前回、変動費と固定費の説明をしましたが、固定費と変動費が分けられるようになるとある重要な指標を求めることが出来るようになります。それが今回のテーマの「限界利益」です。
限界利益とは ~利ざやを示す利益指標~
さて、今回のテーマの限界利益ですがなんとなくイメージし辛いですよね…。字面からすると「これ以上稼げません!」という能力の限界を表すように感じられますがそうではありません。この言葉の意味を理解するには語源となった英語から考えてみる方が良いかと思います。
英語で限界利益は「marginal profit」です。profitは「利益」という意味なので、問題は「margin」の意味です。marginには「余裕・余白」という意味がありますが、「売り買いの差額=利ざや」という意味があります。商売において売り買いの差額=売上-仕入というのは最も基本的な利益ですよね?この最も基本となる利益という概念を表す言葉が「限界利益」です。marginal profitという言葉が日本に入ってきたとき、これを訳す学者さんは困ったことでしょう。恐らく、marginalという言葉のニュアンスをひとことで上手く表現出来る日本語が無かったので、悩んだ末に「限界」という日本語をmarginalの訳として当てたのでしょう。
では、限界利益はどのように求めるのでしょうか?言葉自体の分かり辛さとは裏腹に計算自体はシンプルです。
限界利益=売上高-変動費
上記の式で求められます。変動費が仕入しかない場合は非常にシンプルです。例えば八百屋さんの今日の売上が10万円で野菜を市場で仕入れてきた費用が6万円だとすると限界利益は10万円-6万円=4万円です。
非常に分かり辛い概念ですが、まずは難しく考えず「限界利益という言葉がある」ということと「売上高-変動費で求められる」ということだけ覚えておいていただければOKです。
限界利益が出ていない=商売が成り立っていない ~限界利益を見ることで受注の意思決定が出来る~
冒頭で限界利益のことを「重要な指標」と書きましたが、限界利益を見るとある重要なことが判断できます。ある重要なこととは…
「商売が成り立つか成り立たないか」です。
どういうことかと言うと、上で説明したように限界利益とは売り買いの差額=最も基本的な利益のことです。ということは、もし限界利益がマイナスの状態であったら、売値よりも買値が大きいということなので、商品を売るたびに赤字が拡大します。私たちは利益を出すために商売をしているので、商品を売るたびに赤字が拡大するのであれば、その商売は即刻止めた方が良いということになります。
八百屋さんの例で説明すると、八百屋さんが1つ100円で売っているレタスの仕入れ値が1つ120円に高騰したら、限界利益は100円-120円=-20円になってレタスが売れるたびに赤字が増えるので、レタスの取り扱いは中止した方が良いということです。現実的にはレタスを値上げして限界利益のマイナスを防ぐとは思いますが、値上げが出来ない状況であれば即刻撤退です。
このように限界利益というのはその商売が成り立つか成り立たないかという最も基本的かつ重要なことを判断する基準になりますので、是非覚えておいて下さい。
限界利益=粗利益? ~限界利益と粗利益は別物です~
少し余談ですが、限界利益のことを粗利益と同じものだと理解されている方もいると思いますが、これは半分当っていて半分違っています。同じものの場合もあると言った方がいいでしょうか?
「利益の種類」の記事でも説明はしましたが、粗利益とは売上総利益のことを指します。売上総利益とは売上から原価(売上原価)を引いたものです。そして、ここが厄介なのですが、この原価の中に製造業の会社の場合は労務費や減価償却費という形で製造に関わる固定費が含まれています。
限界利益は売上高-変動費なので、この場合計算式が違ってしまいます。ですので、売上原価に固定費が含まれている場合は限界利益=粗利益とはなりません。ただし、小売業の場合は売上原価=仕入等の変動費のみになるケースが多いので、その場合は限界利益=粗利益となります。
「売上原価に固定費が含まれていたら限界利益≠粗利益」「含まれていないなら限界利益=粗利益」と場合分けをして考えるのも、混乱してしまうと思うので、この機会に「限界利益と粗利益は別物」という認識を新たに作ってもらうのも良いでしょう。
(Toyama Suguru)
中小企業診断士事務所 マスタープランズ・コンサルティング代表
中小企業診断士。経営コンサルタントとして中小企業の経営コンサルティングを行っています。また、企業や商工会議所などでセミナー・講演会活動も行っています。著書:「小さな会社はまず何をすればいいの?~新米社長岡崎の10の物語~」
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