを打って消費者の心の中に「日清」という言葉を刻まなければなりません。つまり、CMこそが日清が王様として君臨していくための鍵なのです。
日清の定番商品のCMの特徴
さて、日清に取って非常に重要な商品のCMですが、他社と違う大きな特徴があります。まず、食品のCMにも関わらず、味や作り方に関する言及がほとんどありません。
内山:「そう言われてみるとそうかも…」
カップヌードル、UFO、どん兵衛などは麺類なので「麺のコシが」とか「お湯を入れて…」といった説明があっても良さそうなものですが、そういう話はほとんどありません。あったとしても、「カップヌードルは2分でもうまい」だの「マヨネーズが合う」だの「ふわふわのお揚げを噛んだら狐が可愛く痛がった」だのそんなことばかりです。なぜ食品のCMなのに肝心の味や作り方をあまり説明しないのでしょうか?
岡崎:「そりゃ、みんなもう知ってるからだろ?カップヌードルの味はみんな知ってるし、UFOはお湯を捨てないといけないってこともみんな知ってる」
その通りです。定番商品の味や作り方はもうみんな知っているので、そんなことはわざわざ伝えたりしません。その代わりにインパクトのある映像やメッセージを流しています。それも、他社が真似出来ないぐらいのものを。
第2章では日清が過去に放映したCMを振り返りながら、日清の狙いがどこにあるのかを考えていきたいと思います。
第2章 日清のおかしくて、変わっていて、ふざけているCMの歴史
第1章ではカップヌードル・焼きそばUFO・どん兵衛など、日清の定番食品の特徴について考えてみました。その中で、日清の定番商品のCMには変わったものが多いという話をしましたが、今回は、これまでどのような変わったCMがあったのかを振り返ってみたいと思います。
なお、日清のCMはあまりにも多すぎるため私が個人的に印象に残っているもののみ紹介していきます。
カップヌードルのCM
日清と言えば「カップヌードル」です。日清の主力商品だけあって、これまで数々のCMが放送されています。その中で、まずインパクトに残っているものといえばこちらです。
アーノルド・シュワルツネッガーのやかん回しCM
30代までの人は記憶に残っている懐かしのCMではないでしょうか?当時、日本で大人気だったハリウッドスターの「シュワちゃん」ことアーノルド・シュワルツネッガーさんがやかんをぐるぐると回すCMです。
内山:「懐かしい」
岡崎:「みんな学校とかで真似したよな」
当時私は小学生でしたが、未だに覚えています。日清のおかしなCMの歴史はここから始まります。
「20世紀カップヌードル」シリーズ
20世紀も終わりに近づくと「20世紀カップヌードル」というシリーズが放映されます。これは20世紀の偉人や出来事のそばで俳優の永瀬正敏さんがカップヌードルを食べるというものです。
岡崎:「ゴルバチョフやジョン・レノンが出てきたCMだな」
内山:「シュールな感じで、目を引くものがありましたよね」
「NO BORDAR」シリーズ
2003年ごろからは「NO BORARシリーズ」というメッセージ性の強いCMも放映されました。
内山:「当時はイラク戦争とかありましたからね」
岡崎:「メッセージが強すぎて放送中止になったものもあったんだろ?」
そうです。少年兵をテーマにしたものは刺激が強すぎて物議を生んで放送中止になりました。このシリーズも色々な面で見入ってしまうものでしたね。
「この味は世界にひとつ」シリーズ
2010年に入ると、ボン・ジョビやクイーンなどとコラボ?した「この味は世界にひとつシリーズ」が始まります。
岡崎:「有名アーティストに替え歌歌わせるやつだな。当時『何やらせてるんだ?』って思いながら見てた記憶がある」
内山:「音楽好きはついつい見てしまうCMでしたよね」
CGで口の動きを変えるといった妙なこだわりがあったので、ついつい見入ってしまいましたね。個人的にはこのあたりからおふざけ路線が増えてくると感じています。
「OBAKA's UNIVERSITY」シリーズ
おふざけ路線が過ぎて、各所から怒られることとなったのがビートたけしさんが学長を努める学校で様々なことが起こるという設定の「OBAKA's UNIVERSITYシリーズ」です。
内山:「あー、これ問題になりましたね…」
岡崎:「毎回むちゃくちゃだったからな…」
個人的には攻めていて好きでしたけどね。賛否両論はありましたけど、CMとしてのインパクトは抜群でした。
「HUNGRY DAYS」シリーズ
そして、現在放映中なのが人気アニメをモチーフにした「HUNGRY DAYS 編」です。「魔女の宅急便」や「アルプスの少女ハイジ」「サザエさん」「ワンピース」などの人気アニメとコラボしました。
岡崎:「あのCMだけど、ものすごいこだわって作り込んだんだろ?」
そうですね。ワンピース編に関しては0.1秒程度のコマにワンピースのキャラクターが一瞬登場したり、背景にワンピースの名言が書かれていたり、ワンピースファンにはたまらない内容となっているようです。
内山:「何のためにそんなことを…」
話題作りでしょうね。実際にコマ送りでシーンを解説している動画もYouTubeに上がっていますし、そういう情報が拡散されれば、みんなCMに興味を持ってくれますからね。
「地元から沸かせ」シリーズ
2020年からは「地元から沸かせ」シリーズが始まりました。これはご当地の有名企業とコラボしたCMで、テニスの錦織圭選手、大坂なおみ選手、NBAの八村塁選手が出演していました。
岡崎:「正月から衝撃的なCMだった」
内山:「初めて見ると何が何だか分からないですからね」
一癖あるCMが選ばれていましたからね。
焼きそばUFOのCM
さて、続いては「焼きそばUFO」のCMについてです。日清のCMというとカップヌードルの印象が強いので、その陰に隠れてしまいがちですがUFOも時折おかしなCMを出してきます。
「UFO仮面ヤキソバン」シリーズ
まずは懐かしのCMですが、93年頃に「UFO仮面ヤキソバン」というCMが放送されていました。
岡崎:「そういやあったなそんなCM」
内山:「B級戦隊ものみたいなCMでしたね」
ストーリー仕立てになっていて、妙に続きが気になるCMになっていました。
「ヤキソバン エクストリーム」シリーズ
ヤキソバンの続編です。約20年後のヤキソバンが暗黒面に落ちるというどこかで聞いたような話になっています。
岡崎:「スターウォーズじゃねーか…」
知名度があるものとコラボして、視聴者の印象に残るようにするというのは日清の常とう手段ですからね。その後、吉川晃司さんが出演しますが、相変わらずのB級映画感で注意を引くようなCMになっています。
輝夜月×マキシマム・ザ・ホルモンコラボ
昨年には時代の波に乗るために、輝夜月(かぐやるな)というVTuberとマキシマム・ザ・ホルモンを起用した破天荒なCMも放送されていました。
岡崎:「このCM最初『なんだこの騒々しいCMは!』って思ったらUFOだった」
私は嫌いではないですが、中にはあまりにも奇抜過ぎて不快に思う人も多かったかもしれませんね。とはいっても、「なんだこれ?」と引き付けるインパクトはあるので、CMとしての効果はそれなりにあったんじゃないかと思います。
武田真治×龍が如く×マキシマム・ザ・ホルモンコラボ
時代の波と言えば、筋肉体操で再ブレイクした武田真治さんをCG化したCMも2019年に放送されていました。
内山:「このCMちょっと怖かったんですけど…」
確かにキャラクターの表情と昔のCGの動きで若干気持ち悪さはありましたね。とはいっても、これも輝夜月と同様にインパクトは抜群でした。
どん兵衛のCM
カップヌードルやUFOと比べるとはるかに常識的なCMを流しているのがどん兵衛です。「どん狐シリーズ」はドラマ仕立てで安心して見れますね。
岡崎:「どん狐は日清の良心だと俺は思ってる。吉岡里帆さんもかわいいし」
内山:「どん兵衛はふざけたCMって無いですよね?」
と、思うじゃないですか?でもあるんですよ。ふざけたCMが。TVでは放送されていたかどうか分からないですが、大助花子の宮川大助さんを使って思い切りPayPayのパクリCMをやっていました。
岡崎:「何だそれ?」
内山:「やっぱりそういうことしてきたか…」
「みやがわだいすけ」繋がりでめちゃくちゃやってるCMです。始めて見たときはかなり笑いました。
カレーメシのCM
今回の最後に「ふざけたCMの極み」とも言えるものを紹介しておきましょう。それが、「カレーメシ」です。
内山:「カレーメシって日清の商品の中では新しいですよね?」
発売開始が2014年なので、日清の中では新参者ですね。ただ、CMのふざけ具合は群を抜いています。特に初期のころは…。
(興味がある方は探せば、どこかに動画があるかもしれません)
岡崎:「カレーメシのCMか…。さすがに日清でもやり過ぎだろって最初思った…」
基本的に私たちの心に爪痕を残すことしか考えていないですからね…。でも、初めて店頭で見たときは「こいつかぁ~!」って思って買ってしまいましたよ。
内山:「まんまと日清の作戦にはめられてるじゃないですか…」
実際に被害に合った方は私以外にもたくさんいると思いますよ。まあ、おいしいから良いですけどね。ちなみに、カレーメシのCMは最近では人気アニメなどとコラボして話題になったりしています。最近はコラボCMが多いので落ち着いていますが、またいつ何時ふざけたCMを出して来るか分からないので注意が必要です。
さて、今回はこれまでの日清のCMをざざっと紹介してきました。日清のCMがどのようなものなのかを思い出していただいたところで、次からは「なぜ、日清がこのようなCMを作るのか?」を考えていきたいと思います。
第3章 日清のCMは何がしたいのか?
第2章では日清の特徴的なCMの歴史を振り返ってみました。だいは日清がなぜあのような変わったCMを作るのかを考えてみたいと思います。
日清の変わったCMの目的
さて、今週ですがなぜ日清が変わったCMを作ってくるのか、その狙いについて考えていこうと思います。
岡崎さんはなぜ日清が変わったCMを作ってくると思いますか?
岡崎:「そりゃ、注目を集めたいからだろ?」
そうですね。私もそう思っています。CMというのは15秒~30秒くらいの短い時間の中でいかにして視聴者の印象に残るかということが重要です。CMというのはただ見られるだけでなく、相手の印象に残らなければ意味がないですからね。インパクトのあるCMを流して、一瞬でも注意を引いて「何だこれ?」と思わせたら日清の勝ちです。
無難なCMよりも印象に残るCMを
内山さんに質問ですが、売れる商品と売れない商品の一番の違いって何だと思いますか?
内山:「うーん。その商品の質とかですかね?」
確かに商品のクオリティは大切ですね。ですが、クオリティが良ければそれだけで売れますかね?世の中には質は良いのに売れてない商品もたくさんありますよね?日清さんには失礼ですが、私はカップヌードルよりも特徴があって、おいしいカップラーメンは結構あると思っています。だけど、それらよりもカップヌードルが売れているのは何ででしょう?
岡崎:「知名度があるからだろ?」
そうです。売れる商品と売れない商品の一番の違いは知名度です。特にインスタント食品のように購買の意思決定に時間を掛けないものは知名度の有無が大きく影響します。では、知名度を上げるためには何をすれば良いでしょうか?
内山:「注目を集める」
その通りです。知名度を上げるためには、世間の注目を集めて商品や会社の名前を知ってもらうことが大切です。しかし、日々膨大な量のCMが流れている中で、世間の注目を集めて印象に残るのは大変です。無難なものでは他に埋もれてしまって印象に残りません。他のインスタント食品のCMで印象に残っているCMはありますか?
日清のCMは好き嫌いが分かれていて、「面白い」と好印象を持っている人もいる一方で、「うざい」「気持ち悪い」「やりすぎ」など悪い印象を持っている人もいます。時には炎上もします。しかし、それならそれで良いと思います。なぜなら、「嫌い」という感情を持たれるということや、炎上するということは見た人の印象に残っているということだからです。
かの有名なマザー・テレサの有名な言葉に「愛の反対は無関心」という言葉がありますが、日清にとって一番怖いのはCMが嫌われたり、炎上したりすることよりも、CMに関心を持ってもらえないということ、そして、その結果自社の商品の知名度が下がることだと思います。
岡崎:「確かに、CMに関心を持ってもらえなくなったら今の日清の地位も危うくなってくるな」
日清への信頼が無茶なCMを可能にする
日清は人に嫌われることや炎上することを恐れず、尖ったCMを次々と流して知名度を維持するという戦略を取っているわけですが、この戦略は日清だからこそ出来るとも言えます。
内山:「なぜですか?」
なぜなら、日清には何十年も培った消費者からの圧倒的な信頼があるからです。「CMはめちゃくちゃでも商品はしっかりしている」という信頼があるから、みんな何だかんだ言いながら許してくれるのです。もし、日清が本当におかしな会社だったらこんなことは出来ません。
岡崎:「おかしなCM流したら、途端にガチのクレームの嵐になって信頼がガタ落ちになるな」
そうです。インスタント食品業界の王者として盤石な基盤があるからこそ、ここまで思い切ったことが出来るのです。そういう意味では日清のふざけたCMというのは日清の基盤の強さを測るためのバロメーターなのかもしれないですね。
第4章 日清はCM自体を商品にしている説
日清食品をテーマにした連載も今回で4回目となりますが、記事を書いている中である考えを思いついてしまったので、今回はそのことについて書いていきたいと思います。
日清はCM自体を商品にしていないか?
岡崎:「ある考えを思い付いたって何を思い付いたの?」
結論から言ってしまうと、「日清のCMはそれ自体が商品になっているのではないか?」ということです。
内山:「CM自体が商品?どういうことですか??」
思い付きなので、まだ上手く説明出来ないですけど、CM自体が数十秒の映像コンテンツっていう商品になっているんじゃないかってことです。例えば、カップヌードルのHungryDays編ならワンピースの別物語。どん兵衛のどん狐シリーズなら数十秒のミニドラマっていうコンテンツになっているんじゃないかなと思っている訳です。
岡崎:「また不思議なこと言い出したな。何でそんな発想になったの?」
今回の連載記事を書くにあたって日清のCMを一通りチェックしたんですけど、見ていて面白かったんですよね。繰り返し何回も見てしまうものもありましたし。そして、その時に「面白いって感じるってことは、映像そのものに価値があるってことじゃないか?」って思い始めた訳です。何らかの価値があれば、それは商品として成り立ちますよね?
内山:「だから、日清はCM自体を商品にしていると言っている訳ですか?」
そうです。まあ、実際日清でCM製作に関わっている人たちはそんなこと思っていないかもしれないですけどね。
CMというフロントエンド商品
岡崎:「CM自体が商品だと言っている理由は分かったけど、日清は別にCMでお金を取っているわけじゃないよな?そのあたりはどう考えているんだ?」
確かにCM自体に収益を得る機能は無いですね。ただ、フロントエンド商品としての機能は果たしているかと。
内山:「フロントエンド商品って何でしたっけ?」
ある商品を買うための入り口となる商品です。例えば英会話スクールの無料体験レッスンとか、ソフトウェアの無料体験版のような商品です。無料もしくは低価格でフロントエンド商品を使ってもらって、そのあと本命となるバックエンド商品に繋げていくというのがフロントエンド商品の役割ですね。
岡崎:「その、フロントエンド商品としての機能を日清のCMは果たしていると?」
フロントエンド商品の一番の役割は興味関心を持ってもらうことですからね。そもそも、フロントエンド商品というのはある種の広告ですからね。そういう観点で見ると、日清のCMはフロントエンド商品としての役割を果たしていると思いますよ。
見る人に価値のある広告を
内山:「今回みたいにCMを商品として捉えるという発想は今までなかったなぁ。だけど、CMも一つの商品だと思うと、広告宣伝に対する姿勢も変わってきますね。広告にも何らかの価値を付けないといけないんだなって思います」
そうですね。「キャッチコピーを入れる」とか「目立つようにする」ってことも大切ですけど、広告も一つの商品だと考えて、見てくれた人に何らかの価値を提供出来るような広告を打つことが重要だってことを日清のCMは教えてくれますよね。
岡崎:「『見てくれたひとに何らかの価値を提供する』ってことをキーワードにして工夫を凝らした広告を出すと効果も上がるかもしれないな」
第5章 日清のふざけたCMのターゲットは誰か?
5回に渡ってお伝えしてきた日清のふざけたCMについての連載記事ですが、今回で最終回です。最終回となる今回は日清は「誰に向けてこのようなCMを流しているのか?」ということについて考えていきたいと思います。
日清のCMのターゲットは20代~30代?
さて、今回は「日清のふざけたCMのターゲット」について考えていきたいと思いますが、2人はどのような人がターゲットになっていると思いますか?
内山:「そうですね~。少なくとも年齢が高い人ではなさそうですね」
岡崎:「そうだな。年齢が高い人は怒りだしてもおかしく無いようなCMが多いからな。そう考えるとやっぱり若者向けだよな」
そうですね。私も若い人向けだと考えています。年齢層でいくと20代~30代がメインターゲットかなと思っています。逆に言ってしまうと、この層を狙っているからふざけたCMを流していると言ってもいいと思います。ちなみに、20代~30代の層の狙う理由も考えたんですけど、聞きたいですか?
岡崎:「折角だから教えてもらおうかな」
20代~30代をターゲットにする理由
20代~30代の層をターゲットにしている理由を考えるために、まずはこの層の人たちのライフスタイルを考えてみたいんですけど、20代~30代の人のライフサイクル、特に日々の食事に関するスタイルはどんな感じだと思いますか?
内山:「毎日の食事って観点で考えると、結構適当にしていてOKというイメージがありますよね。健康に気を遣うというより『手軽に済ませたい』とか『安く済ませたい』という意識が強い感じです。僕も独身のころはインスタント食品やコンビニ弁当ばかり食べていましたし」
岡崎:「確かに若いころはそうだよな。だけど、俺みたいに40歳を過ぎてくると、体脂肪がどうだとか塩分がどうだとか気にし始めてインスタント食品は食べられなくなってくる」
2人が言うように、20代~30代の層はまだ食事の自由度が高いので比較的インスタント食品が好まれる傾向にありますね。つまり、インスタント食品を最も買ってくれる可能性が高い層ってことです。これが、日清が20代~30代の人を狙っていると考える1つ目の理由です。
岡崎:「1つ目ってことは他にも理由があるのか?」
はい。1つ目の理由は「今」に注目して考えましたが、「将来」に注目して考えると別の理由も出てきます。
20代~30代の人たちは子供がいる世代もしくは将来子供がいる世代でもあります。このことに注目すると、20代~30代をターゲットにする2つ目の理由が見えてきます。
インスタント食品というのはその特性から考えて、買い置きをするということが可能です。お母さんがスーパーに行ったときにまとめて買って、買い置きをしておくという家庭は多いのではないでしょうか?
内山:「うちはそうでしたね」
では、買い置きをしておくような商品はどのような基準で選ばれるでしょうか?
岡崎:「基本的には印象に残っているかどうかだよな」
そうです。もちろん、安売りされているといった特殊要因があれば話は別ですが、基本的にはその商品が頭に浮かんできたかどうかで決めます。そして、しばらくそうやって選ばれ続けると買う商品が固定化されます。そこの家庭の定番商品になるってことですね。
内山:「買い置きの話は分かりましたけど、それと子供にどんな関係があるんですか?」
定番商品を買い置きしてあることで、常にその商品が子供の目に触れますよね?そうすると、子供は自然と「カップラーメンと言えばカップヌードル」「カップ焼きそばと言えばUFO」と思うようになりますよね?
岡崎:「そう思ってくれたらその子は将来もカップヌードルやUFOを選ぶようになると?」
そういうことです。ある種の教育ですね。まあ、その子が将来「ペヤングの方が良い」とか「金ちゃんヌードルというものがあるらしい」という情報を得てペヤングを気に入ればペヤング派にや金ちゃんヌードル派に転向するかもしれないですが、そうでなければ、カップヌードルやUFOを買い続けてくれる可能性は高いです。
長期的な視点でブランドの知名度を上げる
内山:「ということは、日清は子供が成長した後のことまで考えて、今インパクトの強いCMを流していると?」
まあ、実際に日清の人がどう考えているのかは分からないですけどね。インパクトの強いふざけたCMを流すことで、「ふざけたCMを流す」→「20代~30代の人の印象に残る」→「印象に残っているから商品を選ぶ」→「定番化して買い置きをしておくようになる」→「子供が日清の商品を目にする機会が増える」→「大人になってからも日清の商品を買うようになる」→「日清は長期的にも安泰」。このような流れが成り立つんじゃないかなと私は思っています。
岡崎:「そう考えると、日清のふざけたCMは長期的な戦略の一環なのかもな」
(Toyama Suguru)
中小企業診断士事務所 マスタープランズ・コンサルティング代表
中小企業診断士。経営コンサルタントとして中小企業の経営コンサルティングを行っています。また、企業や商工会議所などでセミナー・講演会活動も行っています。著書:「小さな会社はまず何をすればいいの?~新米社長岡崎の10の物語~」
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