【クロネコヤマト編】物流業界のイノベーター(全10章)

クロネコヤマトのビジネスモデル 連載記事

第1章 クロネコヤマトのビジネスモデル

「クロネコヤマトの宅急便」で有名なヤマト運輸。宅配便の分野では誰もが知っている有名企業です。今回の連載記事では、そのヤマト運輸をテーマにしていきます。第1回目の今回はクロネコヤマトがなぜ選ばれ?どのようにして収益を上げてきたのかを考えていきたいと思います。

クロネコヤマトが提供する価値

今回から新連載開始です。今回のシリーズのテーマとなる企業はヤマト運輸です。

岡崎:「クロネコヤマトの宅急便だな」

内山:「みんな必ず一度は利用したことがある会社ですね」

そうです。宅配便の分野では国内トップの会社ですね。2人も利用していますか?

岡崎:「うん。荷物送りたい時はお願いしてるよ」

内山:「僕もです」

ちなみにどうしてクロネコヤマトを使っているんですか?他にも宅配便の会社さんはいくつかありますけど。

岡崎:「時間に正確ってイメージがあるからな。お願いした時間にきっちり届けてくれるから助かるよ」

値段に関してはどうです?他社と比べると少し高いかなという印象があるのですが…。

内山:「それは僕も感じますけど、その分しっかりと時間通りに運んでくれるのでそんなに気にはならないですね」

なるほど。ということは、クロネコヤマトの価値は「時間」にありそうですね。「荷物を早く届けてくれる」「希望の時間に届けてくれる」などの時間に関するメリットを私たちに提供してくれるから少々値段が高くても選ばれると言えそうです。

今では多くの会社がクロネコヤマトと同様のサービスを提供していますが、日本で最初に宅配便というサービスを開始したのはクロネコヤマトです。他社と比較すると運賃は高めですが、それでも宅配便のシェアで国内トップを維持しているということは、そのサービスの質が評価されて「時は金なり」と考える人にうけているということなのでしょうね。

高効率の物流システム

クロネコヤマトのように「時間」を売るビジネスモデルの会社は世の中に多くありますが、このビジネスモデルには落とし穴もあります。

内山:「落とし穴ですか?」

はい。時間を売るビジネスモデルの場合はオペレーションの仕組みをしっかりと作り込まないと効率が悪くなって収益性が悪化するということがあるんです。無理やり力業で短納期の仕事をして、収益が悪化したという話を聞いたことはないですか?

岡崎:「俺の知り合いの会社でそんなことあったな。お客さんからの短納期の依頼に無理やり応えていたら、残業時間が増えたり、人の数が増えたりして結局儲からなかったらしい」

落とし穴はもう1つあります。クロネコヤマトが取り扱っている荷物は基本的に小口のものです。これも心当たりがあるかもしれませんが、小口の仕事、所謂小ロットと呼ばれる仕事をする場合も、オペレーションの仕組みが上手く出来ていないと儲かりません。

内山:「小ロットの仕事は手間が掛かりますからね」

納期が短いだけでも大変なのに、扱う品物のロットも小さいとなるとさらに大変です。そこで、クロネコヤマトは高効率の物流システムを作り上げることでこの問題を解決しました。

クロネコヤマトのビジネスモデル

簡単にここまでの話をまとめると、クロネコヤマトは「高効率の物流システムを使って効率よく荷物を捌くことで、時間という価値を提供する」というビジネスモデルで収益を上げてきたと言えます。

今回のシリーズでは具体的にクロネコヤマトがどのようなことをやっていて、なぜこのようなビジネスモデルを成り立たせることが出来てきたのかを考えていきたいと思います。また、シリーズの後半では今のクロネコヤマトが抱える課題についても触れていければと思います。

第2章 クロネコヤマトの歴史

最初は普通の運送業

クロネコヤマト編の本格的な内容に入る前に今回はクロネコヤマトがなぜ宅急便という事業を始めたのかを知るために、クロネコヤマトの歴史について触れておきたいと思います。

内山:「クロネコヤマトって最初から宅急便をやっていたわけじゃないんですか?」

はい。クロネコヤマトは最初から宅急便事業を行っていたわけではありません。最初は大和運輸という社名で1919年に創立し、百貨店の三越の商品をお得意様に配送する事業や、一般の陸運会社と同じように路線トラックで商用の荷物を運んだりしていました。

個人向け小口輸送へのビジネスモデルの転換

戦前に創立された大和運輸ですが、戦後になると日本の経済発展と道路網の発達で陸運需要が増加したことに伴い、業務を拡大させていきます。戦前からメインだった百貨店事業に加えて、通運事業への参入やトラック輸送の拡大も行い、いわゆる「総合物流業」への道を歩み始めました。ちなみに、皆さんお馴染みのクロネコのマークですが、あれはこのころから使われ始めたようです。

岡崎:「今でいうところの日本通運のような会社を目指していたわけだな」

そうです。当初は順調だった総合物流業への道ですが、1970年頃になると暗雲が立ち込めるようになります。まず最初に陰りが見えてきたのは通運事業です。

内山:「あの…。通運って何ですか?」

通運とは、鉄道輸送を行う際にお客さんのところから鉄道駅まで荷物を運ぶ事業のことを言います。今は規制緩和で廃止されましたが、昔は通運業の免許というものがあって、免許を持っている会社しか通運業は出来ませんでした。今でも〇〇通運という会社が多くありますが、あれはその頃の名残です。

内山:「なるほど。で、話を元に戻すと、何で大和運輸の通運事業は陰り始めてしまったんですか?」

鉄道輸送を担う国鉄の業績が悪化してきたからです。もともと国鉄は労働争議の問題があったり、経営効率が悪かったりで業績は良くなかったのですが、1960年代の後半になると高速道路や航空機との競争も激しくなり、業績はさらに悪化します。大和運輸はその煽りを受けたんでしょうね。

次に打撃を受けたのは、創立期からの主要事業の百貨店事業です。これはオイルショックの影響です。やがて長距離のトラック輸送事業も業績が悪化します。

岡崎:「トラック輸送事業の業績が悪化したのは何でだ?」

それは、大和運輸は長距離トラック輸送については後発組だったため、上手く荷物を集められなかったことが響いたようです。

このように、次々と各事業の業績が悪化したため、大和運輸は業績を回復させる道を探ります。そして、目を付けたのが個人が発送する小口の宅配荷物。後に「宅配便」と呼ばれることになる分野です。

宅急便誕生

内山:「だけど、何で個人の宅配荷物に目を付けたんですかね?」

まず、小口の荷物は単価が良いですからね。法人の大口の荷物は数が出る分単価も安くなってしまいます。荷物を出す家庭の奥様は法人ほど値切らないですしね。

他にも現金商売だということも魅力の1つだったようです。

岡崎:「なるほど。現金で運賃が支払われるから資金繰りの面でも魅力があったわけか…」

あとは、当時は競争相手がほとんどいないというのも目を付けた理由の1つです。当時は個人の荷物を請け負うのは郵便局ぐらいしか無かったですからね。

内山:「売値も支払い条件も良くて、競合もいないなら魅力的ですね。だけど、だったら今まで何で他社は宅配事業をやらなかったんですか?」

それが個人の宅配荷物には大きな問題があるんですよ。

個人の宅配荷物は運賃は良いですが、法人が出す荷物と違って「いつ・どこで・どれくらいの荷物が出るか」が決まっていません。物流の世界では定時・定量が効率が良いとされていますが、全く真逆の状態です。つまり、個人の荷物は効率が悪いってことです。だから、他の会社は手を出さなかったんです。

岡崎:「だけど、大和運輸はその問題をクリアして宅急便を始めたと…」

そういうことです。どんなことをしたか詳しい話は次回以降しますが、効率の問題をクリアして大和運輸は1976年にまずは関東地方を対象に「宅急便」のサービスを開始しました。
そして、宅急便は成功し大和運輸も商号をヤマト運輸に変更します。

ちなみに、「宅急便」というのはヤマト運輸の商標名です。個人向けの小口荷物の配送サービスの一般名称は「宅配便」と言います。

内山:「『バンドエイド』や『キャタピラー』と同じですね」

だから、佐川急便さんや日本郵便さんに「宅急便をお願いしたいのですが」と言ってはいけません。これは佐川急便さんや日本郵便さんに「宅急便をお願いします」というのは「ヤマトさんで送っておいて下さい」と言うのと同じ意味です。

岡崎:「また屁理屈を…」

ま、これは冗談ですけどね。

内山:「そういえば『魔女の宅急便』って映画ありますよね?あれも『宅急便』って付いているってことはクロネコヤマトと何か関係があるんですか?」

岡崎:「おお、それ気になる。クロネコも出てくるしな」

そのあたりの話はちょっとした逸話があるので、自分で調べてみてください。グーグル先生かウィキ先生に聞いたら分かると思います。

第3章 クロネコヤマトの物流ネットワーク

第3章のテーマはクロネコヤマトの「物流ネットワーク」です。宅急便を支える効率的な物流ネットワークはどのようになっているのかということについて考えていきたいと思います。

岡崎:「宅急便を支える根幹の部分の話だな」

多層構造のハブアンドスポークで効率的に

宅急便を開始するに当たって、ヤマト運輸は前回説明した宅配荷物の効率性の問題点を解決するために物流ネットワークを構築します。このネットワークは「B-C-Dネットワーク」と呼ばれ、宅急便の中核を担っています。

内山:「B-C-Dって何ですか?」

「B」は「ベース」の略称で、各都道府県に最低1か所は置かれる物流拠点のことです。
その次の「C」は「センター」でベースの下に置かれる拠点のことです。支店のようなものをイメージしてもらえると分かり易いかと思います。
最後の「D」は「デポ」でセンターの下に置かれる営業店や取次店(代理店)です。

さて、これらそれぞれの拠点がどのような役割を担うのかというと、まず各家庭から集荷された荷物は一旦デポに集められ、そこからまとめて地域のセンターに送られます。

センターでは所属するデポからの荷物をまとめてベースに送ります。ベースではセンターから送られてきた荷物をまとめて他県のベースに送ります。荷物を受け取った他県のベースはそれを仕分けして集荷の時と逆の流れで各家庭に荷物を配送します。

内山:「そうやってベース・センター・デポが連携して荷物のやり取りをするからB-C-Dネットワークなのか」

ちなみにこのように「拠点に物を集めて、まとめて輸送することで効率を上げる方式」のことを何と言ったでしょうか?

岡崎:「『ハブアンドスポーク』だろ?」

そうです。以前サウスウエスト編でも少し説明しましたね。

内山:「あの時はサウスウエスト航空は敢えてハブアンドスポークの逆をやることで成功したという話でしたね」

サウスウエスト航空の事例についてはこちらの記事に書いてあるので、興味があれば読んでみて下さい。

【サウスウエスト航空】航空業界の異端児(全7章)
皆さんはサウスウエスト航空という航空会社をご存じでしょうか?日本では見かけることの無い航空会社ではありませんが、経営の世界ではとてもユニークな航空会社として有名です。今回の連載ではこのサウスウエスト航空を題材として取り上げてみたいと思います。

さて、話をヤマト運輸に戻すと、ヤマト運輸はそのハブアンドスポークを「ベース-センター間」「センター-デポ間」といった多層構造で行うことが出来る物流ネットワークを作り上げることで、それまで効率が悪いとされていた少量の荷物を効率的に運ぶことが出来るようになりました。

現在の物流ネットワーク

内山:「今でもヤマト運輸はB-C-Dネットワークを使っているんですか?」

拠点の名称は変わっていますが、今でも基本的なシステムは同じです。今の物流ネットワークについて説明しておくと、まずベースとなる拠点として「ゲートウェイ」という巨大物流施設が関東・中部・関西に設置されています。そして、そのゲートウェイの下にはセンターとなる「ターミナル&倉庫」が置かれており、その下に「営業所や取次店」が置かれるという構造になっています。

岡崎:「ゲートウェイってまた派手な名前だな」

派手なのは名前だけじゃないですよ。詳しくは別の機会に説明しますが、中身もすごいです。ゲートウェイが出来たおかげで、幹線物流も変わりました。巨大なフルトレーラーを使った多頻度の大量輸送が可能になりました。

内山:「フルトレーラーって大型トラックの後ろにもう1台荷台を連結した電車みたいなトラックのことでしたっけ?」

そうです。高速道路を走っているとたまに見かけますよね。あれを使えば、従来の2倍の荷物が運べます。ドライバーさんの人数は変わらないので、規模の経済が働いて幹線の輸送費が一気に下がります。

フルトレを使った輸送と言えばもう一つ面白い取り組みをヤマト運輸は始めました。

岡崎:「何?」

他の事業者との共同輸送です。西濃運輸・日本通運・日本郵便などの荷物も一緒に積んで効率的な輸送を行おうという取り組みをやっています。

内山:「西濃・日通・日本郵便ってヤマトの競合ですよね?」

まあ、そうですね。皆さん宅配事業やってますからね。でも、そこは手を組んで効率化を目指そうってことでしょうね。他の業界でもライバルだった会社と提携して新たな戦略を描くなんてことは普通にやっていますし。

岡崎:「そうやって物流ネットワークをさらに進化させてるんだな」

第4章 セールスドライバーと取次店

ハブアンドスポークシステムで効率的な物流ネットワークを作り上げたヤマト運輸ですが、物流ネットワークを作り上げても、そこに荷物が無ければ意味を成しません。では、ヤマト運輸はどのようにして、お客様から荷物を集めているのか?ということで、今回はヤマト運輸の「営業活動」にフォーカスしてみたいと思います。

ドライバーが一番の営業マン

宅急便を始めるに当たってヤマト運輸はハブアンドスポークの効率的な物流システムを作り上げたわけですが、それだけではまだ十分ではありません。もうひとつやらなければいけないことがありますが、それは何でしょうか?

岡崎:「荷物を集めるための営業だろ?」

そうです。物流ネットワークが出来ても、荷物を出してくれる人がいなければ意味は無いですからね。さて、そうなると営業マンに各家庭を回らせて、「ヤマト運輸と申します。小口の宅配荷物を配送致しますので、今後何かお荷物を出すことがあれば宜しくお願い致します」とやらなければいけないのですが、これはこれで大変です。

内山:「そうですね。個人宅を一軒一軒周るとなると、営業担当の人員が大量に必要になりますからね」

何とか効率的に営業活動が出来ないか考えたヤマト運輸はあるユニークな方法を思いつきます。

内山:「ユニークな方法って何ですか?」

荷物を運ぶドライバーさんを営業マンにしました。

岡崎:「なるほど。ドライバーさんなら人数も揃ってるし荷物を届けるときにお客さんと顔を合わせて会話も出来るからちょうどいいな」

はい。各家庭を回ってお客様との接点も多いドライバーさんが営業活動を行ってくれれば、人員配置も効率的で営業も効果的です。ヤマト運輸のドライバーさんは営業を行うドライバーということで「セールスドライバー」と呼ばれています。

セールスドライバーの営業活動

内山:「だけど、営業っていうわりにはそんなにガツガツ営業掛けてくる印象は無いですよね?愛想は良いと思いますけど」

岡崎:「それが良いんじゃない?緑色の制服を着たドライバーさんが、愛想よく丁寧に対応してくれたら『またお願いしよう』ってなるでしょ?」

そうですね。意外とそういうさりげない態度をお客様は見てますし、そういうところが大切だったりしますからね。つまり、ヤマト運輸のドライバーさんはお客様への丁寧な対応を積み重ねることで営業活動を行っているってことです。

取次店の存在

ヤマト運輸の営業に関しては「取次店」の存在も大きいです。

内山:「取次店って何ですか?」

取次店とはヤマト運輸に配送をお願いする荷物を預けるお店のことです。代理店みたいなものだと思ってもらえればいいです。

岡崎:「身近なところだとコンビニだな」

そうですね。今はコンビニがその機能を担っていますね。この取次店の制度ですが、宅急便がスタートした当時からありました。セールスドライバーさんだけでは限界があるので、外部のリソースも活用したわけです。

岡崎:「昔は今ほどコンビニが無いから、街の酒屋さんや米屋さんが取次店になったりしてたよな」

内山:「そういえば、酒屋さんとか米屋さんの前に看板出てましたね。懐かしいな~」

酒屋さんとか米屋さんのように町内に必ずあるような店が取次店になってくれれば、町内の皆が周知しますからね。それに、酒屋さんや米屋さんは定期的に利用されるので、ヤマト運輸は取次店を通じて間接的にお客様との接点を得ることが出来ます。

岡崎:「酒屋のおばちゃんに『クロネコヤマト使ったら便利だよ~』って言ってもらえれば、さりげなく宣伝も出来るしな」

こうやって、お客様との接点を増やしながらヤマト運輸は営業力を強化していった訳です。

内山:「セールスドライバーにしても取次店にしてもヤマト運輸はお客さんとの接点を見つけるの上手ですね」

ヤマト運輸の営業力の強さはお客様との接点を見つける力にあるのかもしれませんね。