【連載記事 事例 サウスウエスト航空】 航空業界の異端児#06 お金を掛けずに顧客満足度を上げろ

サウスウエスト航空のビジネスモデル研究 サウスウエスト航空

サウスウエスト航空は機内食無し、指定席無し、ファーストクラスやビジネスクラス無しでサービスが簡素化されていますが、それでもかなり高い顧客満足度を得ています。今回は高い顧客満足度を生み出しているサウスウエスト航空のユニークな機内サービスがテーマです。

機内アナウンスで乗客を楽しませろ

低価格を実現するために、サービスを簡素化しているサウスウエスト航空ですが、その顧客満足度は高く、過去に何度も北米エアラインの顧客満足度調査でLCC部門1位を取っています。

内山:「サービスを簡素化しているのに何で顧客満足度が高いんだろう?」

サウスウエスト航空が高い顧客満足度を得ている秘密の一つにユニークな機内アナウンスがあります。YouTubeに面白い動画が上がっていたので紹介します。

内山:「え?何これ???」

岡崎:「『本職のラッパーか?』っていうぐらい上手いよな」

内山:「サウスウエストではラップで機内アナウンスするんですか?」

いや、たまたまこの人がラップでアナウンスしていただけで、全員がラップで機内アナウンスするわけじゃないと思いますが、このようなユニークなというかふざけた機内アナウンスがサウスウエスト航空の名物です。他にもこんなものもあります。

もし1、2分ご清聴頂けるようでしたら、ぜひともこれから安全上の手続きをご説明したいと思います。65年以来一度も車に乗られたことのないお客様、シートベルトの平らな方をもう一方のバックルに差し込むのが正しい締め方です。外すときはバックルを上に押し上げて下さい。

また、歌によりますと恋人と別れる方法は50通りもあるそうですが、この飛行機と別れる方法は6通りしかありません。2つは前部の出口、2つは翼の上の可動式の窓、それに後部の2つの出口です。それぞれの出口の位置は、頭上のサインと、通路の床に点滅する赤と白のディスコ・ライトで示してあります。

それではお客様の前の座席の背のポケット、ラウンジエリアにいらっしゃる方は座席の横のポケットをご覧ください。ピーナッツの包み紙、コーヒーカップや新聞に紛れて、緊急時にどうするか詳しく説明したカードがございます。その裏表紙をご覧いただくと、海上脱出の際には、お客様のお尻……の下の座席の底が浮き輪になると書いてあります。クッションを外し、裏側についているストラップをしっかりつかんで、クロールでも平泳ぎでもご勝手になさって下さい。

今度はシートベルトがしっかり締められているか、座席の背中とトレーのテーブルがまっすぐ、かつ最も居心地の悪い位置にあるか、そして持ち込まれたお荷物が、前の座席の下か座席の上の棚にぎゅうぎゅうに突っ込まれているか、ご確認くださいませ。連邦航空局の規則で、乗客の皆様は乗客向けの表示ランプ、掲示物、それに乗務員の指示に従わなければならないことになっております。つまり、私たちの言うとおりにするんですよ!

喫煙については、当社のフライトはすべて絶対禁煙になっております。もしお客様が喫煙していらっしゃるのが見つかったらどうなるか、ご存じですね?翼の上に出ていただき、そこで当社のとっておきの映画『風と共に去りぬ』をお楽しみ頂くことになっています。全面禁煙トイレの中でも禁煙をお願いいたします。

最後にもう一つ。客室内で気圧が変わることはないと思いますが、万一そうなりましたら、酸素マスクが4つお客様の頭上から現れます。即座に絶叫するのをやめてコインを入れ、酸素を吸いこんで下さい。昔のクリントン大統領のように、吸い込まないのはいけませんよ。
もしお隣がお子さんだったり、お子さんのような行動をしている大人の方でしたら、まずご自分にマスクをつけてからお隣さんを助けて下さい。そして制服着用の客室乗務員に言われるまで、マスクは外さないで下さい。そう、これでも私たち、制服を着てるんですよ。念のため申し上げておきますと、バッグは膨らみませんが酸素はちゃんと出ています。それではゆっくりくつろいで、サンディエゴまでの1時間、宇宙で一番の航空会社-サウスウエスト航空のフライトをお楽しみ下さいませ。

お客様に『破天荒なサービス』 を提供できますよう、私たちサウスウエスト航空は日々努めてまいります。

(引用元:『破天荒 サウスウエスト航空驚愕の経営』ケビン&ジャッキー・フライバーグ著 1997年日経BP社)

内山:「結構きわどいジョークをぶち込んできますね。『昔のクリントン大統領のように…』とかアウトだと思うんですけど…」

でも、面白いですよね?

内山:「はい。こんなアナウンスが聞けると思うと乗るのが楽しみになりますね」

お金を掛けずに工夫して顧客満足度を上げる

岡崎:「この機内アナウンス目当てでサウスウエスト航空を利用する人も多いみたい。ある種のショーだからな。で、注目すべきは、このサービスにはお金が全く掛かっていないってことだな」

内山:「そうか。別に芸人が話しているわけじゃなくて、客室乗務員がやっているんですもんね」

お金を掛けていないことも注目すべきですが、「機内アナウンス」という事務的作業をサービス化・エンターテイメント化してしまった発想も凄いですよね。「利用出来るものは常識に囚われずに何でも利用してやろう」というサウスウエスト航空の貪欲な姿勢が感じられます。

内山:「サウスウエスト航空は常識に囚われない発想と創意工夫で『お金を掛けなくても工夫次第で顧客満足度は上げることが出来るんだぞ!』ってことを証明してみせましたね。

それに、このようなサービスであれば他社がまねをしようとしても簡単にはまねが出来ないですからね。差別化をするという意味でも非常に有効だと思います。

徹底的にやり切るから許される

内山:「だけど、面白いとは言っても、こんなアナウンスしていたらクレームも出るんじゃないですか?」

岡崎:「そりゃ不愉快な思いをする人もいるだろうね。だけど、ここまで徹底的にやり切られたら逆に『おかしな会社だからしょうがない…』って割り切れない?」

内山:「確かにそうですね。最初は戸惑っても、ここまでやられたら『楽しんでやろう』って思うかも…。もしそうじゃなかったとしても『こんな会社の飛行機に乗った自分が悪い』って変な納得をしてしまうかもしれないですね」

恐らくサウスウエスト航空が中途半端にこんな機内アナウンスをしていたらクレームの嵐になって、顧客満足度は低くなっていたでしょうね。正直、こんな機内アナウンスをするのは会社としても乗務員個人としても相当な覚悟がいると思うんです。だけど、会社も乗務員も腹を括って本気でやったから、それが評価されて高い顧客満足度に繋がった。

そういう意味では、サウスウエスト航空の高い顧客満足度は会社と従業員のやり切る覚悟の報酬として得られたものなのかもしれませんね。